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第五十三話 次へ

 何やら神様は悪趣味だ何だと考えていたように思うが、いつの間にか眠ってしまっていたようで、気付いた時には朝になっていた。

 寝起きで重い頭を起こし、あまり良くないことだと思いながらも目を擦る。

 ぼやけた視界のまま部屋の中を見渡すと、まだすやすやと眠っているモミジとユキの姿があった。

 フォールは俺が起きた気配を察知したのか眠そうに欠伸をしながらもこちらに歩いてきた。


 フォールは普段、甘えるようなことはしないが、寝ぼけているのか、それともモミジとユキが眠っているからか、今は俺のいるベッドまでやって来て頭を突き出してきている。

 俺はその頭に手を載せ、ゆっくりと撫でた。

 俺たち人間よりも体温の高いフォールから、じんわりと熱が掌を通して伝わってくる。

 それに加えいつも見せない可愛らしい行動に癒された俺は、起きたばかりだというのにまた眠気に苛まれていた。

 今日は街の観光をする予定だったが、このまま二度寝してしまっても良いかもしれない。


 人間は楽な方に転がりがちな生き物。これも仕方のないことだと再びベッドに身を投げ出すと、フォールが俺の手から離れ、モミジとユキを起こしに行った。

 上手に前足を使って優しく二人を揺すっている。

 そんな光景を見せられてしまっては俺が寝ているなんてことはできない。

 相変わらず賢い狼だと感心しながら、俺は意識を覚醒させた。



===============



 それから三日間、俺たちは観光という名の食べ歩きをしたり、お世話になった人たちに挨拶をして回ったりした。

 初日にギルド職員にアイルたちに伝言を頼んでおいたので、会えないなんてことにはならないかと思ったが、結局この街を発つ今日になっても、彼らに会う機会はなかった。


 荷物をまとめ、部屋に忘れ物がないかを確認し、俺たちは宿の一階に降りた。

 もう慣れてしまったものだが、甘ったるい花の匂いには未だに良い印象はない。

 匂いの元であるタバコのようなものを吸っているサニの母はだいぶ荒んでいるようで、タバコのような何かは手放せそうにない。

 残酷な話ではあるが、この匂いが残っている内はこの宿が繁盛することはないだろう。

 しばらくここに泊まった身としてはここがなくなってしまうのは悲しいので、俺たちにできることがあれば何でもしたいところなのだが、サニの母がああなってしまった原因には人の死が絡んでいる。俺たち部外者がそう簡単に口を出していい問題ではなかった。


「スマルさん。それに皆さん。今日、セオルドの方に向けて出発するんですよね?」


 階段を降りてすぐのところで、掃除をしていたサニに話しかけられる。


「ああ、そうだな。セオルドにいるらしい勇者たちに会いに行くんだ」


 そう答えた瞬間、サニは一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、俺たちに悟られないようにしたかったのか、すぐにいつもの元気いっぱいの笑顔になった。

 それを見て、俺も冒険者らしくいちいち宿屋の人との別れを惜しむような素振りは見せないようにしようと心に決め、別れの挨拶をした。


「またこの街に来ることがあったら、今度もこの宿に泊まらせてもらうよ」

「絶対来るわ。また、会いましょうね」

「……ご飯、美味しかった。それと……元気でね」


 サニは満面の笑みで勢い良くお辞儀をする。


「はい! また来てください! ありがとうございました!」


 扉を開け、外に出てから一度だけ振り返る。

 頭を上げた時に見えたサニの顔は、変わらず笑顔だったが、目じりに光るものがあったような気がした。



 それから俺たちは帝国の首都――セオルドに行くために来た時とは反対側にある門に向かった。


 セオルドに着くまでの大まかな流れとしては、徒歩で隣町まで行き、そこから出ている乗合馬車で首都まで行こうという計画だ。

 実際は乗合馬車に乗るのではなく、その街の冒険者ギルドに常にある『乗合馬車の護衛』という依頼を受けるのだが、やることは一緒に馬車に乗って魔物や盗賊から馬車を守るということだけなので大して難しい依頼ではない。

 というか、冒険者が同行していることが周知されているため、盗賊は基本襲ってこないし、それなりに乗合馬車の本数もあるので、道中の魔物は狩りつくされてそっちの危険もほとんどない。

 そんな実態のせいか報酬も大したことないのだが、本来ならお金を払って馬車に乗るところを逆に報酬をもらいながら移動の足にもなるということで、便利で人気の依頼なのだ。


 門から出るためには入る時同様、身分の証明をしなければならないのだが、門に着いた時、俺たちが門番に話しかけるより先に俺を呼び止める声があった。


「おーい、スマル! ちょっと待て!」


 聞き覚えのある声に俺は歩みを止め、振り返る。

 そこには何やら荷物を抱えながら走って来る薄汚れた冒険者が二人いた。


「ふぅ、間に合ったようですね!」


 息を切らしながらやってきた二人の名は、アイルとシーナ。

 三日間、ギルドに伝言を置いていたはずなのに会えなかった奴らだ。


「お前ら、こんなに汚れて、何やってたんだよ」


 なぜか薄汚れている二人――特にアイルは何やら大きな荷物を抱えていて、ただ単に俺たちに挨拶をしに来たというわけではなさそうだ。


「いや、ね。二人には世話になったから、何かプレゼントしようと思って無理して稼いでたわけですよ」


 アイルは笑いながらそう言うが、装備の一部が欠けていたり、肌の露出したところが傷だらけになってたりと、易々と笑えるような状態ではなかった。

 シーナはどちらかと言うと後衛職だからか傷は少ないが、それでも全く怪我をしていないわけではないし、魔力消費に伴って体力も低下している。


 俺は溜息を吐きながら無言で二人に回復魔術をかけ、シーナには魔力を分け与えた。


「これで少しはましになっただろ。プレゼントは嬉しいが、そのために無茶されるのは嬉しくないからな」

「悪かったって。そんなことより、これ、受け取ってくれよ」


 俺の言葉は流され、押し付けるような形で、アイルが抱えていた荷物が渡される。


「これは……剣?」

「ああ、魔術師だから杖かと思ったんだが、生憎俺は剣のことしか分からんからな。護身のためのものだと思って、持っといてくれ。それとフォール用のお守りだ」


 包みから出てきたのは刃渡り五十センチほどの剣で見た目以上に軽く扱いやすそうなものだった。

 魔術師でも使いやすいようにと選んでくれたものなのだろうか。

 ありがたいことである。

 それに、フォール用に首輪型のお守りまでつけてくれた。

 パッと見た感じ、ダメージ軽減の効果があるようだ。


 シーナの方を見ると、モミジとユキにそれぞれ赤い宝石のネックレスと青い宝石のネックレスを渡していた。

 なんでも、赤は火、青は氷属性の術を強化してくれるらしい。


「こんなものしか用意できなかったが、喜んでもらえたら嬉しい。じゃあ、またいつか、強くなって会おうな」

「まずはみんなを目標にして、頑張ります!」


 そんなことを言いながら、二人は握手を求めるように手を差し出してきた。

 俺はその手を握る。


「ああ、無理して死ぬなよ」

「ネックレスありがとう! 今度は遊べるといいわね」

「……ありがとう。大事にする」


 そう言って俺たちは門番のところで身分証明を済ませ、門をくぐった。


 一度だけ振り返ってアイルとシーナに手を振り、それ以降は前だけを見て進んだ。


これにて第二章は一旦終わりとなります。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。

次回から二回、閑話――途中不自然に飛ばしていた観光シーンをダイジェスト方式でお送りします――を挟んで、第三章に入ります。

これからもよろしくお願いします。

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