実験
もうすぐ日が暮れる。やっと街についた。門番に止められたときはホント焦った。急に肩をつかまれ、何だろうと思って振り返ると剣を突き付けられた。驚きのあまり声も出せずにいると、オリビアちゃんが割って入ってくれ入場料を払ってくれた。
オリビアちゃんマジ天使。今度なんか奢ってあげよう。
「コテツさん。今日はもう遅いので宿に行きましょう。街の散策は明日ということで。」
「そうだね。もう疲れたし休もうか。」
「宿屋は私がいつも使っているところで大丈夫でしょうか?」
「いいよ~。」
街に入って10分ほど歩いたところに宿屋を発見した。豪華で大きな宿だ。こんなところに泊まっているだと…。
さっきも入場料を払ってくれたし…。もしかしてオリビアちゃんはお金持ちなのか…。
するとそこを華麗にスルーしていくオリビアちゃん。そうか…。違ったのか…。ごめんねオリビアちゃん。君のことを心の中で疑ってしまったよ…。
いや、お金持ちと疑ったのはダメなのだろうか…。換金したら入場料返すね。
などとくだらないことを考えていると、
「ここです!」
オリビアちゃんが元気に声を出す。
顔を上げると、木造の建物が目に入る。看板は傾き、ボロボロの外装が夕日に照らされている。
「……素敵なところだね。さっそく中に入ろうか。」
ドアを開けると、暖かい空気が流れてくる。中は外装とは似つかないよく清掃がしてあり、木の温かみを感じる。入って左手に階段があり、上の階が冒険者が止まる部屋なのだろう。奥には木製のテーブルとイスが並んでおり、食事ができそうだ。
「いらっしゃい。」
30ぐらいのふくよかで優しそうな女性が出迎えてくれた。
「あ…どうも。」
人見知りが発動している俺を押してオリビアちゃんも中に入ってきた。
「ただいま。ノルカさん。」
「おかえりなさい。オリビアちゃん。」
仲良さげに挨拶している。
「コテツさん。この宿屋の受付をしているノルカ=レリュザインさんです。オーナーはノルカさんの旦那さんのシュレ=レリュザインさんです。シュレさんは料理長でもあるんです。」
「あ、コテツ=タカミです。今日からオリビアちゃんとパーティを組むことになりました。よろしくお願いします。」
「あら、そんなにかしこまらなくていいのよ。こちらもよろしくお願いします。ノルカと気軽に読んでください。」
「はい、ノルカさん今日からよろしくお願いします。」
「はい。ところでオリビアちゃん、やっとパーティ組めたのね。よかったじゃない。ずっと一人で依頼をこなしていたから心配だったのよ。」
「ご心配をおかけしました。ですがそれも今日で終わりです!これからはコテツさんと一緒にがんばっていきます!」
なんていい子なんだ。おじさんはオリビアちゃんが喜んでくれてうれしいよ。
「そぉ。二人で頑張ってね。おなかすいてるんじゃないかい。奥に旦那がいるから早く食事にしちゃいなさい。」
奥を見ると職人のような雰囲気を漂わせるおっさんが目に入る。
「あ、今日からお世話になります。コテツと申します。」
「…おぅ…」
それだけ言うとおっさんは厨房と思わしき場所に入っていった。
「ごめんなさいね~。うちの旦那あんましゃべんないのよ。でも別に嫌ってるわけじゃないのよ。誰に対してもそうなの。」
「なるほど。」
オリビアちゃんと二人で椅子に座って待っていると料理が運ばれてくる。フランスパン切ったみたいなやつとオニオンと思われるスープ、サラダにステーキが運ばれてくる。
驚いた…。結構豪華だな…。いつもこんな豪勢なのかなオリビアちゃん。っと思ってオリビアちゃんを見るとオリビアちゃんも驚いている。
「ど、どうしたんですかこんな作ってもらえて。」
「……お祝いだ。」
「…ありがとうございます!」
かっけーなあのおっさん。さりげない気遣い。男前だ。惚れそうになる。
「私からもありがとうございますシュレさん。一生懸命頑張ります。」
「……」グッ
親指を立て厨房に消えていく。かっけーよおっさん。
おっさんの料理はどれもおいしかった。異世界初めての食事は大満足だった。食事が終わった後、ノルカさんに案内され部屋に入った。オリビアちゃんとは違う部屋だった。
部屋にはベッドが一つ、アイテムを入れる箱一つ、窓が一つ。
「今日はいろいろあったしな。少し寝るか。」
誰も起きてない時に能力を確かめたいしな。
時間は経ちベッドから起き上がる。窓から見る景色は真っ暗で静寂に包まれている。たぶん深夜だ。
「…うし。行くか。」
俺は眠気に負けず動き出す。アイテムボックスからアニンガン・Iを取り出し装備し、認識阻害と迷彩を発動する。
暗くて見難いので暗視の魔法を発動する。うん。よく見える。
窓から外に出て森に向かって走り出す。街の入り口を通るときにわざと門番の前で屈伸をしてみたが俺には気づいてはいないみたいだ。
実験1が終了した。まぁ順番なんてないし、ばれないかは一応森のゴブリンでも試したからな。まぁ俺ぐらいの強さの奴には速攻ばれると思うけど…。ゴロゴロいたら困るな…。
森に向かって走り出してから10分くらいでついた。はやいな~。ここら辺も実験しなきゃな。
森の奥に入り誰もいないことを確認する。認識阻害と迷彩を解除する。まぁ見られたら見られた時だ。
「さてと、まずはアイテムだ。」
狼をモチーフにした指輪が光りだす。指から指輪が無くなったと思うと目の間にとっても大きな狼登場。大きさはバスほどだ。
月明かりに照らされた白銀の体毛は一本一本が針のようだ。大きな瞳は藍色で宝石を思わせる。首には大きな数珠のようなものが首輪みたいにかかっている。
大狼大口真神の召喚に成功した。召喚した瞬間につながりを感じる。これが召喚か…まぁマントも使えてたしそりゃできるよね。
「主よ。我に何を望む。」
目の前の狼が話かけてくる。話せるんだね。ゲームではこんなことはなかった。
「別に何もないよ。実験しただけだし。」
「む。実験とはどういうことか。」
「ゲームの中と同じようにアイテムが使えるかの実験。俺の生命にかかわってくるからな。」
「ゲーム?命にかかわるとは主は誰かに命を狙われているのか!」
「いや、そうじゃなくてさ。ゲームのアイテム使えなかったら俺すぐ死ぬ可能性がすごく高いんだよね~。今。」
「む~。さっきからゲームゲームと意味が分からんな。」
「なるほどね~。そんな感じなんだ。」
話している感じオグチ(略して)はゲームでの記憶がないのか。じゃあ最近の記憶はどうなっているんだ。
「なぁオグチ。この召喚以外で最近俺がお前を呼んだのはいつだ?」
「うむ。【神の居城】以来の召喚になるな。」
【神の居城】は覚えてるのか。あれをゲームとは思っていない…。というかあれがオグチにとっての現実だったのか。
「そうか。あんがとさん。」
「うむ、他に何かあるか。」
「いや、特にないな。もう指輪に戻ってもいいぞ。」
「む~。せっかく召喚されたのにすぐ戻るのは嫌じゃ。主の実験を見とくよ。」
そう言ってオグチはその場に座り込んでしまった。
俺はアイテムボックスからスクロールと回復のポーションを取り出す。
スクロールには様々な種類はあるが、いま取り出したのはモンスター召喚のスクロールである。
俺はスクロール開いて中に施された魔法を起動する。地面に魔法陣が発生し、光が魔法陣の上にできる。光は徐々に大きくなり姿を変える。
魔法陣からはグリフォンと呼ばれるモンスターが現れた。体はライオン、尾は蛇。鷲の顔と翼があるモンスターで、RPGにはだいたいいるのではないだろうか。そこそこの強さのモンスターだ。
召喚したことによりつながりを感じる。グリフォンは話せそうにない。オグチが…というより創星級での召喚では話が違うのかもしれない。レア度最高は伊達じゃない。
召喚したモンスターは召喚者の命令を聞くことから、もちろんこちらの味方だ。
「実験その2だ。」
グリフォンに命令して俺を攻撃させる。グリフォンは俺めがけて口から炎を放つ。オグチの前足が炎と俺との間に入り炎は俺まで届かない。
「ちょっと~。実験中なんだからさ~。」
「なんの実験なんだ?」
「FFの実験だよ。」
「FF?」
「ようは味方の攻撃にダメージはあるのか実験してるの。」
「ならグリフォンなど呼ばず我が攻撃すればよいだろうに。」
「アホ、お前の攻撃なんか今くらったら死んでしまうわ。死んだら蘇られるかわかんないんだからな。」
「む~。」
オグチは不満げに唸るとまた座った。もう一度命令して攻撃してもらう。
グリフォンが放った炎は俺を少しだけやけどさせた。FFは通るのか。これは面倒なことになった。オリビアちゃんとの戦闘時は特に注意せねば。
俺は取り出しておいた回復ポーションを飲む。…栄養ドリンクみたいな味だ。現世ではよく飲んでいたっけ。
ポーションを飲むと体のやけどがみるみる治っていく。
「実験2、3が終わったな。次は魔法だ。」
俺はグリフォンをオグチの近くに移動させる。
「オグチ。これから攻撃するけど大丈夫だよな。」
「うむ。」
オグチの了承も得たので、2体に毒の魔法をかける。
〔猛毒〕
するとグリフォンは苦しそうに体を崩しているが、オグチにはかかった様子は見えずケロッとしている。
俺は右手を2体に向け魔法を発動する、
〔死神の右腕〕
暗闇の中から突如巨大な骨の腕が出てくる。その手には巨大な鎌を持っている。
10位階の攻撃魔法で広範囲に効果がある。術者の腕の動きに合わせて攻撃できるので愛用している魔法の一つだ。
俺は2体に向けて腕も横に振る。俺の動きに会わせて骨の腕も横に振るわれる。
すると目の前の木々とグリフォンは真っ二つに切れる。
グリフォンは光の粒子になり消えていく。つながりが消えた感覚がする。
「さすが10位魔法だな。攻撃力は申し分ないわ。オグチはピンピンしてるけど…」
効果範囲には入ってたんだけどな…。オグチにダメージが入った様子は見えなかった。まぁ神だしな。
だが10位階の魔法は凄まじいな。目の前の木々はすべて切り倒されている。上から見たらここら一帯だけ木々がないだろう。神魔法は使えないな……危険すぎる。
ふと、ゲームで習得していない魔法は使えるのか気になり、
「火球」
と言ってみるが何も起きなかった。他にも浮遊や氷弾など試してみたが使えなかった。
最後にステータスでも見て帰ろう。眠くなってきた。
俺はステータス画面を開く。
「ん?」
ステータスにはLVと取得している職が出される。その中でLVの表示がErrorとなっていた。
「ここに来る前は最高レベルの200だったんだがな…」
不思議には思ったが別段気にすることでもないと思うのでオグチを指輪に戻し宿に帰る。
オグチは最後までむ~と唸っていた。