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第百五十三話 防衛の強化

 目指していた彼女のいる救護班の拠点に着くと、いつもより忙しそうに人が動いていた。ヴォルムたちの到着に気付いても目を逸らして対応しに来ないのを見ると、相当大変なことをしているらしい。しかし、それを黙って見ていてはいつ来るか分からない敵に備えることはできない。近くを通った兵に声をかけた。


「おい――」

「――すみません! 現在防衛を強化するように通達があったとのことで、その対応をしているところであります。怪我人でしたら、我々ではなく救護班に直接申し付けるようにお願いします!」


 自分は拠点防衛のためにここにいる。救護班の手伝いをしているわけではない。そんな心の声が聞こえてくるような気がする対応だった。それを悪く言うつもりはないが、気分の良いものでもない。ヴォルムは舌打ちをした。


「怪我人じゃないどころか防衛強化のために来てんだから、むしろそっちの管轄だろうが」


 一体何をしていたらこんなに雑な対応をされるような状況が出来上がるのか。ヴォルムは不思議に思って指揮官がいると思われるテントに向かった。

 テントの中には数人の兵がいて、その奥に小太りの男が座っていた。部下から報告を受けて、俺たちが何者でなんのためにここにいるのかを把握してくれたようだ。


「要するに、援軍と思ってよろしいのですな?」

「そのつもりです。だから、情報の共有をさせていただきたい。防衛を強化するように指示があったと聞きましたが、具体的に何をしているのか、教えていただけますか」

「今は拠点の外周を固めているところです。土嚢と木材で物理的な壁を作ってもらっています。と言っても防壁となるようなものではありませんね。まぁ、無いよりはマシでしょう」

「他は」

「他、と言われましてもねぇ。我々にできるのは見張りを増やすことくらいですよ。いち早く敵を察知し戦闘態勢を整える。急ごしらえの拠点でできる防衛の強化なんてのはその程度のことですよ」


 なんともやる気のない返事。そもそも、土嚢と木材というのも、拠点を完成させた時点で組み立てておかなければならなかったものではないのか。怠慢に怒りが湧いてくる。しかし、こんなでもこの男の方が立場は上だ。ヴォルムは短く礼を言って、拠点の内部に不審なものがないかを探っておくことにした。

 きっと、あの男は今までの戦争でも大して大変な思いをせずに出世だけしてきたのだろう。それも、実力というよりは運で得た実績によって。だから今のような異常な事態の中でもあんな態度でいられる。指揮官が焦って取り乱したらそれはそれで問題だが、今あの悠長な態度でいられるのも結果としては同じだ。焦りも油断も、戦場では排除すべきもの。拠点内部を探らせたのも万が一がないように油断を捨て去ったヴォルムの的確な判断だったと言えるだろう。

 しかし、結局何も見つからなかった。それ自体は別に悪いことではないのだが、ヴォルムとしては変なものの一つや二つが見つかってくれた方が気が楽だった。というのも、これで相手にいわゆる一騎当千の強力な人材がいるということがほぼ確定してしまったのである。今まで焼かれた拠点の様子を見るに、恐らく一方的な展開だったのだろうと想像できるが、ヴォルムはそれを何かしら罠や爆弾のようなものが拠点の中にあったからそうなってしまったのだと考えていた。だが、それがないとなると、純粋に人の手によって蹂躙されたことになる。一般兵と救護班、それから怪我人しかいなかったとはいえ、たった一つの遊撃部隊にあそこまで一方的にやられるとは考えづらい。

 自分たちが援軍に来たことによって、今この拠点は他の救護班の拠点よりも守りが固くなっている。それは既に潰されてしまった拠点と比べても、だ。だからあれほど簡単に落とされることはないだろうと考えているが、それにしたって負けないという確信はないし、逆に被害が出ることに対しては確信を持てた。

 だから、ヴォルムは一旦指揮官の居たテントに戻り、撤退について話すことにした。恐らく、今までに潰されてしまった拠点では救護班や怪我人の存在もあり、それを置いて撤退するということができなかったのだろう。そして、その方針はこの拠点でも変わらないはずだ。しかし、結果を見れば完全に潰されてしまう前に逃げた方が被害は抑えられる。怪我人を見捨てることになってしまうのは心苦しいが、部隊の長として隊員を守るために、それから、彼女を守るために、敵の危険性と撤退の重要性を説明した。


「ふむ、確かに、その考えは一理ありまあすな。私も先程報告を聞いて少し考えを改めたところです。しかし、撤退は許されないでしょう。既に二つの拠点が落とされているとはいえ、相手はたった一つの遊撃部隊。単純に数を見ればこちらが上なのですから。敵前逃亡したとなれば、この戦場を生き残ったとしても裁かれてしまいます。それこそ、敵将を討ち取るくらいの功績を挙げなければ命はないと思った方が良いでしょう」

「そう、ですか……」


 この男も現状を理解しつつあるようだが、それでも策を取り入れる気はないようだ。この男が、というよりは軍として刷り込まれた価値観がそうさせている。悔しい。単純にそう思った。


「そう悲観することでもありませんよ。先程も言った通り、敵は遊撃部隊たった一つです。それならばここで返り討ちにしてしまえば良いのです」

「それができるのなら、一番なのですが……はっきり言って、ここの戦力で勝てるとお思いですか」

「もちろん。普通に正面から戦ったら恐らくは負けてしまうのでしょうが、ここには今あなた方がいます。それに、敵も連戦で疲れているでしょう。むしろ叩くなら今。そう思いませんか」


 言われてみると、いくら強いとは言ってもここまで休憩なしで戦っているなら、疲れもするだろう。そこで今までの拠点よりも守りの硬いここだ。全滅を狙えなくても、主戦力を落とすくらいならできるような気がしてくる。


「それともう一つ。撤退について、今ならまだ敵前逃亡にはなりません。接敵していないのですからね。私たちは救護班を守る役目がありますからここに留まらざるを得ませんが、あなた方は違います。部隊を大切に想うなら、退いても良いのですよ」


 本当に、怠慢を許していた指揮官なのか。ヴォルムは自分の認識が間違っていたことを悟った。この男は、ちゃんと実力で上に立っている。


「いえ、それはできません。共に敵を討ちましょう」

「はは、心強いですね」


 揺れていた心が定まり、改めて覚悟が決まったような気がした。

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