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第二十一話 見送り

 異世界転生。

 あくまで俺個人の考えだが、これには何かチート能力や、それでなくても怪物級のステータスが特典として付いてくるべきだと思っている。

 なぜなら、日本なんて平和な国で暮らしている人間が、世界観も何も分からない場所に飛ばされて生きて行けるはずがないからだ。


 しかし、俺にはそれがなかった。

 狼に襲われた時に結界が張られたと言われれば確かにそうなのだが、あれは既に破られていて、チートだとするには甚だ疑問が残る性能であった。

 実際、ヴォルムが教えてくれる防御結界の方が耐久力が高かったりする。


 何もできないままでは前世と同じようにニートとして生きるしか選択肢がなくなってしまう。

 いや、この世界ではニートなんてものの存在が認められていないかもしれない。

 そうなると俺はまともな暮らしはおろか、生きていられる保証もなくしてしまうことになる。


 そこで縋ったのがヴォルム。

 彼はこの世界での父のようなものであり、また師匠でもある。

 今までに唯一俺が転生者であると話した相手であり――と言っても向こうが気付いたのだが――俺を育ててくれている人だ。


 どうにもこの男、相当の実力者であるらしく、剣や武術の接近戦から魔術や飛び道具の遠隔戦まで一通りのことができるらしい。

 それに加えて隠密や索敵、回復系や状態異常系の術も網羅。

 日常では、美味しい料理を作り、知らないことはないのではないかと思わせるほどの知識を披露し、教育面でも分かりやすく丁寧な指導をしてくれている。


 要するに、俗に言う完璧超人であるヴォルムに育ててもらった俺も必然的に実力者となるということだ。

 これも一種の転生特典であろう。

 訊けばここから世に出た人物は常識外れなことをしながらもその高い能力で社会に貢献しているらしいし、俺がそうなるのも時間の問題だ。


 もちろん、俺もその状況に胡坐(あぐら)をかいているわけではない。

 自分から進んで努力をしている。

 と言うよりヴォルムにその気にさせられている。

 それはもう、努力って楽しい! できるって素晴らしい! なんて柄でもないことを思ってしまうくらいにはやる気に満ち溢れているのだが……俺、いつの間に洗脳されたんだ?



 そんなこんなで、俺は孤児院の人々と楽しく快適な暮らしを満喫していたのだが、平穏な暮らしにもついに変化が訪れる。

 それは俺が六歳になった日から三日後のこと。イチョウとフィオが孤児院から出て行くと言い出したのである。


 イチョウは今年、十五歳になるためここから出て行かなくてはならない。

 フィオはまだ十三歳であるから強制ではないのだが、仲のいいイチョウが出て行くのなら自分もそれと一緒に出たいということだそうだ。

 なんでも二人で冒険者になって東方列島を目指すのだとか。

 二人の戦闘能力はヴォルムも認めるほどに高く、特に連携が上手いそうで卒業試験である猿型魔獣の討伐もそのコンビネーションでクリアしたと聞いた。


 寂しくなるな。

 そう思っていると、ヴォルムに声を掛けられた。


「なんて顔してんだよ。大切な家族の輝かしい門出だぞ」


 それはその通りだ。

 別れは寂しいことではあるが、決して悲しいことではない。

 むしろ出て行く側からすれば、これから希望に満ちた未来に進んでいくのだから喜ばしいことのはずだ。


「俺、そんなに変な顔してたか?」

「ああ、寂しいのは分かるが、笑顔で送り出してやろうぜ」


 内心、無理に笑顔を作っても気持ち悪い顔が出来上がるだけではないかと思っていたが、自分が送られる側になった時にどんな見送りが良いかを考えてみると、自然と笑顔になれた。


 そしてついに、別れの瞬間が来る。

 みんなで玄関に集まって、大きめの荷物を背負った二人を囲んだ。

 聞き取れているのかは分からないが、年長組も年少組も口々に別れの言葉を述べている。


「みんな、落ち着いて! いっぺんに言われても分かんないから!」


 やはり聞き取れてはいなかったようで、イチョウがそう言って子供たちを並ばせた。

 それにしても、イチョウの口調はだいぶフランクになったな。

 前はガチガチの丁寧語がデフォルトだったのに、今ではすっかり明るく元気な話し方だ。

 フィオと仲良く遊んでいたからだろうか。


「ほら、一人ずつ喋って。時間はあるんだから」


 フィオは相変わらずの世話焼きキャラでみんなをまとめている。


 それから順に、二人と言葉を交わしていき、少し離れたところにいた俺が最後になった。

 今まで全員に違うコメントをしていた二人。

 俺には何を言ってくれるのだろうと期待して話を始める。


「フィオ姉、今までありがとう。……元気でね」


 さっきまで何を言おうか考えていたはずなのに、いざ向かい合ってみると、頭が真っ白になっていて言葉が出てこない。


「スマルはいつも大人しくて、私が怒ったりすることはなかったわね。そのせいで、というのもなんだけど、あまり話すこともできなかった。何か教えてあげられれば良かったんだけど……」

「いつも見て学んでいたさ。そうやって思ってくれているだけで嬉しいよ」


 俺がそう言うと、フィオは申し訳なさそうに笑った。

 俺が良いと言っても割り切れないところがあるのだろう。

 そういう姿勢から、俺は色々と学んだのだから、もう十分だ。


「イチョウ姉は、短い間だったけどありがとう。モミジとユキは任せて」


 イチョウはここを出る際に、来た当初は誰にも触れさせようとしなかったモミジやユキと、別れることになる。

 今でこそ新たな人間関係を築けているが、気を許せるようになるまでは三人だけで世界を完結させていたはずだ。

 その強い繋がりを一旦断つという選択をした心の強さを俺は素直に尊敬する。


「短いって……私、スマルの人生の半分以上は一緒にいるよね?」


 そんなことを考えていたら、ボロが出ていた。

 フィオと比べたら短いことには短いのだが、スマルとしての俺からしたら五年というのは長い時間だ。

 そもそも、俺じゃなくても五年というのは短くはない時間だろう。


「え、えーと、フィオと比べるとってことだよ」


 なんとか取り繕うが、誤魔化せるだろうか。


「そういうことなら納得。助けてもらった恩、忘れないから、外で見かけたら声かけてよね。それと、モミジとユキのこと、よろしくね」


 少し訝しげな顔をしているが、とりあえずは乗り切れた。これ以上の言及はないだろう。


 これで挨拶は終わり。

 いよいよ出発の時間だ。


「ヴォルム、たまにはここに戻ってきても良い?」


 そう訊いたのはフィオ。

 寂しい気持ちは彼女も同じなのだろう。

 心なしか瞳が潤んでいるような気がする。


「ああ、いつでも戻ってこい」


 そして、


「「行ってきます」」


 声を揃えて二人がそう言うと、みんなで一斉に手を振った。

 二人は笑顔で手を振り返すと、振り返らずに森へ消えて行った。



 こうして初めての別れを経験した俺だが、それは思っていたよりあっさりしたものだと感じた。

 だが、俺の意に反して流れ出る涙はしばらく止まらなかった。


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