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第六十話 交渉

 自己紹介が終わり、話の本題――手合わせについての話に移る。

 仕切り役は引き続き『武』の勇者コウスケが務めてくれるそうだ。


「……さてと、まず一つ確認だ。さっき自分の力量を測るために手合わせをしたいとかそんなことを言っていたような気がするが、それで合ってるか?」


 そう訊いてくるコウスケの顔からは俺のこと、ひいては俺たちのパーティ全員を信用していないことが見て取れた。

 過去に騙されたことがあるのか、それともこんな頼みをするのが非常識すぎて何か裏がないか探っているのか、はたまた別の理由か。

 なぜ頭ごなしに疑ってかかっているのかは俺たちの知るところではないが、現段階で手合わせを実現させることは難しそうである。


「ああ、それで合ってる」


 信用を失ってしまっては交渉どころではなくなるので変に嘘を吐くようなことはしない。

 だが、信用してもらおうと何でもかんでも訊かれていないことまで話すのも良いことだとは言えない。

 下手なことを言って印象を悪くしたり、無駄話をして論点をずらそうとしているのではないかと疑われたり、その他色々、まさしく口は災いの元というやつだ。

 極力訊かれたことに答えるだけで会話を進めよう。


「……そうか。他意はないな?」

「ない」


 俺の返事を聞いたコウスケは、黙り込んでしまった。

 何やら考え込んでいる様子。

 恐らく、俺たちのことは信用してくれているのだろうが、それを踏まえた上で手合わせ――つまりは戦闘行為をするのが有益なことなのかということを考えているのだろう。

 悩むのも分かる。確かに有益かどうかで言ったらただ戦うだけでは損でしかないのだ。


 こちらが提示できる勇者たちの利益となるものと言えば戦闘面でのアドバイスなどが挙げられるが、向こうからしたら実力の分からない俺にそんな提案をされても困るというものだろう。

 俺はその人のふるまいを見ていればなんとなく力量が分かるのでこの提案がいかに有益かということが分かるのだが、分かっていない五人に怪しまれないようこれを説明するのは正直なところ厳しいだろう。


 どうしたものかとコウスケや俺が長考に入ろうとしたその時、ソルガリア王国の第六王女エルが口を開いた。


「ところで、私たちと手合わせができるとして、あなたは誰を相手にするつもりなの?」


 予想外の場所からの質問に一瞬反応が遅れたが、俺はすぐにエルの言ったことに返答しようとした。

 だが、誰と指名する寸前で何も考えていなかったことに気付く。

 手合わせをしてもらうことに必死で他のことには一切気を向けていなかったのだ。


 答えが用意できていない問いに対して答えることはできない。

 必然的に俺は言葉に詰まってしまう。

 しかし、不用意に返事が遅いというのは相手の不信感を煽りかねない。

 と言うか絶対に怪しまれる。


 それだけは避けなければと焦った俺は、馬鹿なことを口走る。


「えっと、五人全員同時に……」


 エルやコウスケをはじめとする勇者パーティは勿論、仲間であるはずのモミジやユキでさえ「何言ってんだこいつ」とでも言いたげな困惑の表情を浮かべていたが、俺は既に――それらの顔を見る前から強い後悔の中にいた。

 本当に、何を言っているんだ俺。


「それ、本気で言ってる……?」


 若干蔑むような、呆れたような目を向けながら『技』の勇者レイジが俺に言う。

 正直に言ってしまえば本気で言ってなどいないのだが、それを白状すると今度は何故そんなことを言ったのかという問題になる。

 本気だと言っても正気ではないと思われるだろうし、この発言のせいでどう転んでも良い方向に進みようがなくなってしまった。

 軽率だった。


 悔やむに悔やみきれないが、俺はせめて言ったことは曲げまいと意気込み、


「……勿論、本気だ」


 と答えた。


 予想通りレイジは俺のことを正気の人間ではないと判断したのか可哀そうなものを見るような目を向けてきた。

 そのようなリアクションを取られることは分かり切ったことではあったのだが、やはり実際にやられると中々堪えるものがある。


 だが一つ言いたいのは、大多数の人が現実的でないと判断するであろうこの発言にもちゃんと現実味があるということだ。

 俺の見立てという主観的な根拠になってしまうが、この五人を同時に相手取っても俺は難なく戦うことができる。

 その自信がある。

 何ならそれを現実にするだけの力がある。

 そう断言できる。

 今肝心なそれを伝える力に関しては持ち合わせていないが、とにかく不可能などでは全くないと言いたいのだ。


 俺が冷ややかな視線を浴びながらも必死になってどう伝えようかと考えていると、意外な人物が声を発した。


「……そんなに、馬鹿なことだと思うなら、さっさと、ボコしちゃえば良い」


 何を躊躇っているのか分からないといった様子でそう言い放ったのは、ユキ。

 仲間をボコせと、なんの後ろめたさも感じることなく、さもそれが当然であるかのように、長いから早くしろと言うがごとく投げやりにそう言えてしまう人物の正体は、紛れもなくユキであった。


 その不満そうな顔からユキがこの時間をこの上なく退屈に思いながら過ごしていたということは理解できるのだが、それでもボコしちゃえば良いという言葉には不服を申し立てたかった。

 だって、そうだろう。どう考えても仲間に対して言う言葉じゃない。

 勇者パーティの面々も驚きを隠せないでいた。


 しかし驚いただけで案そのものは悪くないと考えたのか、


「確かに、それが手っ取り早くて良いかもしれないわね」


 とエル。

 完全に俺のことを下に見て現実を分からせてあげましょうという態度である。


「賛成。正気に戻してやらないと」


 レイジはどうやら俺の気がおかしくなっていると判断したのか、戦う意思と共に少しの正義感も目に宿していた。


 騎士ブルーと『知』の勇者ユウカは黙っていたがその様子は対極的で、ブルーが場の決定に従う――つまりは積極的に戦闘に参加する姿勢を見せている一方、ユウカはそもそも戦うことに関して積極的ではないのかあまり乗り気ではないようだった。


 こうなったらそう簡単に流れは変えられない。

 その要因が癪に障るものだったとしてもこれは俺が望んでいた展開だ。


「みんな乗り気っぽいけど、どうする?」


 最後の一押し。

 俺はコウスケを煽るように訊く。


 コウスケは数秒の沈黙の後、こちらを見据えて言った。


「分かった。五対一で良いんだな。訓練場があるから、そこでやろう」


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