第百二十七話 新たな飛行法
だいぶ疑われながら入った街の中で、俺たちはチラチラ監視されながら夜を明かした。街を出る頃にはなんとなく信用してもらえていたような気はするが、怪しいことには変わりなかったようで、相変わらず警戒されっぱなしだった。だが、フォールやワイバーンたちに危害が加えられているような形跡はなかったし、直接俺たちに何かしてくることもなかったので特にこちらからは何も言わない。
監視が付くほど警戒されていたのかと思うとあまり良い気分ではないが、それだけ俺たちが怪しかったのも事実。そこにどうこう言っても揉め事になるだけなのだ。
街を出てからは昨日までと同じように空の旅だ。邪魔が入らない限りはとにかく前進。さしあたっては昼食の時間までは飛び続けてもらうつもりだ。そこで、一旦気球スタイルを試してみることにする。とは言えかごの部分がいきなり用意できているわけではないので、街で買っておいたロープを使って簡易的に足場を作る。
「昨日の飛行で大まかにワイバーンの飛行能力が分かったから、今日は全員が自力で飛ばなくて済むような方法で進行しようと思う」
そう言いながら、俺は数本ロープを取り出す。それを見て俺がやりたいことを察したのか、ベネッサが近付いて来てそのロープを手に取った。
「私たちは何をすれば良いのかしら?」
本当なら全員乗っても安心して体重を預けられるような頑丈な板やかごが欲しいところなのだが、流石にそんなものをすぐには用意できないし、今後も急ぐ道すがら都合良く手に入るとは思わない。だから、今日はロープだけで足場――というか掴まれる部分を作り、それの耐久性や安定感をテストするのだ。
そこで、何本か買ってあるロープを網目状に交差させて形を作ろうと思うのだが、俺はこういうものを作るノウハウというか、どう交差させたらどんな形になるのかのビジョンが見えない。裁縫や編み物は昔から苦手な分野だ。
「正直に言おう。分からん。足場を作ろうと思ってるんだが、どうしたら良いと思う」
だから、さっさと白状して協力を要請する。五人もいるのだから、何かしら案が出てくるはずだ。
「人の縛り方しか知らないわねぇ……」
「ボクもロープは使ったことないニャ」
「俺も足場にするような使い方はしたことがない」
と思ったら、いきなり三人はダメだったみたいだ。となるとあとはリースだ。彼女は家事全般の能力が高いため、裁縫などもできるだろう。そこに何かヒントになるような知識はないだろうか。
「……ハンモックを作ったことなら、あります」
「それだ!」
「で、でも、こんなに太いロープでできるかは分からないです……」
できるかは分からない。それでもやったことがあるだけ俺たちより上だ。結局はやってみるしかない。ということで、リースに作り方を教わりながら、俺たちはハンモックの編み方でロープを網状にしていった。
やはりリースの懸念通り頑丈で太いロープであるが故の弊害はあったが、多少結びづらいとか、ゴツゴツしてしまうとかそれくらいのもので、そもそも通常のハンモックよりもスケール自体が大きいため出来上がってみればそれほど気になるような問題にはならなかった。
出来上がった網状の足場をワイバーンに掴ませ、そこに乗る。上に乗っただけだと公園の遊具みたいだが、これがはるか上空まで飛び上がると思うと恐ろしい。きっとそこらの絶叫系アトラクションなんかより怖い思いができるはずだ。個人的にはワイバーンに掴まれて運ばれている時の方が宙づりの状態で怖いと思うのだが、まだ離陸していないのにもかかわらず震えているカーシュを見るに、怖がる人からしたらどっちもどっちなのだろう。
「ここ、これ、本当に大丈夫なのかニャ? 急に千切れたりしないニャ?」
「網の構造は問題ないはずです。ロープの耐久性のことは分かりませんが……」
早速怖がり二人組が不安になっている。面白いことに揃ってこっちを見てきた。ロープは俺が買ったから、信用しても良いのかと窺っているのだろう。太さを見れば十分な耐久性を持っていることくらい分かりそうなものなのに、恐怖に支配されているせいで視野が狭まってしまっているようだ。
「大丈夫だ。これより細いロープに十人以上乗ってるところを見たことがある。これでも保険をかけて太めのを買ったんだからな」
「ふむ、それなら俺が乗っても千切れるようなことはないだろう」
なんだかんだ一番体重のあるオルも心配していたようで、俺の説明を聞いて胸を撫で下ろしていた。だが、きっと怖がり二人組は知識として安全だということが分かっても、いざ飛んでみたら怖いと言い出すのだろう。リースは騒がないから良いのだが、昨日はカーシュがずっと騒いでいて煩かった。昨日の時点で何かあれば俺がフォローに入ると分かっていてそれだったのだから、今日もどうせ同じようなテンションでの行軍になるのだろう。
「はぁ……」
これから数時間、カーシュのやかましい声を聞いていなければならないのかと思うとため息が出る。これが何か自分から働きかけて解決する問題ならいくらでも労力を割くのだが、恐怖心との戦いは本人に頑張ってもらうしかない。試行回数を重ねて慣れてくれば叫び散らかすことはなくなると思っているが、それまでにどれくらいの時間がかかるのかは俺には分からない。ただ早く慣れてくれることを祈るしかできないのだ。
と思っていたら、何やら視線を感じたのでそちらに目をやると、ベネッサが悪い笑みを浮かべながら余ったロープを持っていた。
「一人で暴れるのは良いけれど、みんなが乗ってるところで暴れられたら嫌じゃない?」
「嫌だなぁ。無駄に揺らされて気分が悪くなりでもしたら最悪だ」
俺は彼女の意図を読み取り、話を合わせる。それから、こっそり障壁を展開してカーシュの行動を制限する。その頃にはカーシュも自分が何かされることに気付いていたようだったが、もう遅い。
「何ニャ? 目が怖いのニャ! やめっ、ニャーッ!!」
人の縛り方は知っている、ベネッサによってカーシュは身動きが取れない状態にされてしまった。
「流石に太くて縛り辛いわね」
「――――! ~~~~!」
更に口には結び目が噛まされており、意味のある言葉を喋れなくなっている。煩さ半減、暴れもしない。カーシュには悪いが、これでいくらか快適な空の旅になるだろう。
ふと視界に入ったリースが一層恐怖の色を濃くしていたので、申し訳なく思いながら視線を逸らした。




