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第百三十三話 侵入

 俺たちは今、結界の効果を活用して隠密行動をしている。内側から漏れ出た情報で気付かれないように音や魔力を遮断し、認識疎外の効果で視界に入っても意識されづらくしているのだ。しかし、姿が消えて見えなくなっているわけではない。あくまでも気付きづらくなっているだけだ。だから注意深く目を凝らせば見えるし、そこにいることが分かっている相手には見破られてしまう。魔王城の見張りが常に気を張って警戒しているとは思っていないが、堂々と真ん中を突っ切って行ける程ザルでもないだろう。

 とは言え、正面玄関の見張りはそんなに多くない。扉の両サイドに立つ二人は確実に何とかしないと通れそうにないが、それ以外は単品で見たところどうにかなりそうな気がする配置だ。各々の動きがかみ合ってしまって見付かる、なんてことは避けたいので何人か排除することは考えるができるだけそれが少ないルート取りが必要になるだろう。


「どうするのニャ?」

「周りは堀があって窓がどこに繋がっているのかも分からない。正面から入るつもりだから、今はどの見張りをどう排除するのか考えてるところだ」


 単純に思い付くのは気付かれる前に殺してしまうことだが、認識疎外のかかっていない見張りが急に倒れたら、他の見張りはそこに注目するだろう。そうなってしまうと傍にいる俺たちも見付かりかねない。だからただ殺すのは却下だ。


「全員殺してしまうのはダメなのかしら」


 はやり血の気の多いベネッサは戦闘を望んでいるみたいだが、それは気付かれてしまった時の最終手段だ。この先何があるのか分からないのに無駄な消耗はしたくないし、俺たちがここで魔族側に危害を加えることで戦争中の人間全体への恨みや攻撃性が高まってしまうことは避けたい。

 勿論、戦争は良くないみたいな日本での常識を持ち出すつもりはない。こっちの世界にはこっちの世界の事情があって、常識も違う。それは分かっているつもりだ。ただ、やるからには勝ってほしい。そのためには不用意に相手を煽らないというのも大事な要因なのだ。


「殺すのは最低限、それも暗殺だ。戦闘に発展するようなことはしない。それに、死んだら倒れるだろう? 他の見張りに死んだことがバレないように殺す必要がある」


 一応、俺ができる案として、膜状の障壁を作ってから殺し、外骨格の要領で身体を支えるというものを思い付いてはいるが、他にも案がないか募ってみる。


「体を支えるだけなら、足から体内に針金状の何かを入れて骨格の代わりにすればできる。だが、自然な立ち姿にはならないな」

「大がかりな幻でも発生させたら良いニャ。誰かできないのニャ?」

「死んだことに気付かないくらい完璧に殺せばしばらく立っててくれるんじゃないかしら」


 しかし、この問いはやはり難しかったらしく、どれも微妙な回答だった。芯にするのは障壁でやった方がまだ自然だし、幻を発生させる魔術が使える人間もいない。最後に至っては気付かずに立っているということは意識があるということ。その状態で声を上げられたらどうするのだ。殺すからにはちゃんと死んでもらわないと困る。


「分かった。下手に動くと見付かるリスクがあるから、みんなで行って、一発で決めるぞ。自信があるみたいだから、暗殺はベネッサに任せる。行けるな?」

「勿論よ。任せなさい」


 それから俺たちは始めに、一番近くにいた見張りを標的にした。扉までの最短ルート上にいるから、消えてもらうのだ。

 暗殺の手順としてはまずみんなで標的が結界の効果範囲内に入るように移動するところから始まる。周りの見張りの意識から外れたところで俺が障壁で囲み、体表にぴったりと貼り付かせて声すら出せないようにしたところでベネッサの出番だ。どんな殺し方をするのかと思って見ていたらおもむろに魔族の頭に手をのせ、その中で魔力を掻き回すことで脳を破壊していた。

 むごいようにも思えるが、実はこれ、合理的な殺し方なのである。

 外傷を与えると少なからず出血があったりと目に見える変化がある。そうすると立っている姿勢が変わらなかったとしても周りから気付かれてしまう。そこで、脳だけを破壊することで確実に息の根を止め、その上で外見はほぼ変化がない状態にできるのだ。

 それからちゃんと障壁が身体を支えられているかを確認し、次の標的へと移る。全く身動きを取らないのも違和感のある行動であるため、ここからはスピード勝負だ。

 次もまた最短ルート上にいた邪魔な見張りを標的に、ベネッサが牙を剥く。そして、残すところは扉前の二人になった。他の見張りより練度が高そうな二人なため、片方ずつゆっくりと殺している暇はないだろう。何なら近付いた時点で気付かれてもおかしくはない。そうなったら結界の効果範囲外に出て声を出される前に確実に殺し、黙ってもらうしかない。


「準備は良いか。俺が左をやる。ベネッサは右を頼んだぞ」


 目線で合図を送り、標的に近付く。結界の中に入れてしまうとその瞬間に勘付かれる可能性があるので、結界に入る寸前で障壁を展開。一瞬遅れて結界の中に入れると、二人はすぐに俺たちの存在に気付いた。だが、回避も防御も反撃もできない二人が気付いた時にはもう俺たちの手は頭にのせられている。見よう見まねで俺も魔力を流し込み、ぐるぐると掻き回すことで脳を破壊した。


「入るぞ」


 難関かと思われていた場所をすんなり通れたことは嬉しい。だが、それに浸っていられる時間はない。いつ見張りが死んでいることに気付かれるか分からないため、離脱は早い方が良いのだ。

 扉が開くことも認識疎外の結界で誤魔化し、俺たちは魔王城の中へと入った。


 入ってすぐのところは三方向に分かれる廊下だった。出入り口付近ということであまり重要な施設はなさそうである。そこで俺は神の眼を使って、二人の居場所と、そこまでの道のりを確認した。事前に見ていた時と変化はない。地下牢に入れられているようだ。


「階段に向かう。こっちだ」


 目標まであと少し。俺はこのまま何もなく終わってくれと祈りながら、鼓動のリズムが早くなるのを感じていた。

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