第二百四話 適任
「今後の方針……といっても、俺とリフィルにとってはそう変化のある話じゃない。基本的には今まで通り、やることは一緒だ。そこに新しく二人が加わるだけで」
二人をお追加した理由のほとんどが戦力の増強だ。だから、戦闘時の連携や、それに付随して依頼を遂行しているときの立ち回りに影響が出ることもあるだろう。それと、訓練をするのならそのときにも。
しかし、逆に言えばそれ以外の場面では二人が関わってくることはない。皆無、とは言わないが、調べものをするときに彼らが横から口を出してきたり、潜入調査についてきたり、なんてことはないはずだ。もちろん、戦力として潜入調査に連れて行きたいというのならそういった使われ方も想定できるが、リフィルはきっと二人に声をかける前にヴォルムに声をかけるだろうし、ヴォルムとしてもその打診があったら断らないつもりだ。要するに、オーリとネルが必要になるのは戦闘が発生する可能性がある依頼のときだけなのだ。
「オーリとネル、二人には主に戦闘員としての働きを期待している。もっと細かく話すならネルには純粋な戦力としての働きを、オーリにはそれともう一つ、サブの指揮系統としての役割を期待している」
「俺が、指揮を……?」
少し驚いた様子のオーリ。それもそのはず。元々そのつもりでスカウトしてはいるが、話したのは今が初めてなのだ。それに加えてオーリは今まで一人でやってきたから、指揮を執ることには慣れていないだろう。それを自分で分かっているから驚き、困惑しているのだ。
一人で何でもやってしまうからそんな能力はないと言われるかもしれない。しかし、一人で何でもやってきたということは、それだけ広い視野を持っているということだ。役割分担をするまでもなく自分だけであらゆる事物に目を向け、対処する。指揮を執る人間にはこの視野の広さが必要不可欠なのだ。
それが前提で、割り振りが下手という可能性もある。ただ、オーリはコミュニケーションが取れないタイプの人間ではない。そういったネガティブな要因で一人でいたのならまだしも、彼は単に人に見られたくないものがある、そんな理由でソロを貫いていたのだ。もちろん、徹底して一人でいたのには一人の方が好きだからなど、他の理由もあるだろうが、それにしたって今はこうして仲間になってくれている。ならば、指示を出すこともすぐにできるようになるだろう。できなくても、指揮はヴォルムの得意とするところ。ある程度ノウハウを教えることはできるのだ。
「ああ、もちろん、基本的には俺がこのパーティの指揮を執る。そこは変えるつもりはないから安心してくれ。ただ、いつだって俺が全員に指示を出せる状況にあるとは限らない。そんなときにオーリが指揮を執ってくれると助かるんだ」
「言ってることは分かる。だが、なんで俺なんだ。俺がずっと誰ともパーティを組まずにやってきたのは知っているんだよな?」
「知っているとも。その上で言ってるんだ、お前が適任だってな。もう少し踏み込んだ話をすると、今後も人を増やしていく予定がある。そうなると当然、俺の目の届かないところで何かしてもらったり、部隊を分けて活動することもあると思う。そうなったときに後から入ってきたやつが指揮を執るのってなんか嫌だろ。だから追加人員第一弾であるオーリにやってほしいんだ」
追加で説明をしたのだが、余計にオーリの顔は険しいものになってしまった。
「それなら、俺以外に適任がいるんじゃないのか?」
きっと、リフィルのことを言っているのだろう。オーリの立場からすると、そう思うのは仕方のないことだ。想定済みの反論。ヴォルムは用意していた回答で返した。
「オーリが俺の立場だったら、ネルとオーリ、どっちに指揮を執らせる?」
「……は?」
「二人のどっちが適任かと言われたら、それはオーリだろう。能力的な話でな。つまり、そういうことだ」
途端に、オーリは気まずそうな顔でリフィルと俺の顔を交互に見る。ネルは関係のない話を聞かされて退屈だったのか、欠伸をしていた。自分の名前が出されても関係のない話だと分かっていたのか。やはり、それだけの頭の良さは持ち合わせているみたいだ。
「ヴォルムさん、別に私は良いですし、ネルさんは……話を聞いていてのかも怪しいですけど、なかなかに失礼なことを言ってる自覚、ありますか?」
「いや、でも事実だし……」
オーリを説得するために、ストレートにリフィルにその能力はないと言ってしまうのは気が引けたのでネルを引き合いに出して間接的に伝えようとしたのだが、言われてみるとあまり良い伝え方ではなかったような気もしてくる。少なくとも、リフィルはここでサブの指揮系統としての役割を与えられなかった理由として向いてないからと直接言われても気にしないタイプだ。気にしないことと気遣うことは別だと思っていたが、変な気遣いが逆効果になるなんて。
「事実を述べることと、その伝え方が礼節を欠いているのは別の話ですよ」
「ごもっともで……」
いきなり変なところを見せてしまったな。この程度で不安になるような先行きなら何があっても不安なままだろうから気にしないが、オーリからの視線が少し冷ややかなものになった。
「まぁ、そういうことだから、分かってくれたかな?」
「ああ、あんたの眼がどれだけ正しいのかって点は疑問の残るところだが、俺が指揮を任される理由についてはとりあえず納得しておく」
「そうしてくれるとありがたい」
なんてやり取りをしていると、横からリフィルが口を挟んだ。
「ヴォルムさんの眼は確かですよ、ただ、伝え方に難があるだけで。そもそもオーリさんに任せたいのは基本的に戦闘の指揮で、私がそれに適さないのは戦闘経験がないからです。元々教会でシスターをやっていただけですからね、私の人生は。はい、分かりましたか? 最初からこう言ってくれたらこんなに拗れなかったのに……」
リフィルのこういうところを見て、オーリは指揮能力がないと判断した俺の眼を疑ったんだろうな。なんてことを考えるが、やはりリフィルに指揮は執れない。戦闘経験がないからというのはもちろんのこと、彼女は思いの外、想定外の状況に弱いのだ。緊急事態において、一番ダメなのは何も考えられない上に言われても何もできないことだ。そこから言われたことならできる人種がいて、最後に自分で考えて判断することのできる人種という区分だ。リフィルはその真ん中、言われたことならこなせる人種。そういった点で一人でやってきたオーリの方が適任なのだ。
「で、ボクは何をしたら良いの?」
なんてことを考えていると、不意にネルが口を開いた。ここまでずっと関係のない話をしていたから、退屈だっただろう。しかし、ネルに対してはそこまで多くを語る必要はない。なぜなら、彼に求めているものが単純な戦力だけだからだ。
「ネルは、ただ目の前の敵を打ち負かす。それだけで良い」
「分かった!」
「よし、じゃあ早速、強めの魔物と戦ってみるか!」
初めて四人で依頼に挑む。そのためにまず、適当な依頼を探しに行くのだった。




