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第百七十三話 新たな可能性

 村の老人たちの話によると、どうやら近くの山に「鬼」と呼ばれる怪物が住んでいて、定期的に村を襲いに来るらしい。若者――というか単に戦えないほど老いてはいないというだけの村民が撃退するのが習わしになっているそうだ。当然、生身の人間が怪物に勝てるはずもなく罠などを仕掛けて対処するのだが、相手はそれでも簡単に止まってくれるようなやわな生物ではないらしく、毎回多くの犠牲が出るのだとか。そのようなことを何回も繰り返すうちに村を構成する人の数も減り、今回の襲撃は撃退できるか不安があるとのことだった。もし今回が大丈夫でもきっと次は無理だろうとも。老人たちはいつの襲撃は被害が少なかったとか、いつのは逆に酷かったとか、自分たちが参加した時のことを振り返って話していたが、そんなことよりもっと考えるべきことがあるのではないかとヴォルムは思った。


「どうにか、できないでしょうか」


 そう呟いたのはリフィル。心優しい彼女は話を聞いてこの村のことを心配しているらしい。確かに、「次はない」なんて言っているのを聞いてしまうとそのまま放置してはおけないという気持ちになってくる。だが、ヴォルムたちが関与すべき問題なのか。それを考えた時に、この村の問題に無暗に首を突っ込むのは憚られた。それに、この村がどこかの国や大きな領地の中の一部ならそこを統治するものが解決すべき問題だ。逃亡中のヴォルムたちが手を出してもメリットがあるとは考えられなかった。


「どうにかするにしても、情報が足りないな。せめて相手がどんな化物なのか老人たちから聞き出さないと」


 とはいえ、こうして村に入れてもらった恩がある。話を聞いてしまった以上、何もせずに見過ごすのは気分が悪い。午後に柵の補強を行う予定だから、その時は一層強固なものにしてやろう。その際にどんな生物なのか特徴を聞くことができればある程度それに対応した柵にすることができる。所詮は素人が短時間で作るものだから効果や強度は当てにならないが、ないよりはマシだろう。

 しかし、その特徴を聞くというのが難しいのであった。というのも、鬼が襲撃してくるという情報がこうして盗み聞きをして手に入れた情報だからだ。流石に真正面から盗み聞きをしていたと宣言はしたくないし、正直に宣言したとしても向こうの心象が良くなることはないだろう。聞くにしても、それとなくどんな動物から守る柵なのかを聞くくらいが限度だ。


「私にも戦えるだけの力があればなぁ……」


 加勢できるのなら加勢したい。そう言うリフィルの人助け精神にはヴォルムも救われた身として頭が上がらない。しかし、リフィルが戦闘に参加するというのは無謀な事のように思えた。ここまで一緒に歩いてきた感覚で判断すると体力はありそうだし、森を歩く時の身のこなしも悪くはなかったが、運動ができることと戦闘ができることは同じではないのだ。もちろん、戦闘において身体を思い通りに動かせるというのはアドバンテージである。ヴォルムが様々な技能を習得しているように、一見関係のない技能が戦闘に役立つこともあるからリフィルの持つ何かしらの技能が戦闘で大きなアドバンテージとなる可能性はなくもない。だが、それにしたって単純な膂力とか、優しい心とか、慣れとか、この場で戦闘を勧められない理由がいくつかある。それらをひっくり返すような強力な技能があるのなら話は別だが――

 と、そこまで考えてヴォルムはあることに思い至った。


「そういえば、リフィルはどんな魔術を教えてもらっていたんだ?」


 教会で司教に魔術を教えてもらっていたと言っていた。その時はこうして共に行動するとは思っていなかったし、あの場でどんな魔術が使えようがヴォルムの役に立つわけではなかったため、たいして興味もなかった。

 状況が変わった今、知らないままにしておくのは勿体ない。この場ですぐ活躍するかはともかく、知っているというだけで選択肢が増えるのだから。


「初歩的な攻撃用の魔術をいくつか、護身用にと教えてもらったのと……こっそり、教会にあった書物を読んで回復魔術を覚えました。実践で使ったことはないのであまり自信はありませんけど……」


 余程自信がないのか、その後も魔術をちゃんと教えてもらったのはつい最近のことだとか、ずっと魔力操作の練習ばかりさせられていて魔法陣の起動くらいしかまともにやったことがないとか、色々と言い訳じみたことを言っていたが、そんなのはヴォルムの耳には入っていなかった。


「攻撃魔術……ってのは、どんなのを使えるんだ?」


 ヴォルムは戦場に立っていたため魔術というものを結構な数見てきている。軍にはたくさんの魔術師がいたし、もちろんヴォルムの率いる部隊にも何人か魔術師がいた。いろいろと魔術については教えてもらったし、実際に指示を出していたため使い方は分かっているつもりだ。

 今欲しい情報はより正確な実態だ。リフィルの使える魔術が一体どんな性質のもので、それがどれくらいのサイクルでどれくらいの回数使えるのか。それを把握することができれば、二人の取れる行動の幅が一気に広がる気がする。鬼退治にも参加できるかもしれない。


「い、いくつか教えてもらったんですけど、火の球を飛ばすものと、弱い電撃を放つものしかできませんでした。回復魔術は指を切った時くらいにしか使ったことがないのでそれ以上の効果は分かりません……」


 食い気味に質問を繰り返すヴォルムに若干引きながらも、リフィルはちゃんと答えてくれる。本人は自信がない様子だが、聞く限りでは十分すぎる戦力になりそうだ。

 ただ、いきなり実践投入するのには不安もある。それが防御面だ。的に向かって攻撃しているだけでは分からない、相手から攻撃されるという感覚。ヴォルムのような戦闘を生業とするような人種は日ごろから訓練や演習といって仲間との模擬戦を行ったりしているし、なんなら実践経験があるため敵も意思を持って攻撃してくると理解しているのだが、未経験者は攻撃することに集中するあまり防御まで意識が回らないことが多々あるのだ。いざ攻撃が飛んでくると足がすくんで動けないとか、動揺しているうちに攻撃すらまともに出来なくなるとか、そんな話を何回も聞いた。


「まずは慣らしが必要か……?」


 果たしてそんな時間があるのか。なかったとしたらいきなり実践投入するのか。悩むヴォルムの頭の中に、使わないという選択肢はもうなかった。

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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