第七話 自己紹介
すみません! 更新遅くなりました!
この世界での生活を始めるにあたって、まずは自己紹介をすることになった。
『俺の名はヴォルム=シャーカー。ほとんど人間だが、遠いところで鮫の獣人の血が入ってる。今はここで捨て子を拾っては育てて暮らしている』
いきなりそう話したのは赤毛の男。
現時点で俺と話すことのできる唯一の人物だ。
外見的な特徴が見受けられないので分からなかったが、どうやら鮫の獣人の血が入っているらしい。
というか、この世界には「獣人」なるものが存在するのだな。
それも、俺の知っている獣人よりも幅が広く、その特徴は陸上生物にとどまらないようだ。
いつかケモミミっ娘に会ってみたいものだ。
「あう。ううあうあ……(じゃあ次は俺の番だな。俺の名前は……)」
……俺の、名前は……?
俺は、大学を辞めてバイトも辞めて、トラックに轢かれた……誰だっけ?
いくら思い出そうとしても、自分の名前が出てこない。
どころか、散々鏡で見た顔も、喋る度に聞こえていた声も思い出せない。
自分に関する記憶の一部が、抜け落ちてしまっているようだ。
知っているはずのことが思い出せないという状況に焦り、どうしたものかと考えていると、そんな俺の様子を訝しげに見ていたヴォルムが口を開いた。
『どうした? 自分の名前が分からなくでもなったか?』
ヴォルムはそんなことないだろうと茶化すように言っているが、実際はまさにその通りで、咄嗟に偽名を名乗ることも考えたが、上手い具合にそれっぽい名前が思いつくことはなかった。
つまりは覚えていないと伝えるしかない。
「うう、ああうああうあう。ううあうあううあ(ああ、あんたの言う通り名前が思い出せない。顔も声も分からなくなってるみたいだ)」
冗談が冗談ではなくなってしまって、ヴォルムもいくらか驚いていたようだが、すぐに真剣な表情になると転生についての説明を始めた。
『いいか、転生ってのは、肉体が死んだ時に離れた魂が何らかの干渉を受けて別の肉体に宿ることを指すんだ。それは今のお前と同じように異世界に飛ばされることもあるし、場合によっては同じ世界で転生することもある。で、その何らかの干渉を受けた時や、世界を渡った時に魂には大きな負荷がかかるんだ。それで転生者ってのは記憶がなくなっていることも少なくない。酷い奴だと転生したのに言語すら忘れているくらいだ。だからお前が名前を思い出せなくてもそれは不思議なことじゃないしまだ軽症な部類だ。あんまり気にすんなよ』
何か壮大なことを言っていたが、俺はその話を理解した上で変に動揺したりはしなかった。
これも魂に負荷がかかった影響だとするのはさすがに早計か。
「あう、あうあうあうあ?(じゃあ、俺は何て名乗れば良いんだ?)」
一旦、名前が思い出せないことについては納得したのだが、だからと言ってそこで話を止めるわけにはいかない。
これから先、名乗る名前がないというのはきっとまずいだろう。
この身体の元の持ち主の名前を名乗ってもいいのだが、それが分からない上、貴族なんかだったら後々問題が起こるに決まっている。
『そうだな、ここに住んでる奴らは極力身元を洗って元の名前から家名を抜いてるんだが、お前の身体の身元がいまいち分からない。多分お偉いさんの隠し子とかで捨てられたんだろう、変えた方が良いよな』
この身体の身元は不明か。
捨てられて魂が死んだなんて、ロクな人生じゃないな。
『じゃ、そんな時の通例通り、俺が名付けるとしますかね』
「あう、ううあ(お前のセンス、大丈夫なんだろうな)」
ヴォルムは無言でニカっと笑うと、大げさに息を吸い込んで大きめの声で名前を発表した。
『お前の名はスマル。スマル=シャーカーだ。俺と同じ家名を名乗るからにはその名に恥じないような行動を心がけるのだぞ』
無駄に仰々しくそう言ったヴォルムは名付けに満足しているようでこれまた大袈裟に、頷いているのだが、呼ばれ慣れない名前にどこかしっくり来ていない俺を置いて一人で盛り上がるなと言いたいところであった。
しかし、名付けてくれたこと自体には感謝をしている。
自分で名前を決めても良かったのだが、俺はこの世界のいわゆるキラキラネームがどんなものなのか分からないし、ポピュラーな名前が何なのかも知らない上、そもそもネーミングセンスがない。きっと俺が考えていたら日本人的なセンスからしても、この世界のセンスからしても、それはないだろうという名前になっていたことだろう。
その点、スマルという名前はこの世界ではどんな評価を受けるかはさておき、日本人的なセンスを持った俺からすると結構良い名前なのではと思う。
少なくとも違和感や痛々しい感じはしない。
何か問題が起きない限りはこの名前で生きていくとしよう。
そんなこんなで俺の名前が決まったわけだが、未だに決まっていないことはたくさんある。
ヴォルムから教わることや、他の子供たちとの関わり方などだ。
子供たち問題は、魂の性質が肉体に定着して安定する際に肉体に寄ったことで子供たちと一緒にいても苦ではなくなったことで簡単に解決したのだが、ヴォルムから教わることがなかなか決まらない。
まずはこの世界の言語や文化、地理や歴史、勢力などを教わろうと思っているのだが、ある程度動けるようになったら武器を使った戦闘術や魔術を習ってみたい。
まだ少し先のことであるから早急に決めなくてはならないわけではないのだが、いきなり実技に入るより、先に理論を教えてもらえるならその方が良いだろう。
魔術を習うなら特にその傾向が強そうだ。
どちらを習うことになっても楽しみである。
今週丸々、家を空けるので来週の更新は厳しそうです。
出来たら日曜日に上げますが、無ければその次の週になると思っていてください。