女神の拉致は唐突に
……
……?
(……なんだろう、この感じ。体がすごく軽い、水の中で脱力してるみたいな感じがする。楽でいいや。)
『ーーっと、--ぇ、--こーーる?』
(……なんか聞こえる。)
『--もしーー、おきーーよーぇ』
(うるさいな。俺の邪魔しないでくれ。)
『やっとーーがーーたのに!』
……イラッ。
『---ちょっと、ねぇ、聞こえてる?』
「だぁーー!!! さっきからうるさいんだよ! 静かにしてくれ!」
『え、あ、その、ご、ごめんなさい!』
「まったく……」
『あ、待って! 寝ないで! 話を聞いて!』
慌てて俺に話を聞いてと言ってくるやつ、見ると二十代くらいで金髪を腰まで伸ばしている碧眼の女性。で、なんか背中から真っ白な羽が生えてる。周囲を見ると真っ白な空間にフワフワと浮いているようだ。
「……ってあんた誰! ここどこだよ!」
『聞いてくれるんですね! よかった……、えぇー、コホン。私は貴方をこの異世界に呼んだか「ああ、神様か?」みさ……ま……』
なぜか途中で言うのをやめてシクシクと泣きながらうずくまってしまった。えぇー、メンタル弱すぎない?
「おい、大丈夫かよ。女神様がそんなんで落ち込むなよ。」
『シクシク………………グスン、ええ大丈夫です。まだ大丈夫です。もう大丈夫です。』
「うわぁ……これほど信用できない大丈夫を聞いたことがない。」
『ひ、ひどい……そこまで言わなくても……』
「で、ここどこだ? なんで俺の怪我が治ってんだ?」
なぜかあれだけの大怪我がきれいさっぱりなくなっていた。右目もちゃんと見えるし右腕も元通りになってる。
『あ、ここはいわゆる精神世界です。現実の世界ではないので怪我とかそういうのはなくなってます。あなたは現実世界で丁度良く意識を失っているので連れてきました!』
「なんだよ丁度良くって! 誘拐か! 犯罪神か!」
『ヒィ! ゴメンナサイっ! 今しかないと思ったんですぅ!』
謝りながら完璧な90度のお辞儀をする神様。威厳がこれっぽちも感じられねぇ……。うん、こいつはダメだな、ダメな女神だ、駄女神だ。
「まあいいさ、ところで名前は? 神様だけど名前くらいあるんでしょ?」
『なんで神である私に対してそんなに軽いんですか……?』
「なんでって言われても…………全然、いやまったく威厳がないから!」
『グハッ! ……そ、そんなに威厳ないですか?』
「ああ、ないな。てか名前教えろよ。駄女神って呼ぶぞ」
『だ、駄女神!? やめて! それだけは嫌! ふ、ふん、私の名はアスフィールよ!』
「そうか。じゃあアスフィ、最初に俺をこの異世界に呼んだとか言ってたよな」
『いきなり略称!? 図々しいにもほどがあるわよ!』
「いいから答えろよ。ほら早く。」
『むぅ……コホン、そうです。私が貴方を呼んだのです。』
「……何のためにだ? なんの特徴のないただの孤児の学生を何のために呼んだんだ? どうせありきたりな世界を救ってくれみたいなもんだろ?」
『違いますけど。』
「え、違うの?」
『貴方達は”次元越え”に選ばれたのです。』
「貴方達? 俺以外にもいるのか? それに次元越えに選ばれたって……」
『貴方以外だと5人です。それに全員貴方がよく知っている人たちですよ。』
俺のよく知っている人? しかも5人とも? はて、誰だ一体?
『貴方がよく一緒に行動していた人たちですよ? わかりませんか?』
一緒に行動していて、よく知っていて、そんで5人……まさか……
「俺のゲームでのチームメンバーか! でもなんで俺たちなんだ?」
『はい、その通りです。それと選ばれた基準などはあとでお話しします。それで……申し上げにくいのですが……』
何やら目線をそらして言いよどむ神様。一体なんだよ。
『貴方達6人をこの世界に呼ぶ際にですね、そのー、ちょっとだけね、間違えたといいますかー、時間がなかったと言いますかー、1人だけ他の5人とは違う風に呼んでしまいまして。』
「ふむふむ」
あらま、それはかわいそうに
『うまくいっていれば前から用意していたそれなりの名家の子供として、記憶を持ったままこの世界に来れるんですが……あ、貴方達が本来の年齢差どうしで会えるように違う時間で飛ばしたので先に行っている方もいますが。』
「ふむ? まあ、いきなり同い年と言われても変だと思うからいいけど。」
うん? 名家の赤ん坊? 俺は5歳児でしたけど?
『貴方……カイトさんだけ5歳のころの姿そのままで呼んでしまって……この場合転移ということになるんですが……』
「ふむ……」
そうかそうか、そのかわいそうな奴は俺のことかー
「……おいこらテメェ、なにしてくれんじゃ駄女神が!!! お前のせいで俺はあんな体で一人さみしく森に何日も放浪する羽目になったんじゃねぇか! どんなに大変でつらかったか分かってんのか!? ああ!?」
『……ウェッ!』
俺が大声で言ったせいかさっきよりも泣きそうな顔になる駄女神。めんどくせぇ……こいつ
『そ、そんなに怒鳴らないでくださいよぅ……わ、私だってしたくてそうしたんじゃないんですからぁ! あと駄女神って言うなぁ!』
「……ふう、これも過ぎたことだからいいがこれはお前のミスだろ。あ、一つ聞きたいんだけどいいか?」
『グスッ……な、なんですか?』
「俺の体……いや、現実の俺の体って今どうなってんの? 覚えてる限りだと結構ひどいけがしてて出血がヤバかった気がするんだけど? あれだと死んじゃうんじゃない? もしかしてもう死んでる?」
『いえ、放置してたら死にますけど、私の力で出血しないくらいに回復してあります。あ、回復はサービスですよ? その時に右目のほうの眼球がついでに元通りになってますが、視力は失ってるので見えないです。』
ふーん、回復してるのか。流石に死んだと思ってたから嬉しいな。ついでに視力も戻せよ。……ん? 上から目線? しらんな。
「ところで右腕は?」
『……治ってないです。一人の人に……というか世界にあんまり関わるのは問題があるので。』
だから右腕は諦めてくれと、そういってるのか? 女神なんだから右腕もどうにかしてくれると思ってーーあぁ、そうか。
「……そうだった、駄女神なんかに期待した俺がバカだったよ……ごめんな。」
『い、いい加減に駄女神って呼ぶのやめてよぅ! そして謝らないで! なんか悲しくなるからぁ!』
とうとう膝を抱えてうずくまってしまった女神様……は、放置しようか。めんどくさいし。
「いいから早く俺を元の場所に戻せよ。さっきは少し回復してあるって言われたけど自分で確認しないと不安なんだよ。」
『……う、ぐすん、そ、そうだよね。不安だよね。』
なんか度々女神のキャラが……というか言葉使いが威厳あるものから友達との会話みたいなフレンドリーなやつに変わってるんだが、これが本当の女神か?
「……そうだ、あとで話すと言っていた俺たちを選んだ基準ってのはなんなんだよ。」
『うん? あ、基準はね、えっとー、ある程度の人数で集まっていて、男女の割合が五分五分で、その全員が強く、そして何よりも魔法が使えるゲームが好きなことです。』
「魔法が使えるゲームが好きなこと? なんでだ?」
『この世界は魔法が普通に存在します。なのでそういうのが好きだったり、よく知っていたりしていた方がいいかなーと思ってね。』
そうか? 別に魔法は誰でも使ってみたいと思うし、知ってると思うけどな。好きじゃない人はゲーム好きじゃないだろ。多分だけど。
『あとゲームしてる人だったらそのゲームの能力とかそのまま使えるようにすれば、私が色々と楽できそうだし……チートくれとか言われてもあげたくないし。(ボソッ)』
「そっちが本音か……」
『とにかく、そういう基準なの! はい、この話お終い!』
「なんでその基準で俺たちなんだよ。他にもいただろうに……」
『もういいじゃない、そんなこと気にしてもしょうがないでしょ。さっき誘拐とか言ってたけど未練とかがないからこっちに来れたんだからね。』
確かに知ってもどうしようもないけど、ねぇ……気になるじゃん。
『それから、戻ったらステータスを確認しておいた方がいいですよ。貴方があの猪を氷漬けにして倒してしまったからレベルが上がっているはずですから。』
へぇ~、あの猪倒したことになってるんだ。氷漬けにしただけだからまだ生きてるのかと、コールドスリープ状態じゃないんだな。
『まあそんなわけでこれからこの世界を楽しく生活してくださいね~。』
ニコニコ笑いながら軽く手を振ってくる。殴りたい、あの笑顔は、プライスレス。by俺 じゃねぇよ
「ちょ……!」
すると急に浮遊感がなくなり、ふわふわ浮いていたのでどんどん落ちていく。おい! 落ちるのって怖いんだぞ!
『バイバーイ!』
次あったら絶対叩いてやるからな!