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#5


「まじかよ」

ホープが嬉々とした表情でいう。

「それだったら、ポンドも良くなる気がするぜ」

サムも予想外の提案に喜んでいる様子だ。

「やったね」

「やったね」

「ヒメリのおかげだね」

「そうヒメリのおかげだ」

ポールとシトネはもう計画が実行されたかの如く喜んでいる。

「私はできる限りのことをするわ。あなたたちがまた幸せに暮らせるようにしたい。もし、孤児院に戻りたいということなら知り合いにとっても顔の広い人がいるから何とかできるかもしれない」

「いや」

サムが制止する。

「それはいいんだ、ヒメリ。俺たちは、自由に、ここで暮らせた方が幸せなんだ。だから、そこまでは大丈夫」

彼らの表情を見ても、その言葉に嘘はない様に思えた。確かに、孤児院には入れるとしても彼らが同じところに入れるとは限らない。彼らは兄弟であり、家族なんだ。

「わかったわ。じゃあ、計画の実行日に目途がついたら霧の晩にまたあの路地に行くわ。同じ時間。いいかしら」

「もちろんだ」

その後、彼の家を辞する。最初の路地までホープが付き添ってくれた。

「遅い時間まで付き合ってくれてありがとう」

「いいのよ。もともとは私があの星のスタチュエットを持って帰ってしまったのが悪かったのだし」

「気にしないでよ」

そう言って彼は小さい肩をすくめる。

「でも―――」

「ん?」

「本当に、ありがとう。あんな表情のサムは久しぶりに見た。その、なんだろ、希望があった。お願いね、ヒメリ。頼りにしてる。それじゃ、俺はここで」

気が付くと、例の路地に来ていた。

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみ」

またふわっと出てきた白い霧にホープは消えていった。彼が踵を返す瞬間に見せた憂いのような複雑な感情をはらんだ表情を私は忘れられず、ベッドに入って眠る瞬間までフラッシュバックは続いた。



「ほほう!これは思った通りの出来だよ。やっぱり君に任せてよかった。これでいこう!」

私はウィルに出来上がった新しいロゴを見せに来ていた。

応接室には抹茶の匂いが漂っていた。例によってまたデザインの話の前に試飲をさせられていたのだ。

「ありがとうございます。では、早速、業者に発注をかけて来月、四月の一日には七店舗すべての切り替えが済むようなスケジュールで進めますね」

「そうだな。これはきっと早い方がいい。いやぁ、本当に君は素敵なデザイナーだよ」

ウィルは普段以上に恵比須顔で喜んでいる。彼自身のアイディアを活かした最終案を相当気に入ってくれたようだ。

「おほめに与り光栄です」

「君に何か個人的なお礼がしたい。どうだ、何か欲しいものはないかい」

こういった類のお話は実際のところよく頂く。ありがたい話な反面、報酬を別できちっと頂いているので後ろめたさも少しある。でも、今日は少しだけ甘えてみようかしら。

「では、社長にちょっとしたお願いがあるのですが」

私は昨晩から頭の中で練習してきた相談を社長に持ち掛ける。ウィルは真剣に話を聞いてくれた。そして、私の話を全て聞き終わったところで、

「なんだ、そんなことでいいのかい。お安い御用だよ。まったく、君らしい話だよ。タイミングは君に任せるから、その時が来たら連絡をしてくれ」

と、二つ返事で快諾してもらえた。よかった。こんなにも快く引き受けてくれるとは思わず、拍子抜けをしてしまった自分に心の中で苦笑いをする。

「社長、感謝いたします。」

「いいんだ。君は私と、親父の思いを繋いでくれた恩人なんだ。仕事の関係が終わった後は私の友人になってもらえるかな」

「ぜひ、こちらこそお願いします」

ウィルに深くお辞儀をして店を出る。ぶんぶんに振り回す彼の握手だが、今日は一段と強烈だった。

「よかった。また店にも来ておくれよ」

「ええ、それではまた」

手筈は整った。これであとは実行タイミングを待つだけだ。予定日が確定したら、サムに伝えなくてはならない。オフィスに戻る前に彼らのところへ寄っていこう。

大英博物館前の路上スタンドで売っていた焼き立てのワッフルを人数分買って、彼らのもとへ向かう。おぼろげながら道は覚えていた

そこは明るいと気は中に人が住んでいるなんて見当もつかないような外観である。あばら家とも呼べたものではない。

入り口と思しき場所に立ち、ノックをしたものか、声をかけたものか考えあぐねているところで後ろから声をかけられた。彼はこの間とは違って非常にラフな服装をしてる。

「やぁ、ヒメリじゃないか。こんな時間にどうしたの?」

「ようやく計画の実行のめどが立ったのよ。それをあなたたちに知らせようと思って。ほら、お土産もあるのよ」

そう言って私はわざとらしく抱えた紙袋を強調する。

「いいニュースばっかり!さ、入ってよサムも中にいる」

ホープに招かれる形で私は再び彼らの居住区に足を踏み入れる。

「ただいまーヒメリも一緒だよー」

ホープが大きな声で言いながら室内へ入っていく。

「え、ヒメリが来たの」

「本当だ、ヒメリが来てる」

示し合わせたように話すポールとシネトは通常運転の様子だった。

「こっちこっち、待ってたよ」

「こっちだよこっちだよ、待ってたの」

二人にコートの裾を引っ張れながら進んでいくと、そこにはサムがいた。彼もこの間と別段変わった様子はない。

「ハイ、サム。元気そうね」

「ああ、いつも通りだよ。ヒメリが来たってことは、決まったんだ」

「ええ、決行は4月1日の晩よ。ポンド君の様子はどう?」

「落ち着いてる。いまのとこはね。にしても、そんなに日はないわけだ。俺たちは何をしたらいい?」

「あなたたちはいつもと同じように動いてくれたらいいわ。でもやっぱり、一晩かつ、あなたたちだけで星座を完成させるのは難しいわ」

「それは、何度も検証をしている。それがクリアできなきゃ意味がないんだ」

この間、私は彼らがへびつかい座を完成させるために、今の仕事と絡めて協力ができるかもしれないという提案をしていた。そしてその時、彼らの人数だけでは一晩のうちにそれをかなえることはとても難しいというところまで共通認識として持っていたのだ。

「分っているわ。だからその打開案を持って来たってことよ」

「え」

彼はさぞ驚いた様子だった。

「ヒメリ、もったいぶらずに教えてくれよ。その打開案ってやつをさ」

ホープが身を乗り出す。

「じゃあまずは、これを見て」

私はテーブルの上に電子ペーパーを広げるとロンドン市内の地図を表示させる。そして、その上に7つの虫ピン型のアイコンを表示させる。

「これはなんのしるし?」

「まぁ、ちょっと見ていてよ」

そう言って私はまずはその七つを指でなぞり結ぶと、地図上に綺麗なオリオン座が浮かぶ。

「これ知ってるよ、これオリオン座だ」

「僕も知ってるよ、オリオン座だね」

「そう、オリオン座。そして、私がいま仕事で担当をしているカフェの位置なの」

「ん、まだ話が見えねぇな」

サムが怪訝な表情を浮かべる。

「じゃあこれならどうかしら」

そう言って私はペーパー上にへびつかい座を出現させる。そして、拡大を開店を加えながらロンドン市内を移動させてある位置に止める。

「あっ」

彼ら4人が声をそろえた。

「そう、オリオン座とへびつかい座は縮尺を変えることで一部重ねることができるのよ。そして、これがオリオン座の位置に4月1日に出来上がる」

ペーパーの表示を変えて私がデザインしたカフェのロゴを表示させる。7種類表示されたロゴでひときわ目立つ位置に置かれた星印は彼らの希望の星になりえるだろうか。正直なところ不安ではあった。

「ヒメリが作ってくれたものなんだったら、これはセーフだよね、サム?」

ホープが答えがすでに分かっている質問をサムに投げかける。

「ああ、もちろんだ。そのほかを俺たちだけで回るっていうのもなかなか大変そうだぞ。時間が間に合うか―――」

「ねぇ、サム。すっごく偶然なんだけどね、このカフェ4月1日にロゴのリニューアル記念を兼ねて星型の花火を上げるんだってさ。しかも、深夜に」

「え」

サムが目を丸くする。

「しかもね、花火を上げる場所はここなの」

そう言って先ほどまで表示されていた地図に戻し、さらに虫ピンを打つ。

「これって・・・」

「ほんと偶然よね。打ち上げ場所をなぞったらあら不思議!へびつかい座の外周があっという間にできてしまうのよ。だからあなたたちはこの辺りの慣れたところにしっかりあの星のスタチュエットを配置してくれたらいいの。それで、おまじないは完成するわ」

「花火だ!やっほい!」

「花火だ!うれしいな!」

いつの間にか二人は喜びながら室内を走り回っていた。

「ヒメリ・・・ありがとう。こんなことまでしてくれるなんて、想像もしてなかったよ」

「気にしないでサム。全部偶然なんだから。せいぜい私はオリオン座とへびつかい座が偶然重なることに気が付いたくらいなんだから」

「子の恩は一生忘れねぇ」

サムが深々と頭を下げる。子供に頭を下げられてしまうなんて私はなんだかバツが悪くなる。

「俺からも礼を言うよ。ありがとう、ヒメリ」

ホープとは固い握手を交わした。彼の眼にはうっすら涙が浮かんでいたように見えた。

「そうしたら、私からのお願いも一つだけ聞いてもらえないかしら」

何でも言ってくれと言ったサムが快諾してくれたことで、私の気持ちのつっかえもいくらかスッとした。きっとこれでよいのだ。



4月1日はあっという間に訪れた。落成式を午前中に済ませて、ご満悦のウィルに改めてお祝いとお礼を告げてる。

「ありがとう、ヒメリ。例のイベントは深夜11時半でいいんだな」

「ええ、社長。改めてご協力感謝いたします」

「なんのなんの。わしも、このめでたい日に景気づけの一発でも上げたいと思っていたんだ。それよりも――」

ウィルはそこでいったん意味深に切る。

「なんでしょうか」

「いや、なんでもない。やれるだけやってあげなさい」

「ありがとうございます」

彼が何を言おうとしたのかは気になるところだったのだが、私も準備に入らなくてはいけなかった。

そして、集合時間の午後十一時はあっという間に訪れた。ジャックには今日はウィルと会社の人間と祝杯を上げるから遅くなると伝えていた。また一つ借りを作ってしまった。

「みんな、準備はできてる?」

「もちろんだ」

「オーケーだよ」

「問題なしっ」

「問題ないぜっ」

サムから順に全員が意気込む。彼らはあの日と同じ白いローブだ。そして、狙ってもいなかったのに霧まで出始めるとはおあつらえ向きの夜ではないか。


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