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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
終末、来たれり
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女神の盾

 シールドから放たれたガトリングの猛火を、アクエリアスは地面に潜って回避した。

 だが、直後降り注いだミサイルが安住の地を砕いた。


 アルデバランはアクエリアスを助けるべく重力波を向けようとしたが、弾丸が襲って来た。

 先ほど放たれたガトリング弾。

 アクエリアスではなく、アルデバランを狙った誘導弾だったのだ。

 アルデバランは防御せざるを得ない。


 須田の両脇から砲口がせり出して来た。

 そこから放たれた砲弾が、コンクリートを貫きアクエリアスを襲った。

 場所を読まれている、アクエリアスは潜行を断念し跳んだ。


「ようやく顔を出してくれたか、アクエリアス。暇で暇で死にそうだったんだよ」

「ホザケ、小僧! 私ヲコケニシテクレタコト、後悔サセテヤルッ!」


 アクエリアスは空中で回転、放たれたガトリング弾をすべて弾き飛ばした。

 ブレードだけではない、鱗にも魔力を浸透させ、銃弾をも弾き飛ばす堅牢さを実現させているのだ!


「惰弱ナ弾丸如キデ、私ヲ殺スコトガ出来ルトデモ!?」


 アクエリアスは着地し、須田に飛びかかろうとした。


 だが、その前に須田が動いた。

 シールドが変形、ナックルのような形になった。

 背部のランドセルから炎が迸り、須田の体を前方に押し出した。

 繰り出した拳がナックルの後部より発生した炎によって加速した。


「バッ……バカナァーッ!?」


 巨大なナックルに殴られ、アクエリアスの体が後方に吹っ飛んで行った!


「バカな? それは僕のセリフだよ、アクエリアス。

 僕はキミたちの存在を知って以来、何度も言って来た。

 バカな、信じられない、そんなことは有り得ないと」


 吹き飛んで行くアクエリアス目掛けて、腰のキャノン砲が放たれた。

 アクエリアスは寸でのところで反応し、一発をブレードで弾き飛ばしす。

 だが、その威力はあまりに大きい。

 逆にブレードが弾かれ、開いた胴にもう一発の砲弾が突き刺さった。


「いい気分だな、キミたちに『バカな』と言ってもらえるのは。

 『信じられない』と思ってもらえるのは。

 ようやく僕は、キミたちの想像を追い越すことが出来た」


 アクエリアスの危機を察知したアルデバランは、力任せにザクロを弾き飛ばした。

 一瞬の時間を稼ぎ、須田の周辺に重力場を展開。

 先ほどのように、須田を押し潰すためのものではない。

 瓦礫に魔力を帯びさせ、打ち出すためのものだ。

 斥力によって打ち出された瓦礫は須田を倒せなくても、隙を作り出せる。

 そのはずだった。


「なるほど、瓦礫の弾丸か。発想は悪くない。だけど僕には通用しないぞ」


 ウィズブレンのセンサーは、展開される魔力場を完全に捉えていた。

 全方位、三百六十度、ありとあらゆる場所に遍在する魔力を。

 それらを高速でロックオン、バックパックから誘導弾が放たれ、速やかにそれを破壊した。

 アルデバランは驚愕した。


「そんな……どうやって気付いた!? 目に見えぬ魔力の流れをどうやって!」


 弾き飛ばされたザクロが、壁を蹴り反動で戻って来た。

 アルデバランは再び、ザクロに注意を向けなければならなくなった。

 須田はその姿を見て、薄く笑った。


 アルデバランはザクロに任せておけばよい。

 二人がいる限り、彼らは両方に意識を向けなければならない。

 それが彼らにとって致命的な隙を作り出す。

 須田はアクエリアスへの攻撃を再開した。


「貴様ラヲ侮ッテイタヨウダ……ヨモヤ、コレホドノ力ヲ持ツトハ!」


 アクエリアスは真正面から駆けた。

 須田は面食らうが、すぐにガトリングガンによる射撃を行った。

 だが、アクエリアスはジグザグに走行し嵐のような銃弾を回避する!


「水遊ビヲ楽シミナガラ、戦ウコトハ出来ナイトイウコトダ! 本気デ行クゾ!」

「水の中じゃなくて地上の方が本領、ってことかよ。面白いな、あんた……!」


 アクエリアスが須田目掛けて、弾丸のような勢いで飛びかかる!

 同時に、足元から流体反応を検知した。

 アクエリアスが放った、何らかの能力による攻撃だろう。

 本体と能力、同時に迫る攻撃に須田は一瞬対応を考える。

 分かっても対応力は変わらない。


 ヒレのブレードは元の場所から移動し、爪のような形になっていた。

 アクエリアスは須田にそれを振り下ろした。

 シールドでそれを防ぎ、続けて繰り出された蹴りは逆の盾で受け止めた。


 後方から流体による攻撃が来る、反撃を諦め須田は身を捻った。

 予想通り、水の棘が須田に襲い掛かって来た。

 反応が一瞬遅れれば串刺しにされていただろう。


「私ハ変幻自在ナル水ノ覇者、ロード・アクエリアス!

 オ前ガ何者カハ知ラヌシ、興味ハナイ。

 ダガ王者ノ矜持二賭ケテ、歯向カウモノヲ放ッテハオケナイノダ!」


 須田はシールドをナックル状に変形させ、アクエリアスとの格闘戦に移行した。

 鈍重な装甲を纏っていては、さすがに俊敏なアクエリアスとの格闘戦は骨が折れる作業だ。

 更に、向こうには流体の刃がある。


 足元から迫る刃が、反撃の機会を的確に潰してくる。

 一度や二度ならともかく、三度四度と続いて来るとさすがの須田もイライラしてくる。

 遠近両用、変幻自在な攻撃と自称するだけはある。

 数あるロードの力の中でもかなり厄介なものだ。


 アルデバランとの空中戦もかなり手間取っているようだ。

 斥力によって飛行するアルデバランと、自力で空に昇らなければならないザクロ。

 技量が互角であれば、そこが勝負の分かれ目になる。

 特に、魔法を使わないという制約を課しているザクロにとっては。


「いつまでもキミに構っているわけにはいかないんでね! そろそろ決めさせてもらう」


 アクエリアスが振り下ろした刃をシールドで受け止め、須田は両足に力を込めた。

 大型旅客機の墜落にも匹敵する凄まじい圧力を受け、コンクリートはあっさりと砕けた。

 地下の瓦礫に紛れていたアクエリアスの水が衝撃によって巻き上げられる!

 しかし!


「愚カナ! 自ラ死期ヲ招キ入レルコトガ、オ前ノ策ダトイウコトカ!」


 巻き上げられた水が刃を成し、一斉に須田に向かって襲い掛かる!

 回避は不可能!


「魚面にバカだのなんだのと言われたくはないな……! 一網打尽ってことだよ!」


 須田のアーマーが変形、全身に発射口めいたノズルが現れた。

 背部に収束させていたブースターユニットを全身に移動させたのだ。

 そして須田はそれを一斉に放出した!

 全方位に放たれた獄炎がアクエリアスの水を舐め取り、すべてを蒸発させた!


「バカナァーッ!?」


 武器を一斉に失い、狼狽するアクエリアスを、須田は力強く押した。

 あっさりと押し返されたアクエリアスを追撃せず、彼はアルデバランを睨んだ。

 再びアーマーを変形させ、全弾をアルデバラン目掛けて放った。

 ザクロとの鍔迫り合いをしていた彼女は、それに反応することすら出来なかった。

 全弾をまともに食らい、悲鳴を上げた。


「さっき私があなたにされたこと……熨斗(のし)をつけて、すべてお返しするわ!」


 ザクロは剣を押し込んだ。

 踏ん張れぬ空中にありながらも、それはアルデバランですら抗えぬ圧倒的な『力』だった。

 アルデバランの体はアスファルトに向かって落ちて行く。

 凄まじい勢いで叩きつけられ、アスファルトにクレーターが出来た。


「アルデバラン! オノレ、貴様ダケハ絶対ニ許サヌ!」


 アクエリアスは決定的な殺意を身に滾らせ、須田目掛けて突進を仕掛けようとした。

 そして、つんのめった。何かに足を取られ、転倒しかけたのだ。

 アクエリアスは流れていく視界の中で、それを見た。

 黒い影の塊に躓き、自分は転んだのだと理解出来た。


「時間をかけ過ぎたな、アクエリアス。あいつらがここに来るには十分な時間さ!」


 ロケット加速を得た拳が、アクエリアスの顔面に叩き込まれた!

 カウンターパンチを受け、アクエリアスは吹き飛び地面を転がった!

 ちょうど先ほどとは真逆になった!


「さぁて、止めと行きましょうか。こいつで終わらせてやるよ」


 須田はエクスブレイクを発動させた。二つのガントレットから炎が迸る。

 重量を増したボディが揺れるほど凄まじいエネルギー。

 須田は両腕を合わせアクエリアスたちの方に向けた。

 二人は四肢に力を込め立ち上がろうとするが、ダメージが大きく上手く行かない。


 須田の体が、推進力に圧され高速で飛来する!

 まるでそれは鋼鉄の矢の如し!

 確定的な死を前にして、アクエリアスは渾身の力を込めて跳ね起き、軌道上に身を投げた。


「あっ……アクエリアス!?」

「逃ゲロ、アルデバラン! ソシテ、私ノ仇ヲ取ッテクレ! 私ノ力ヲ使ッテェッ!」


 アクエリアスの体と、須田のナックルが激突!

 魔力シールドを張り、攻撃に耐えるアクエリアスだが、しかし抗い切れない!

 魔力の肉体が削れ、身の内が露わになる。


 しかし、それがアクエリアスの狙いだった。

 彼は胸にあったマギウス・コアを掴むと、引き千切った。

 そして、それを後ろにいたアルデバランに投げた。


 アルデバランはそれを受け取り、跳んだ。

 須田がアクエリアスの体を叩き潰すのと同時に、アルデバランは海中に没した。

 須田は舌打ちし、ミサイルを放った。だが水中の目標を倒せるようには出来ていない。


「チッ……! 先生、アルデバランを逃がした! 奴の行き先をトレースしてくれ!」

『待て、陽太郎! アルデバランを追っている余裕はない、そちらに集中するんだ!』


 須田のレーダーも、ザクロの近くも、同じものを捉えた。

 圧倒的な魔力を。


 コンクリートが凍結し、砕けた。

 そして、周囲を寒波が襲った。

 その場にあったありとあらゆるもの、生きとし生けるものが凍り付いた。

 あまりの力に、寒さを感じていないはずの須田も身震いした。

 アークロードの恐ろしさを、彼らは思い出したのだ。


 凍える世界から飛び出して来たのは、クリスタルめいた鎧を纏った……

 否。そのものとなったアークロード・ラステイター。


 アークロード・ニブルヘイム。


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