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第百八十話 仮説

 いよいよ無能力という可能性が出てくると、別に何か損をしたとか失敗をしたとかそういうわけではないのに焦りに似た感情が芽生えてくる。詳しく聞くと、どうやらその能力というのは特に意識しなくても使えるようになったことがなんとなく分かっているものだそうで、使う時も人間が生まれながらに呼吸の方法を知っているように、誰に教えられるでもなく歩き方を覚えているように、使おうと思った時にすぐ使えるものらしい。

 明らかに自分は何か普通ではない状況に置かれている。そう確信するが、だからと言ってヴォルムにできることはなかった。考えたところで原因は分からないし、生命エネルギーについて何も知らなかったヴォルムが特異な例を解決するなんてできるはずがなかった。

 それでも、諦めたくはない。ヴォルムは更に気になったことを聞くことで何か解決への糸口がないかと探すことにした。


「そもそも、生命エネルギーだってそうだ。俺は自由に使える力だとは思えないんだが、これも知らないうちに使い方を知っているものなのか?」


 案の定と言うか、ヴォルムの言葉にロンは驚いた様子だった。能力に引き続き、生命エネルギーまで使えないなんてそんなことがあり得るのか。普段から何も疑問を持たずに力を行使していたロンにはヴォルムの言っていることが分からなかった。ヴォルムがロンの話を聞いても意味が分からなかったように。


「あ、ああ、そうだ。普通――いや、生命エネルギーを使える時点で普通ではないんだが、力に目覚めた時に扱い方もなんとなく理解できるはずだ。その先の細かい操作制度は自分でどうにか高めていくしかないとはいえ、最初から全く使い方が分からないってのは聞いたことがない」


 一体、何が起こっているのか。自分のことながら理解できないというのはなかなかに苦痛だった。しかも、生命エネルギーというだけあって寿命に関わってくる話だ。目的を果たすために動いている身として、残り時間が見えないまま、しかしすぐそこまで迫っている状況というのはあまり嬉しくはないものだった。


「魔術みたいに教えることはできないのか? それか、いっそのこと力は使えなくても良い。残りの時間がどれくらいなのかを知る術はないのか?」


 せめて自らの命があとどれくらい残されているのかを知りたい。それが分かればどれだけの期間のうちに何をするべきなのかが決まるのに。そんなことを考えながらヴォルムは問いかける。しかし、ロンの表情はあまり明るいものではなかった。

 それから数秒間、沈黙の末にロンはゆっくりと口を開いた。


「まず、教えることはできない。結局はエネルギーを知覚することができなければそれをどうこうすることはできないからだ。溢れんばかりのエネルギーだというのに、それを感じられないというのならその時点で無理だと思った方が良いだろう。それと、残り時間についてだが、詳しくどれくらい、と示すことはできない。もしかしたらエネルギー残量から割り出すことができるのかもしれないが、使ってしまえば変動するものだからな。誰も気にしてないんだよ。それを踏まえて、一つの仮説がある」


 急に真剣な顔になったロンを見て、ヴォルムも姿勢を正す。


「もう、自由に使えるだけの生命エネルギーがないんじゃないかな」


 生命エネルギーがない。それはつまり、死が近いことを表す。そんなはずがないと思いたかったが、ロンがそう言うのには何かしら根拠があるはずだ。否定するのはそれを聞いた後で良い。とりあえず、話の続きを聞くことにした。


「もちろん、これは仮説だ。絶対にそうだとは言い切れない。ただ、そうだとすることで説明できることがあるのも事実。聞きたいかい?」

「ああ、根拠もなしにそんな仮説をはいそうですかと受け入れる気はないからな」

「……まず、生命エネルギーが生きるためのエネルギーであることを思い出してほしい。これがなくなると人は死んでしまうことも覚えておいてくれ。ここで、ヴォルムの生命エネルギーが空ではないがそれに近い状態だとすると、今、生命エネルギーを使うことは自殺するようなものだと言うことができる。それを阻止するためにエネルギーが自衛をしているのだと考えると、能力が使えないことも、生命エネルギーを知覚することができないことも、納得がいくような気がするんだ」


 確かに、生きるためのエネルギーを使って死んでしまうなんてのは馬鹿げている。たまたま自分が以前の戦闘で生命エネルギーを限界ギリギリまで使ってしまっていた可能性も否定はできない。それに、その後は倒れていたわけだし、そこで消費されたのだと言われてもおかしなことではない。ただ、やはり時間がないと突きつけられて、すぐに納得することはできない。何とか否定できる材料がないか、ヴォルムは探すのに必死だった。


「過去に使い切ろうと試した人はいなかったのか? いたなら、俺と同じような状態になったはずだ。それがいないってんなら、あまり現実的ではないと思うが……」

「確かに、過去には使い切って死んでやろうという試みをした人がいたみたいだ。それも、一人ではない。何人かが挑戦している。そして、その全てが死んでいる。だから自分は違うというのも一つの意見としては認めよう。ただ、エネルギー残量を気にしていないという話をさっきもしたように、この試みをした人たちはギリギリで死ぬように調整したのではなく、むしろ、どれだけあるのか詳細に把握できていないエネルギーを使い切れないなんてことが起こらないように、過剰に消費できることをして死んだんだ。魔術師が身の丈に合わない魔術を使おうとして発動できないように、空撃ちで死んだと聞いているよ」


 つまりは否定する材料にはならないということか。あるいは自分の意見を通すための都合の良い解釈なのか。何も分からないままだったが、ヴォルムは反論するのを諦めた。それが本当なら、こんなところで話をしている場合ではないからだ。今、必要なのは最悪の事態を想定して、そうなっても大丈夫なように動くこと。何をすべきかはまだ分からないが、すぐに動き出さないと手遅れになる。そんな予感がしていた。

 まずは戦場に戻るべきだろうか。そんなことを考えていたヴォルムにロンは依然として生命エネルギーの話を続けた。


「さて、能力云々からちょっと大変なことになったけど、予定していた次の話をするよ。これこそ一番有益な話なはずだ。それは、生命エネルギーを増やす方法について」


 それはまさしく、ヴォルムにとっての希望だった。

来週の更新はお休みです。

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