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第六十二話 がっかり

 反撃開始、と言ってもまだ向こうの攻撃は一撃しか繰り出されていないわけだが、その一撃を受けた時点で俺はこの模擬戦に対するやる気をだいぶ失ってしまっていた。

 そんな俺の内心を知れば多くの人が自分から申し込んでおいてそれはないだろうと思うだろう。

 俺も自分ではなかったらそう思っているに違いない。


 ではなぜやる気を失ったのか、それは単純にこの模擬戦を行う目的を果たしたからだ。

 俺が手合わせをしたいと願ったのは、コウスケたちにも伝えたが勇者と戦って自分がどれくらいの力量なのかを測りたかったからである。

 それに関しては――戦う前から分かっていたようなものだが――今の一撃でほぼ完璧に把握できたのだ。

 できてしまったのだ。


 正直に言って、彼らは弱い。底が浅い。

 十年以上にわたる修行の中で相手の実力を測る技能を磨いた俺が言うのだから間違いない。

 勿論、勇者という大役を任されているだけあって基礎的な身体能力やポテンシャルという面ではすさまじいものを持っているが、それの使い方というのをまるで分かっていない。

 心構えというものが一切作れていない。


 地の力が強いものほど技を疎かにするというのは何をするにおいても言える話であるが、彼らはまさにその典型。

 今までロクな苦労をしないまま、強い強いと周りに持て囃されてきた姿が容易に想像できる。


 攻撃を防がれただけで驚いているコウスケも、それを見てから前に出たブルーも、一歩も動いていないエルも、詠唱に必死なユウカも、未だに俺を狙える位置にいないレイジも、全てがこれまでの怠慢の産物だ。

 このまま冒険を続ければどこかで取り返しのつかない事態になるだろう。


 この模擬戦が始まる前、俺は誰もケガをしないように終わらせるつもりだった。

 だが、こんな酷いものを見せられては考えを変えざるを得ない。


 俺は剣をはじいたことで無防備になったコウスケの腹部に篭手を纏った腕をそのまま叩き付けた。

 それなりに力を入れて殴ったため、コウスケの身体は大きく後ろに飛ばされる。

 コウスケという弾丸は、せめてもの連携なのか俺と後衛との間を走っていたブルーに向けて飛んで行き、その盾によって受け止められた。


 すかさずエルが回復魔術の詠唱を始め、唯一俺との間に障害物のないレイジが魔力銃で攻撃をしてくるが、単調に俺を狙って飛んで来るだけの銃弾が俺に当たるはずなく、エルの頭上に描いた魔法陣から水をかけて妨害してやれば、その詠唱はそれだけで中断されてしまった。


 この時、さすがにユウカの詠唱は完了していたが、俺との間にブルーとコウスケがいるせいで魔術を放つことができない。

 依然としてレイジは銃弾を撃ち込んでくるが、それが当たることはまずなかった。


 盛り上がっていた観客も勇者たちが押されていることに勘付き始めるとともに静かになって行った。

 それから疑念と困惑が広がり、ざわつく観客たちはその音量を大きくする。

 一体あいつは何者だ。

 どうしたんだ勇者。

 何が起こっているんだ。


 ただ漠然と強いものとして信じられていた勇者たちは、模擬戦開始から一分にも満たない時間の中で、その信用を失いかけていた。


「どうしたよ。こんなもんか?」


 俺は一旦足を止めて、煽るように訊く。

 いきなり全力でかかっては来なかった彼らに、全力を以って向かって来てほしいからだ。

 もっと言うなら、その全力を真っ向から叩き潰してやりたいからだ。


 勇者と呼ばれるからには魔王なり何なり、強大な敵を相手取る使命を背負っているのだろう。

 だが今のままの実力で挑んだら、確実に失敗する。

 俺がこんなことをしてやる義理はないが――と言うか何のためにここに立っているのかも良く分からなくなってきてしまったが――この模擬戦を通して彼らが自分たちの弱さを自覚してくれるように立ち回ってやろう。


「ぐ……まだまだぁ!」


 ダメージを負っているコウスケが立ち上がり、今度は下段に剣を構えながら突進してきた。


「光衝斬!」


 さすがに二回目ともなればただ剣を振るだけの攻撃とはいかないようで、篭手では防ぎきれない範囲に及ぶ光属性魔力を込めた斬撃を放ってきた。

 光衝斬は剣に溜めた光属性魔力を地面を抉るように振り上げた剣から放出させ衝撃波を発生させるという技であり、コウスケは俺からの反撃を警戒したのか少し離れたところから攻撃を仕掛けている。


 予備動作が小さく溜めも少ないため使い勝手の良い技ではあるが、初動でこの技を放たれても、俺がその攻撃をくらうなんてことはあり得ない。

 恐らく防ぎきれずに大きく避けることを狙っての攻撃なのだろうが、そう簡単に狙い通りに動いてやる俺ではない。


 簡易魔法陣を前方に展開し、障壁を張る。


 コウスケは何やら次の攻撃を準備していたようだが、俺の想定外の動きによって硬直してしまう。

 俺はそこにもう一発拳を入れてやろうかと腕を引くが、今度はちゃんと動いていたレイジの放った弾丸によって阻害されてしまう。

 この弾丸も俺を動かすための誘いのようで、俺の身体に全弾は命中しない狙い方をしていた。

 今度はその誘いに乗って大きく飛び退くと、案の定コウスケが準備していた攻撃が飛んできた。

 こんなもので連携のつもりなのだろうか。


「レイ・スピアー!」


 光属性魔力を込めた刺突。

 貫通力の高い技で当たると大怪我をするのだが、俺はそれを篭手で難なくはじく。


 コウスケは苦い顔をするが、そんなのはお構いなしに蹴りを入れる。

 コウスケは自分が攻撃されるという可能性を失念していたのではないかというほどに遅い反応で何とか防御を間に合わせるが、再び後衛がいるところまで飛んで行った。


 それに代わってブルーが前に出るが、コウスケとは違い自分から攻めに行くタイプの戦い方をしないのか、前に立つだけで何もしてこない。

 それにイラついた俺は一メートルほどある火球をブルーに打ち込み、それに隠れて接近したまま飛び蹴りを打ち込む。


 そのタイミングでユウカが雷属性魔術を撃ってくるが、レイジの弾丸同様当たらない。

 一緒にいたユウカとエルを二人の足元に展開した魔方陣から飛び出す鎖で拘束し、それを助けるつもりだったのか当たらない弾丸を打ち込んできたレイジに弾丸を反射したら、この時点で全員を無力化することができてしまった。


 場に一瞬の静寂が流れる。


「そ、そこまでっ!」


 微かにざわつく観客の声と、司会の男の声が場内に響いた。


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