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第二十五話 ヒント

先週は更新しないと告知していましたが、先週も更新しているのでご注意ください。

「なんでここに来たんだ?」


 そんな俺の問いに、二人は顔を見合わせてから真剣な面持ちになった。


「ヴォルムに聞いたの、狼のこと」

「……スマルの、ことも」


 どうやら、俺のトラウマについての話のようだ。


「転生者として異世界からこの世界に来て、精神が不安定な内に狼に殺されかけたって、ヴォルムは言ってた……」

「……今も、神様に狙われてる……?」


 ヴォルムは俺のトラウマと、それに至った経緯、それと神の力の話をしたのだろう。

 狼の話はその通りだし、神についてもヴォルムの敵であることから少し誇張されているとは思うが、間違っているわけではない。


「ああ、そうだな。俺は転生者で、この身体は本来俺のものじゃない。俺もトラウマのことを知ったのは今日だが、狼に殺されかけたのも、神と接触したのも事実だ」


 もう十四年も前のことだけど。

 そう心の中で付け足すが、それだけ時間が経っても未だに大きな影響があるということは、それだけ重傷だということだ。

 今更ながら、どう治して良いのか見当もつかない。


「本当に、そんなことがあったのね……」

「……スマル、大変そう」


 そう言って二人は心配してくれているが、実質今まで害はなかったし、力の代償の件だって保留のままだが特に失ったものはない。

 俺としてはそんなに心配するほどのことだとは思っていないのだが、そういうわけにはいかないのだろう。

 なんというか、照れくさいな。


「まぁ、今のところ困ったことと言えば今日の試験くらいだ。トラウマなんてさっさと取っ払ってクリアしちまおうぜ」


 それはできるはずのないことであったが、照れ隠しで俺が明日から再開する試験に話を移行すると、二人はそれに頷き、


「そのことなんだけど、ヴォルムからトラウマの治療法? みたいなのを聞いてきたのよね」

「……治療法と言うより、ヒント……?」


 この試験の必勝法に等しい情報を提示してきたのだった。


「本当か!? これが治せればこの試験、クリアしたも同然だ」


 別に俺がトラウマを克服しなくても、モミジとイチョウ、一人ずつでもこの試験のお題はクリアできるだろう。

 俺も万全の状態なら一人でクリアできる。


 だが、この試験は狼をどうするかが肝心なのではない。

 俺をどうするがが肝心なのだ。


 お題がお題なため、俺は何もせず二人に任せても問題はないが、そうすると、俺はこの先狼に対して他人の力を借りないと対応できなくなってしまう。

 それはきっと狼以外のことにも影響して、俺という人間の性質を決めてしまうだろう。

 だから、俺は自分の力でこれを解決しなければならない。


 選択肢を絞らないためにこのお題にしたヴォルムも、俺が他人に寄生するようになることは望んでいないだろう。


「でも、ヒントだから……あんまり期待しないでよ?」

「……自分で、考えるべし。私も手伝う」


 だから、ヒント。

 答えでなく、ヒント。


 最終的な答えは自分で出せということなのだろうが、俺は(はな)からそのつもりだからむしろ好都合だ。


「ヒントで充分。一緒に考えようぜ」


 そう言って俺は二人にベッドに座るよう促した。

 それに応じて二人は俺を挟むように座り、心なしか楽しそうにヒントを教えてくれた。


「今までやってきたことが解決に導く」

「……自分の力を信じて、見つめ直せ」



===============



 翌日、俺たちはヒントから得た答えを実行するべく、森に入っていた。

 まだ奥まで入っていないため狼が出てきそうな気配はないが、それでも妙な緊張感があった。


 俺たちがヒントから導き出した答えは「狼の攻撃を受けきる」こと。

 昨日のようになる可能性もあるにはあるのだが、きっとこの作戦が正解に近いはずだ。


 ヒントにある「今までやってきたこと」「自分の力」は、俺が磨いてきた防御スキルで間違いないだろう。

 つまり、それがトラウマ克服の糸口になるということだ。


 そう考えたときに、トラウマというものが何のためにあるのかが重要になってくるのだが、これは、過去にあった恐怖体験を基にそれと似た状況になったときに同じようなことにならないために働く、いわば危機感知センサーみたいなものだ。

 そう、過剰に反応してしまっているだけで、トラウマも防御スキルの一つなのだ。

 そうなると話は早いもので、同じ状況でも今の自分なら危険ではないことを証明して、トラウマにもう要らないと言ってやれば克服完了だ。


 だが、やはり狼と対峙したら俺はまともに立っていることすらできなくなってしまうだろう。

 そうなってしまってからは何もすることができない。

 だから今回はそれを見越して、自分の身に防御結界を事前に張っておくことにした。

 それも一度発動すれば最初に込めた魔力が切れるまで制御なしで維持できる優れものだ。

 これで俺は結界の中から見ているだけで己の防御力の高さを実感できるというわけだ。


 モミジとユキ、二人には悪いが、俺にもしものことがあったときに備えて木の上に待機してもらうことになっている。

 二人はそんなことにはならないとならないからと少し不機嫌そうだったが、それでも承諾してくれた。

 ありがたいことだ。


 良い仲間を持ったな、とそんなことを考えていると、こちらのにおいを嗅ぎつけたのか、狼の群れがこちらに向かってくるのが感知できた。


「それじゃあ、そろそろ狼が来るみたいだから準備しようか」


 狼がここに到達するまでにはまだ一分ほどかかりそうだが、早めに準備を整えておくに越したことはない。

 というか既に遅いくらいだ。

 だから俺は結界を張り、モミジとユキは木に登って待機した。


「何かあったら言うのよ。すぐに担いで森から出て行ってあげるんだから」

「……大丈夫になったら、特に。すぐ殲滅する。準備万端」


 みんな意気込みは前回以上。

 特に俺は大事な用事があってここにいる。

 やるべきことは簡単。

 狼が見えたら試合開始だ。


 俺は目を瞑り敵の感知に集中する。

 別に集中などしなくても狼の群れくらいなら感知するのに苦労しないのだが、こうすることでより精度が上がり、正確な位置や距離感が分かるようになるのだ。


 研ぎ澄まされた俺のセンサーは、狼の群れ一匹一匹を捕捉し、その足の動きまでもが把握できる。

 徐々に距離を詰めてくる狼たちは、もう可視範囲内に入っていた。


 グルルル……。


 狼の唸り声が聞こえたと同時に目を開けると、そこには感知できたいた通りの配置で狼が俺を囲っているのが見えた。

 やはり見えることが俺のトラウマのトリガーになっているようで、目を開いた瞬間に身体が動かなくなった。

 だが、今回は結界があるためいくらか安心できる。

 引き攣ってはいるが、笑顔も作れそうだ。


 そんな表情のまま近くにいた狼の顔を睨みつけると、丁度目が合った。

 そして、それが始まりの合図となる。



 ――さぁ、一方的な戦闘を始めようか。


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