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第百八十八話 杞憂

 これだけ大きな町の中に入ってしまえば、いくらでも稼ぐ方法なんてある。まとまったお金が用意できるまでは宿には泊まれないかもしれないが、森の中で一晩明かすよりは町の中の方が安全だろう。だから、町の中に入ってしまいさえすればどうにかなる。ヴォルムはそう考えていたのだが、流石にその理屈で通してもらえるほど門番は甘くなかった。

 とはいえ、突き返されたわけでもなかった。彼らは「保護対象」と言ったのだ。それが戦争から逃げてきた人たちのことなのか、単純にお金がないとか仕事がないとかで立場の弱い人たちのことなのか、あるいは別の何かなのか、具体的に何を指しているのかは分からなかったが、とにかく保護してもらえる。保護されながらの生活は何かと不自由もあるだろうが、それは保護の必要な人間ではないことを分かってもらえれば良いだけの話。この町での基盤づくりに大いに役立ててやろう。


「ヴォルムさん……」

「行こう」


 事前の話し合いで、別室に連行されることは避けたいと言っていた。だからだろう、リフィルは不安そうな顔をしている。確かに、保護という言葉が嘘である可能性は否定できない以上、このまま牢獄に入れられるなんてこともあり得るかもしれない。ただ、それを恐れてここから逃げ出す方が怪しい。そんなことをしたら、改めて門を通ろうとしても入れてもらえなくなってしまうだろう。リスクを承知の上で、ここは前に進むしかないのだ。

 一抹の不安を残したまま、二人は門番の後に続いた。向かう先は壁の中。町を囲む壁という建物の中に空間が存在して、それが部屋として使われているのだ。


「ここでお待ちください」


 鉄製の重そうな扉、その二つ目が開かれた先でヴォルムたちはそう指示を受けた。その部屋は五メートル四方ほどの大きさで、中央に椅子と机が設置されているだけの部屋だった。ヴォルムたちが入ってきた者とは別に二つの鉄の扉があり、壁や床は石材がむき出しで飾り気なんてものは微塵もなかった。そんな部屋の様子に一瞬たじろいでしまったが、ここまできて反抗するわけにもいかない。二人は大人しく椅子に座って待つことにした。


「一体、何をするのでしょうか……」


 やはり不安が拭えないようで、リフィルがそんなことを言い出す。門番の言っていることをすべて信じるなら、ここで詳しい審査をするのだろう。審査というとなんだかこちらが 望んでいるようになってしまうが、要するに、本当に保護するべき人間なのかどうかの見極めが行われるということだ。そして、保護するべきだと判断された場合、諸々の手続きが必要になる。それ用の書類を作ったり、一時的に滞在しておく宿の手配だったり、そういうこともここでやってしまうのだろう。

 だが、そういった手続きをするにはこの部屋は少し物々しい。入り口が鉄製の扉でできていることも、無駄なものが置いてないことも、装飾が一切施されていないのも、あまり気分の良いものではなかった。牢屋に入れられているような気分になってくるのだ。


「何だろうな。変な言いがかりで投獄される、なんてことだけはやめてほしいが」


 きっと、この部屋は不審者の対応をすることを主目的に作られたスペースで、ヴォルムたちのような保護対象が来るのは稀なことなのだろう。全くお金を持たずに門を通ろうとする人間なんてそういないだろうからな。

 そんなことを考えていると、前方にあった鉄の扉が開き、その向こうから立派なひげを生やした男が入ってきた。手には何枚かの紙を持っている。手続き用の書類だろうか。


「お待たせしました。私はこの門の管理を任されているリックです」

「ヴォルムです」

「リフィルです」


 髭男が挨拶をするのに合わせてヴォルムたちも名乗る。その裏で、ヴォルムはリックという男が出てきたことの意味を考えていた。彼は門の管理を任されていると言っていた。つまり、この場での責任者ということだ。そんな男がただ保護対象が現れたというだけで出てくるだろうか。金もないのに門を通ろうとする馬鹿者はそういないだろうとは考えたが、いくら珍しいからと言って毎度毎度責任者を呼ばなければならないなんてのは面倒な話だ。何かを疑われている。あるいは、既に情報が出回っていて、捕縛のために出張ってきた。そう考えるのが妥当だろうか。

 しかし、それにしては戦闘向きではないように見える。最初にヴォルムたちの対応をした門番の若い男は体格ががっしりとしていて大きく、立ち振る舞いから武術の心得があることが見て取れた。一方のリックは、身長こそあるものの、それ以外に目立った部分はない。そして、なにより年齢だ。見た目からの判断では正確な年齢は分からないにしても、戦場に出すには少々歳を取りすぎているように見える。それとも、油断させるための罠なのだろうか。


「話は聞きました。大変だったでしょう。行く当てもなければお金もないとのことで、この町で保護させていただくことになりました。とは言っても、何から何まで面倒を見ることもできないので、生活の支援と表現する方が適切かもしれませんが」


 一際警戒心を強めていたヴォルムだったが、リックはそう言うと持っていた書類をヴォルムたちの前に差し出し、その説明を始めようとした。


「あ、そうだ、一応お聞きしますが、この町に入りたいということで良いんですよね? 町の中で犯罪に走ったり、いきなり不幸な目に遭わないように滞在するのなら保護を半強制的に受けてもらいますが、町から離れる人を引き留めてまで保護することはできませんから」


 だが、その前にそんなことを聞いてきた。正直、保護なんてされなくても犯罪もしなければ死にもしない。その上で生活していける自信もある。それが前提でここまでやって来たのだから、町に入れてもらえるなら何だって良い。


「もちろん、そのためにここに来たんですから」

「分かりました。では、いくつか説明をしますね――」


 それから二人はリックの説明を聞きながら、書類に必要事項を書き込んでいくのだった。

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