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第三十一話 遅めの昼食

すみません、遅くなりました

 二階の部屋に荷物――と言っても最低限の食料と金だけであるが――を置いた俺たちは、すぐに一階に降り並べてある丸机の一つを囲むように座った。

 フォールを椅子に座らせるのはどうかと思ったので、俺の座っている横におすわりをさせている。


「お待たせしましたー!」


 そんな俺たちのもとに明るい声音でそう言いながら、一人の少女――この宿の看板娘で受付をしてくれた少女である――がやってきた。

 手には湯気の立ち昇る料理を乗せたお盆を持っている。


 少女はそれらの料理名を言いながら、机に並べた。


「緑豆のスープと、黒パン、それと郷土料理のビーグ煮です」

「郷土料理?」


 ビーグ煮と呼ばれるその料理は、何種類かの根菜をぶつ切りにして水で煮ただけのような見た目で、色とりどりの根菜が綺麗ではあるのだが、一瞬サラダや漬物かと思ってしまうような色合いだった。

 ビーグ、という地名は聞いたことないが、この辺りのことだろうか。


「はい、狭い地域ではありますが、この周辺のことをビーグの町とかビーグ地区とかって呼ぶんです。ビーグ煮は昔からよく作られてきた何種類かの根菜を砂糖と塩で煮たものを指すんです。入れるものの種類は家庭によって違うんですよ」


 疑問が顔に出ていたのか、少女はフォールの餌を床に置きながら俺にそう教えてくれた。

 改めて器の中を見ると、おそらく名称は俺の知っているものと違うのだろうが、大根や人参、ゴボウのようなものが主に入っている。

 昔からこの辺りでは根菜がよく採れるのだろう。


 俺が納得顔で頷いていると、ユキがソワソワしながらこちらを伺っているのに気付いた。

 どうしたのかと思って目をやると、モミジもユキほどではないが落ち着きがないように見える。


 何事かと訊こうとしたが、俺が口を開くより先にユキが身を乗り出した。


「……お腹、空いた……」


 モミジも「早く食べましょう」とでも言いたげに目配せをしてくる。

 俺はまだ話していたかったし、別に二人が先に食べ始めても気にしないのだが、さすがにそれは変だろう。

 折角の料理が冷めてしまっても勿体ない。

 一旦切り上げるとしよう。


 このやり取りを見ていた少女がペコリとお辞儀をしてカウンターへ戻って行くので、俺は簡単にお礼を言っておいた。

 そして料理に向き直ると、それを合図にモミジとユキが手を合わせた。


「「「いただきます」」」


 三人で声を揃えて挨拶をする。

 この挨拶は東方列島で使われているもので、イチョウが教えてくれた。

 ここまでくるとどこまで同じ文化があるのか確認しに行きたくなってくる。

 今後の方針を決めるときに話に出してみよう。


 俺はそんなことを考えながら、スープを口に運ぶ。

 名前通りに緑色の、ヒヨコマメに似た豆が沢山入ったポトフのようなスープだ。


「ん、美味いな」


 それは決して薄味ではないのだが、尖ったような印象はなく、複数の野菜の出汁が複雑に混ざった優しい味がして、豆が多いために見た目以上に食べ応えがあった。


「そうね、美味しい」


 モミジも同じ感想を言っているが、手には黒パンを持っていて、それをスープに浸けて食べているようだった。

 なるほどそういう食べ方もあるのか、と俺も真似してやってみると、美味しいからやっているというよりは、硬い黒パンを少しでも柔らかくして食べるための工夫だった。

 それでも美味しいことには変わりないので、俺は黒パンをスープと共に飲み込み、今度はビーグ煮に手を付けた。


 見た目はサラダなのだが、口に入った瞬間よく煮えた根菜独特のグニュっとした感触が歯に伝わる。

 それからも分かるように味が染みていて、砂糖と塩が絶妙なバランスで混ざり、甘いともしょっぱいとも言えない濃いめの味付けとなっている。

 更に面白いことに、根菜の種類――正確には元の糖度によって味が変わるような、本当に絶妙な味付けであるらしく、別々に煮たわけではないはずなのに一皿の中に色んな味や風味、食感が詰め込まれている。

 黒パンにも合いそうだ。


 みんな余程腹が空いていたのか、言葉数少なく黙々と食べ進めている。

 モミジは何か言えば反応してくれるのだが、ユキは食べ始めてから一言も喋ろうとしていない。


 食事中にこれからのことを話そうと思っていたが、食後に落ち着いて話すことにしよう。

 俺は残りの料理をゆっくりと味わいながら食べきった。


 それとほぼ同時に、食べることだけに集中していたユキが、皿が空になったことで正気を取り戻した。

 そろそろモミジも食べ終わりそうだし、やっと話し合いができる。

 そう思ったのだが、正気に見えたユキはまだ食に囚われていた。


「……もう、終わり……?」


 そんな言葉を漏らしながら、目線はモミジの食べている残りに釘付けになっている。

 モミジも同じだけ空腹だったはずだが、その目線に耐えかねたのか残りの料理をユキにあげた。

 ユキの顔が一瞬悪人になったように見えたが、そんなものは吹き飛ばすほどの勢いで料理を掻き込むと、満足そうな表情で「……ありがと」と言った。


 ユキの黒い部分が見えてしまったような気がしたが、俺はそれを頭の隅に追いやって、遂に今後についての話し合いを始めた。


「とりあえず、まずは冒険者ギルドに行こうと思う。そこで冒険者登録をして、門番に見せに行くんだ。そこまでは異論ないな?」

「良いと思うわ」

「……うん」


 これはこの話し合いが終わり次第すぐにでも行ってしまいたいところである。


「よし、じゃあその後、少なくとも三日間はここに留まるわけだが、どうする? ギルドの雰囲気にもよるにしても、クエスト受けるか観光するかの二択だと思うんだが」

「三日あるなら、はじめはクエストを受けて、出て行く前に観光すれば良いんじゃないかしら」

「……三日じゃなくても、良い」


 今出た意見の中ではモミジのが妥当なところだろう。

 ユキは単純にここの料理が気に入っているだけなので気にする必要はないが、様子を見て長くいるというのはありだ。


「じゃあ、これからギルドに行って、外に出るクエストを受けよう。その時に門番にギルドカードを見せて」

「様子見をしながらクエストをこなして、出発の日程を決めるのね」

「……そこで、観光」

「だな」



 指針が決まったところで、俺たちはカウンターに食器を運び「ごちそうさま」と伝え、日が沈む前にと早速冒険者ギルドへ向かった。


今週、執筆時間が取れなさそうなので、もしかしたら更新できないかもしれません。その時の告知はおそらくできないので、ご了承ください。

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