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第百九十話 食堂

 町に入って、いろいろと説明を受けているだけで夕方になってしまった。初日からもっと活動するつもりだったヴォルムは出遅れたような気分になったが、考えてみれば、早く動き出したかったのは生活の基盤を整えるためだ。保護を受けるという形でそれが達成されている今、不安定なまま活動を急ぐ必要はない。一日を無駄にしたような気がするのは実は気のせいで、もしかしたら、実際は考えていたよりもずっと早くやりたいことができるのかもしれない。

 そんなことを考えながら、ヴォルムは一階にある食堂へ向かっていた。この寮は五階建ての建物で、その最上階である五階がヴォルムたちのような被保護者のためのフロアになっている。その下は基本的に憲兵隊の寮として使われていて、一階の一角が食事をするためのスペースになっているのだ。味はともかく値段の安さと量の多さには定評があるらしく、ここで暮らす憲兵隊員の半分ほどは毎日ここで食事を取っているようだ。


「すみませーん、今日からここでお世話になることになったヴォルムです。よろしくお願いします」

「同じく、リフィルです。お願いします」


 二人は料理の提供をしているカウンターに行き、挨拶をする。そこにいたおばちゃんがそれに反応してくれた。


「あら、二人が新しく入ってきた子ね? 話は聞いてるわ。大変だったわね。今日はたくさん食べて行きなさい」


 なんて言っている間に、おばちゃんが慣れた手つきでお盆に料理を乗せていく。たくさん、と言う通りにお盆の上には山のように盛られた野菜炒め他、料理の数々が乗せられていた。


「はい、どうぞ。席は好きなところを使って良いからね」

「ありがとうございます」


 お盆を受け取ると、その重量が手に伝わってきた。ヴォルムは長らく戦場で十分に食事がとれない環境にも適応できるように生きてきたから、食事は少なくても問題ないタイプの人間だ。リフィルも女性だし、教会や孤児院で生きていたこともあって量についてはそこまで多くない環境だったはずだ。空いていた席に向かい合う形で座った二人は、顔を見合わせて少し不安な顔をした。


「量が多いとは聞いていたが、まさか増やされるとはな……」

「こんなに食べられるでしょうか……」


 眼前には山盛りの野菜炒め。もちろん、量が多いのはそれだけではない。主食であるごはんもこんもりと盛られているし、肉団子は一つ多く乗せてくれている。恰幅の良い憲兵隊員に提供するならまだしも、ヴォルムやリフィルのような細身寄りの人間にするサービスではないだろう。初日だからと気を遣ってくれるのは嬉しいのだが、その内容はちゃんと相手を見て選んでほしいものだ。


「時間がかかりそうだし、ゆっくり食べながら、明日以降の計画でも立てようか」

「そう、ですね。残すのは勿体ないですから。それに、そこまで混んでいるわけでもないようですし」


 それから、二人は宣言通りゆっくりと野菜の山を食べ進めた。味はともかく、なんて前評判を聞いていたから不味いのではないかと心配していたのだが、問題なく食べられそうだ。一気に量を作ってある程度置いておいたものを配膳していると考えたら、むしろ美味しいと言って良いくらいだ。これで味はともかく、なんて言われてしまうのは、外にもっと美味しい料理を提供している店がたくさんあるということなのだろうか。またこの町の裕福さを見せつけられているような気分になった。


「明日から早速、仕事をしていこうと思ってるんだが、リフィルはそれで問題ないか?」

「はい。拠点は提供してもらえましたけど、お金はまだないですからね」


 今いる食堂には話が通っているため、当面の間は無料で食事を提供してもらえることになっている。だからここから出なくてもしばらくは生きていけるのだが、お金がないとそれ以外の施設は利用することができない。目指すところがもっと上にある身としては、装備を整えたり、仲間を集めたり、情報を集めたり、やりたいことがたくさんある。不自由なくそういったタスクをこなすためにも、お金は必須なのだ。


「それで、どんな仕事をしていくかって話になるんだが、教えてもらった限りだと魔物を狩るのが一番効率の良い稼ぎ方だそうだ。ただ、今の俺たちには武器がない。リフィルの魔術ばっかりを当てにするわけにもいかないからな。先に戦闘の絡まない仕事で稼いで、装備を整えようと思う」

「別に反対するつもりはないんですけど、町の中でできる仕事にも割の良いものはありましたよ? わざわざ危険なことをしなくても良いんじゃないでしょうか……?」


 確かに、生活に必要なお金を稼ぐだけだったら魔物を狩るなんて危ないことをする必要はない。むしろ、装備の維持などにお金がかかってしまう可能性があるから、安全な仕事で成果を出して昇給していく方が賢いのかもしれない。しかし、ヴォルムたちはここで暮らしていくためにお金を稼ぐわけではない。


「魔物狩りが危険で不安定なのは分かっている。でも、俺たちは――いや、少なくとも俺は戦わなきゃならないんだ。実際に武器を使ってより自分に合うものを探し、技術を磨き、技を盗む。お金は必須のアイテムだが、あくまで目的を達成するための道具でしかないんだ」


 そこまで言ったところでリフィルも思い至ったのか、納得したようにうなずいた。それから、一つの疑問を投げかけてくる。


「もしかして、手に入れた能力で魔物の力もコピーできるんですか?」


 これについて、ヴォルムは明確な答えを持っていた。というのも、生命エネルギーを知覚して能力の使い方が分かったとき、コピーできる範囲がどこまでなのかも同時に理解できたからだ。だが、その上でこの質問への答えは曖昧なものになってしまうのだった。


「できるかどうかで言ったら、できる。ただ、超常的な力を再現するための能力だから、そういうのがない魔物からは何もコピーできない。例えば蛇の魔物が強力な毒を持っていたとするだろ? その毒が魔物の持つ超常的な力で生成されたものなら再現できるんだが、体内の器官で作られているものだったら再現できないんだ」


 ヴォルムとリフィルが難なく狩れるような魔物に、超常的な力を使ってくるようなものはなかなかいない。大抵が狂暴性の増した動物のようなものだからだ。しかし、ここで落胆してはいけない。


「でも、コピー元になり得るのは魔物だけじゃない。人間からコピーするんだ。これだけ大きい町なら戦闘に役立つ魔術を使える人間もいるだろうからな。そういう人間と一緒に魔物を狩りに行って、それを見せてもらうんだ。むしろこっちがメインターゲットになるだろうな」 

「なるほど……そうなると、実績は早いうちに積んでおいた方が良いかもしれませんね」

「もちろん、リフィルは安全な仕事をしてもらって構わないからな」


 一応、戦闘を強要するつもりはないことを伝える。しかし、それが逆効果だったようで、リフィルは頼もしいことに戦闘への意欲を強めているようだった。

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