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第百五十七話 喪失

週末に急用が入り、月曜更新になってしまいました。

遅れてすみません。

 ヴォルムは戦闘が始まってから溢れるエネルギーを身体能力の強化に使っていた。それは敵の二人と戦う上で必要な使い道ではあったが、いきなり飛躍的に強化された身体能力を制御しきれていない節があった。それはエネルギーに対しても同じで、他には回復に使えた以外はただ溢れ出ているだけの飾りになってしまっていた。

 そこで強化に使っているエネルギーを身体から精神にいくらか割り振ったところ、身体同様に精神も強化されることが判明した。焦りが消え、集中力が増し、苦労した身体の制御もすぐにできるようになった。何より、エネルギーを上手く操れるようになったのが大きい。莫大なエネルギーを統べて体内にとどめ、自らの力としてフル活用できるようになった時、ヴォルムは圧倒的な強者だったはずの二人を前に負ける気がしなくなっていた。

 敵のわずかな動きすら良く見える。そのため次の動きが容易に想像できる。それに対応するだけの身体能力がある。魔術は不得手であったが、遠距離の攻撃手段としてエネルギーをそのまま弾として撃つことで代用できる。ヴォルムがエネルギーを完全に掌握してからの戦闘は、信じられないほどに一方的なものになったのであった。


「次! ……は、どうしろってんだ……」


 あっさりと、拍子抜けするほど簡単に二人を倒し、入念にとどめを刺したヴォルムは迷っていた。まだ拠点の外周部で戦闘が続いているのならそちらの加勢に行った方が良いのか、それとも、ここで守りを固めるのが良いのか。守りを固めるのなら倒れている隊員を回復しないといけないし、自分の限界もいずれは来る。流石に先程戦った二人のような強者が追加で何人も来るとは考えづらいが、敵は既に拠点を壊滅させている部隊だ。油断はできない。準備できることはやっておくべきだ。

 考えた末、ヴォルムはまず隊員を回復することを選択した。ヴォルム同様手足の腱を切られ、意識を失っているが、全員息はある。助けられることに安堵し、緊張が解けたのか自然とため息が出た。

 その時、ふと周りに意識を向けたヴォルムは小さな違和感を覚えた。不自然な何かがあるのか。あるいは見落としがあるのか。思考が加速し、状況を分析する。今周囲から集められる情報をもとに導き出した答えは、音だった。正確には無音。戦闘があれば聞こえるはずの音がヴォルムのもとには聞こえてこなくなっていたのだ。


「終わった、のか……?」


 何かしら結界のようなもので音を遮断されていない限り、音がしないということは勝ったにしろ負けたにしろ戦闘が終わっていることを意味する。当然、今もその可能性が高いのだが、思い返すとヴォルムが二人を倒した時から音は聞こえていなかったような気がする。つまりそのころには決着していたというわけだ。勝ったのなら少数だろうと増援が来るだろうし、余裕がなくてもこちらの戦闘が終わってから報告に来るくらいのことはしてくれそうなものである。では負けたのか。そう考えてもやはり、敵の増援がないのはおかしい。それに、敵の目的はヴォルムたちの後ろにいる救護班や怪我人を始末することのはずだ。ヴォルムたちは敵の進路を妨害するために外周での戦闘ポイントからの最短ルートに陣取っている。ここを少し外れることはあるだろうが、それにしたって強化状態のヴォルムが気付かないはずがない。では諦めたのか。あと考えられる可能性は、拠点の外周を大きく回っていることだが、そんな面倒な行軍をするのだろうか。

 一般的に、そこまでして潰しに来るものなのかと言われると微妙なところである。はっきり言って敵の指揮官やさらに上が作戦を諦めた時にどう処分するかの方が影響しそうなくらいにこの作戦はハイリスクハイリターンなものなのだ。既に二つの拠点を潰している彼らはここで撤退しても褒められて然るべきほどの戦果を上げていると言っても良いはずなのだが、思考を重ねれば重ねるほど、外周を回ってくるくらい迷わずやってきそうな気がしてきた。

 心配だ。なんだか嫌な予感がして、ヴォルムは隊員の回復を後回しにして救護班と怪我人を押し込んだ奥の空間に急いだ。まさかとは思うが、戦場ではそのまさかが命取りとなる。選択肢の中からどれかを選び取らなくてはならない場面では真っ先に排除するようなものでも、できるならケアした方が良い。そこまでしっかり油断なく詰められるかどうかが大局を左右することだってあるのだから。

 いつ限界が来るのか、分からないながらも未だに強化状態を維持できているヴォルムが目的地に到着するのに時間はかからなかった。しかし、彼がそこで目にした光景を理解するのには強化状態であろうと少しの時間を要した。


「やられた、のか……」


 目の前にあったのは白黒の世界だった。全てが燃やし尽くされ、炭か灰になっている。人の形をしたものもあったが、燃え尽きて瓦礫と区別がつかなくなってしまっているものが大半だった。

 惨状の中をヴォルムはとぼとぼと歩く。見渡しても生きている人間の気配は感じない。逃げられた人がいるのかどうかは分からないが、恐らくは全滅だろう。つまり、彼女もこの中にいるのだ。


「クソ……ッ!」


 どうしようもなく感情が湧き出てくる。しかし、生命エネルギーからしたら激情は排除すべきものなのだろう。冷静でいろと強制的に心が落ち着かされる。それがたまらなく気持ち悪くて、ヴォルムはその場を後にした。

 どんな顔で、どんな気持ちでいれば良いのか分からない。感情の制御は手の届かない所にある。ただ何が起こったのかははっきりと理解していた。このまま戦い続ければ負ける。勝てたとしても、相当な被害が出ることになるだろう。そこで自分はまだ戦えるのか。


「無理だ……」


 ヴォルムは完全に戦意を喪失してしまっていた。敵は強いし、拠点は全滅。これ以上傷つくために戦場に立っていようとは思えない。

 生命エネルギーが生きながらえるためのエネルギーだからだろうか。完全に体内にとどめた分そのエネルギーの影響を大きく受けるヴォルムはいつの間にか思考さえも半ば乗っ取られ、共に戦った隊員すら捨て置いてただ遠くへ、ひたすら遠くを目指して歩いて行くのであった。


 どうにか生き延びたヴォルムは、後にその戦争に戦の神が関与していたことを知る。戦が好きだから、強国に個人の強者をぶつけたらどうなるのかと遊んでいたらしい。際限のない怒りがヴォルムを支配する。神殺しを決意したのは、まさにこの時であった。

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