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第百九十三話 自立

 半年が経った。

 二人は毎日のように町の外へ出て行っては魔物を狩り、お金を稼いでいた。生活の基盤を整える、という意味では極めて順調と言って良いだろう。最近ではお金に余裕も出てきて、寮の食事に頼らずとも食べ物には困らなくなったし、狩りに役立つちょっとしたアイテムなんかも常備しておけるようになった。

 戦闘面でもいくらか成長があって、ヴォルムはリフィルが使うことのできる魔術をすべてコピーさせてもらった。使ってみるとあまりコストパフォーマンスが良くなかったため実践の中で使うことはないに等しいが、いざというときに回復系の魔術が使えるのはありがたい。安心感が違うのだ。リフィルも魔術の教本を買って、簡単な魔術をいくつか習得していた。なかなか才能があるようで、既に実践の中で使えるだけの精度を持っている。ヴォルムがコピーした魔術を使わないのは、リフィルがいれば事足りるというのも大いに関係していた。


「今日までお世話になりました」

「ありがとうございました」


 そんな二人は今日、寮を出ていく。町に来た当時はお金がなく保護という名目でここに住まわせてもらっていたが、今はもう安定した稼ぎがあって、住居や食事の援助がなくても生きていける。拠点とする家も見つかったので、これから保護される人たちのためにも出て行かなければならないのだ。


「おー、もう出ていくのか。もしかしたら最速なんじゃねーか?」

「確かに、早いな。そういうのって記録取ってるんだっけ?」


 ヴォルムたちの挨拶を聞いて、寮にいた人たちがざわつく。保護状態から自立するまでの期間が一番短い可能性があるらしい。疑わしい話ではあるが、考えてみると、ヴォルムたちがこの寮で寝泊まりするようになってから今までに自立できた被保護者は一人しかいなかった。その人とはあまり交流がなく、いつからいたのかが分からないためどちらが早いのかは判断できないが、少なくとも、それ以外の住人よりはここにいた期間が短いことは確かだ。なんだか、有能だと言ってもらえているみたいで嬉しい。


「たまには食堂に顔出すのよ。待ってるんだからね」


 最後に食堂にいたおばちゃんと話をして、二人は寮の外に出た。ベテランの憲兵隊員が言うには新人は外の美味しい料理を食べたくて仕事を頑張るが、時間が経つと食堂の味が恋しくなるそうだ。美味しさは関係なく、その味で「育った」人はいずれその味が恋しくなるのだろう。なんとなく、理屈は分かる気がした。だが、ヴォルムはその理屈は自分には当てはまらないと感じていた。たった半年、それも後半はほぼ食べていなかったような味を恋しく感じることなんてないだろう。おばちゃんの「待っている」という言葉も、意味する所に偽りはなくても社交辞令的なものであったのは間違いない。

 二人はここに帰ってくることがもうないのだということを直感的に理解しながら、これから拠点にする場所へと向かっていた。

 保護制度にはいろいろとレベルがあるみたいだが、そのどれでも収入が安定しても一定の期間は保護することを確約してくれている。期間は一定ではなく、ヴォルムたちは三年と言われていた。だから、半年という早さで出ていくよりも、三年間を丸々使って金稼ぎをした方が効率は良かったはずなのだ。なのに、ヴォルムたちは自立することを選んだ。そうするだけの理由があったのだ。

 一つは、戦闘面での成長を考えたときに、自立した方が効率が良かったこと。保護されている間は、斡旋された仕事から選ぶのだが、魔物狩りに関しては基本的に被保護者以外の人たちと一緒に仕事をすることがない。被保護者のみのパーティに組み込まれることはあっても、大抵決まったメンツになってしまってヴォルムは何もコピーできないし、長く保護を受けているような人間にハイレベルな狩りはできない。相手にする魔物も弱いものばかりで戦闘訓練にならなかったのだ。

 もう一つは、憲兵隊の性質だ。これは貶しているわけではないのだが、この町の憲兵隊は平和ボケしている。この町ではなぜか大きな事件が起こらない。これだけ大きな町なのに、平和で余裕のある雰囲気があるからなのか戦闘が必要になるほどの事件が起こらないのだ。そんな町に勤めているせいか、憲兵隊のほとんどの人員が腑抜けてしまっている。志望理由は安定のためで、基本業務は人助け。そんなところにいたらこちらまで腑抜けてしまう。

 戦う準備のためにここに来たのだから、それにふさわしい環境を自分で作らなければならない。お金よりも戦闘力。そう考えて、自立を選んだのだ。


「今日はどうしますか? 最近、ヴォルムさん忙しそうでしたけど、たまにはショッピングでもしませんか?」


 これまで、仕事の斡旋状況を見て休みの日を作っていた。リフィルはそこで服を買ってお洒落をしたり、美味しいスイーツがないかと探したりしていたみたいだが、ヴォルムは基本的に休みの日だろうと戦闘力向上のために鍛錬をしていた。

 休みの日に何をしようが個人の勝手だ。とはいえ、パーティの足並みを乱すのは本意ではない。リフィルがこういうことを言い出すときには何か話したいことがあるというのも、最近になって分かってきた。それならば、今日は徹底的に休みと決めて楽しもうではないか。


「そうだな、俺も今日はそんな気分だ。新居近くのお店を案内してもらおうかな」

「任せてください! じゃあ、荷物を置いたらまずはお昼ご飯にしましょうか。良いお店を見つけたんですよ」


 リフィルがドンと胸を叩く。相当自信があるようだ。


「そしたら、食べながら少し今後のことを話そうか。今までとはちょっとずつ立ち回りが変わるはずだからな」


 保護を外れて、仕事を斡旋してもらえなくなった。が、考えてみれば世の中の人間のうち、保護を受けている人なんて圧倒的少数だ。それ以外はどこかで何かしらの仕事をしている。そのうちの一つに、魔物狩りを依頼として受け付けている場所がある。魔物を狩って生計を立てたいなら、そこに身分を登録して仕事を探す必要があるのだ。

 今日は休むと決めたから登録にもいかないが、明日以降、そこの活用がメインになる。その他にも、情報収集や仲間集めと、やらなければならないことは山積みだ。今までは目の前のことを片付けるのに注力していたが、今後は動きの自由度が上がる分優先順位をしっかりと考えなければならない。まずはそこから話し合おう。そんなことを考えながら、ヴォルムは新居へと荷物を運びこんだ。

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