来た者達は
*この話は別視点となっております。
――盗賊団アジト前の森にて
「いいじゃんかよ」
「いやよ」
「早くしてよー」
と、若い男性と二人の女性が何やら言い争っていた。
「――だから野宿でいいじゃねぇかよ! 明日にしようぜ!」
「いやよ、さっさと用事済ませて建物があるならそこで休めばいいじゃない!」
「そうだよアレス! 盗賊団がどうなってるかなんて仕事早く終わりそうだし、もし戦闘になったとしても負ける可能性なんてないし! あと、なんとなく雨とか降りそうだし!」
どうやら冒険者であるアレスという者は、森の中にある盗賊団を最近見なくなったということでどうなっているのか確認してきてほしいと依頼を受けたのだが、夜になりこの暗闇に乗じてすぐに仕事を終わらせるか、明日になるまで野宿して待つかで、仲間二人と意見が割れてしまったようだ。
「あーあーそうかい、ならいいさ! 俺だけで野宿するからお前らだけであそこに行ってこいよ!」
一対二なので不利な状況で若い男性ーーアレスは話し合うのがめんどくさくなりそんなことを言ってしまったのだが――
「それはダメよ、アレスを一人にするわけにはいかないわ。ねぇリリー?」
「うんうん、メリッサの言う通り一人にするわけにはいかないよね」
メリッサと呼ばれた女性はいかにも魔法使いと言えるような格好をしていた。蒼く長い髪を三つ編みにして後ろから方にかけ、手には先端に青の水晶のようなものがついた身長と同じくらいの長さの杖を持っている。エルフなので長い耳が特徴的だ。
リリーは格闘家のような格好で茶髪をポニーテールにしており、メリッサと比べると小柄で動きやすいような格好をしている。腰にはポーチがあり様々な道具が入っていて、両腕には金属製の篭手を付けており、元気が有り余ってしょうがないくらい動き回っている。
「な、なんでだよ!」
そんな二人にはアレスを一人にするという選択肢はないようだ。
「そんなこと言われても……ねぇ?」
「なはは……ねぇ?」
二人合わせてスーっと息を吸い
「「――だって見てないと何をしでかすか分からないもの(からね)」」
「何もしねぇって信用ないなぁ」
「信用? そんなものとっくの昔に捨ててきたわ」
「知り合ってひと月で捨てたね」
「ひどいなお前ら……」
二人の言葉にショックを受けてアレスは落ち込んでしまった。どうやらこれまでに様々なことをやらかしたみたいで二人には信用されていないようだ。
「とにかく俺は今日行きたくねぇんだよ。明日だ明日」
「勝手なこと言わないでよ、大人でしょ。ほら早く仕事終わらせに行くわよ」
そういってメリッサは腕を掴んでアレスを引っ張る。
「そっちもそっちで自分勝手なこと言ってんじゃないかよ……」
呆れたアレスはもう言い争うのが面倒だと思ったのか抵抗するのをやめ、メリッサは連れてった。
「おい、引っ張るなよ。自分で歩くから」
「ダメよ、勝手にどこかに行かないように縛って引きずっていくんだから」
「おい馬鹿やめろ! 人をモノみたいに扱うんじゃねぇ! おいマジでやめろ! 縄で縛ろうとするな! ていうか縄なんてどこから――」
◇◇◇
「ふー、着いたわ。場所はここね」
「結構歩いたね。わたし疲れたよ」
「……お前ら後で覚えてろよ」
縄でグルグルに巻かれて簀巻き状態になったアレスが恨めしそうな顔で二人を睨む。引きずられたので体中に泥が付いたりして汚れてしまっていた。
「ほらほらそんな怖い顔しないで、拭いてあげるから」
「……ふん」
「こりゃーだめだね、拗ねちゃってるよ。なははっ」
「こんなんで機嫌が治ると思って――」
おとなしく二人に拭かれているとアレスは何か思いついたようで悪そうな表情を浮かべていた。
「へへっ、そうだそうしよう」
「ねぇメリッサ、アレスが何か悪いこと考えてるよ……」
「放っておきましょ、どうせ『詫びとして酒奢ってくれよ』とかだろうから」
「な、なぜ分かった!?」
「いつもお金がないと奢ってくれとか言ってるじゃない」
アレスは大の酒好きなのでこのようなことがあると、いつも酒を奢ってくれと言っている。冒険者としての稼ぎはほぼ酒代に消えているので手持ちの金がなくなると二人にたかっているのだ。
「ねぇねぇ二人とも」
「ん? どうしたの?」
「なんかさぁ、このアジトかなりボロボロじゃない?」
リリーの疑問に二人は改めてアジトを見てみる。
「よく見るとそうだな」
「ええ、幽霊屋敷に負けないくらいボロボロね」
暗闇でよく見えないが確かに壁に穴が開いていたり窓が壊れていたりとボロボロだった。
「さあ、おしゃべりはここまでにしてさっさと始めるわよ」
「おぉー! やるぞー!」
「だから俺は今日やらな――「はいはい、終わったらお酒奢ってあげるから」――よし、やるか!」
酒を餌にやる気を出す、単純なアレスだった。一行は今必要ない持ち物を木の影に隠して準備をする。
「確認だ、中がどうなってるか分からないからまず俺が入って様子を見る。俺が合図してから二人は来てくれ。メリッサは前に出すぎるなよ、後衛なのにいつも出てくるからな」
アレスは先程の仕返しの意味を込めてメリッサのことを注意する。
「なっ! いつもじゃないわよ! アレスが前に行くのが遅いからじゃない!」
「ちょっと大声出さないでよ、気づかれちゃうでしょ。そういうのは後にして、早くアレスは行った行った! 早く終わらせるんでしょ?」
リリーに小声で促されて二人は苦笑いし、アレスはアジトのドアに向かった。
「んじゃ、行ってくる」
そう言いドアを開けて中に入っていく。中の壁や床は外側と同じくボロボロになっていた。
「……誰もいないのか」
中は明かりがついておらず、人がいなかった。危険がないと確認したアレスは外に待機している二人に合図を送って中に呼んだ。
「なんか拍子抜けだね、誰もいないなんて」
「それに部屋の大きさにしては物が少なすぎるな」
「たぶんだけどこのアジトって捨てたんじゃないかしら? こうもボロボロだと直すより新しくしたほうがいいと思うし」
メリッサの言葉に二人は「あーなるほどね」と納得する。
「ならどうするよ、このまま帰るか?」
「冗談言わないでよ、ここで一晩明かすのよ」
「……あれはマジで言ってたのか」
「当然。外で野宿よりはマシだもの」
「ならどこで寝るか場所を探さなきゃ」
リリーが場所を探すためにピューっと何処かに行ってしまった。
「しゃあねぇなぁ」
「リリーが上に行ったみたいだから私も上を探すわ。あんたはここを探してね」
「おいなんで俺一人――「何か文句でも?」――了解しました」
そう言い残しメリッサも寝床の場所を探しに向かっていった。
「さて、行かないと後が怖いから俺も行きますかね……おっと!」
言われたとおり奥の方を探しに行こうと歩き出したが足になにか引っ掛けて躓いてしまう。
「あぶねー転ぶところだった、なんだこれ?」
その場にしゃがんで持ち上げたものは、ボロボロの布に包まれたなにかだった。
「中に何入ってんだ?」
これは先ほどまでカイトが持っていたもので、誰か来るとわかった時にその場において行ったしまったのだ。
「うわっ、なんだよ全部使い物になんねぇじゃん」
アレスはなんでこんなものが包んで置いてあるのか疑問に思い理由を考えることにした。酒一番の頭でできる限り考えて、誰かここに潜んでいると一番危険が高い答えに至る。
「……もし誰かいるなら虱潰しに探しださねぇとな。危なくて寝れもしねぇ」
そう言って立ち上がり近くにある部屋から探し始めた。
◇◇◇
「うーむ、ここにもいないか……」
ふう、と息を吐きながらドアを閉める。手当たり次第に部屋を探したが誰かがいる形跡は見当たらなかった。
「俺の勘違いか? まあ、いないならいいんだが……最後は奥の部屋か……ん?」
残った一番奥にある部屋を探そうと近づくと、床に血が垂れていることに気が付いた。探すことに固執していたため視界に入っていなかったのだ。
「なんでこんなところに血が……」
体を見ると血はどこからも出ていないので自分の血ではない、上にいる二人は降りてきてないので違う。そしてその血は奥へ続いていた。
「やっぱり誰かいやがるな」
腰にある剣を抜き、警戒しながら血をたどって進んでいく。すると一つのクローゼットのような物の前にたどり着いた。
アレスはさらに警戒を強め、ゆっくりとクローゼットもどきの取っ手をつかむ。心臓がバクバクと鳴り、耳にその音が響いてくる。
そして勢い良くその取っ手を引くと――
「――あ?」
「――あっ」
中に隠れていた子供――カイトと目があった。
今月は週一更新目標にやってるけど来週はちょっと厳しいかも