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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
終末、来たれり
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金牛と水瓶

 様々な食品工場が、かつてはここで稼働していた。

 だが、いまはしていない。


 ラステイター出現によって放棄された建物は、いまや彼らの住処として有効活用されている。

 そのうち一つから、高い魔力を検知した。彼らが根城としている可能性は高い。


「相手は知恵を持っているんでしょう? 罠の可能性もありますよね?」

「ならばそれを乗り越えていくまでだ。

 どっちにしろ、こっちには時間がないんだ。

 罠を警戒して足を止めるのが一番マズい。

 それこそが相手の思うつぼだからね」


 可能性が決して低いわけではない。

 ここに滞留していた魔力は、フローズンの波形に酷似したものだったからだ。

 少なくとも、近くにいることに間違いはない。


『陽太郎、そちらに対して動く二つの魔力を検知した。

 出力から考えて、ロード・ラステイターだろう。

 警戒しろ、会敵と同時に放たれる最大出力が一番マズいからな』

「了解。何か動きがあったら、連絡をお願いします。止めることは出来る」


 須田はブラウズを操作し、シートの後方にはザクロがいた。

 更に後方には悟志と睦子、今回二人には戦闘支援を任せてある。

 ロード相手となると二人には荷が勝ちすぎる。

 後方支援に徹すれば、彼らの力とて決してバカにしたものではないのだから。


『陽太郎、魔力の増幅を確認! 南南西の方角、高度は17だ!』


 そちらを確認し、須田は巨大な水球を見た。

 あんな物に押し潰されれば、ウィズブレンの装甲だろうがぺちゃんこになるだろう。

 須田はザクロに降りるよう促し、ブラウズの端末を操作。

 キャノンモードを発動させ、ブラウズを変形させた。

 巨大な砲と化したブラウズを抱えながら須田は着地、照準を飛来する巨大水球に向けた。


 そんな須田に飛びかかって来る影がある。

 コンテナの中に隠れていた敵がいたのだ。

 どうやって中に入ったのか、須田は一瞬考えたが、答えは明白。

 吹き飛ばされたコンテナの底が見えた。そこには巨大な穴が開いていた。

 地下から掘り進めて入ったのだろう。


「知恵があるってのに、あんたらのやることはなんで力技なんだろうね……!」


 射撃体勢に入った須田には、敵の攻撃を避けることが出来ない。

 もちろん、避ける必要が無いようにはしている。

 ザクロが地を蹴り跳躍、強襲を仕掛けて来たラステイターに向かって飛びかかった。

 ザクロの斬馬刀と、襲撃者の大剣とがぶつかり合った。


「ロード・アルデバラン! あなたはここで倒す、それが私にとってのけじめだ!」

「あなたに出来るかしら、ザクロ? 『お茶会』では私の後ろについてきたあなたに?」

「私はもうかつての私ではない……! 叶わぬ願いに祈ることはしない!

 私の願いを叶えられるのは、私だけだから!

 そのために動けるのは、私だけだと知ったから!」


 ともかく、アルデバランの奇襲は防がれた。

 須田はキャノンのトリガーを引いた。巨大な魔力弾が水球とぶつかり合い、弾けた。

 互いの魔力によって攻撃は相殺され、消え去った。


 だが息を吐く暇もなく、ウィズブレンのセンサーは動体反応を検知した。

 それはコンクリートの中を、まるで泳ぐように移動している。

 ロード・アクエリアスだ。


 ザクロからアクエリアスの能力を聞いていた須田は、一瞬早く身をかわすことが出来た。

 残念ながら、ブラウズは間に合わなかった。

 アクエリアスのガントレットから伸びた、ヒレブレードがブラウズをバラバラに切断した。

 トビウオめいて跳ね上がったアクエリアスは空中で一回転し、見事な着地を決めた。


「ヤリオル……私ノ能力ヲ把握シテイルトハイエ、初撃ヲヨク避ケタモノダ……」

「魚如きに褒められても、まったく嬉しくないね。キミはまな板の上の鯉だ。

 大人しく作りになっちまいな、化け物」

「ホザケ、若造メ。姿ハ違エド、私ハ長命ノ先達。敬意ヲ払エ」

「残念だが、魚に持ち合わせる敬意なんぞ……皿に乗ったのしか持ち合わせいない!」


 須田はヴァリアガナーを構え、アクエリアスに向かって切りかかった。

 アクエリアスは構えを取り、須田を迎撃しようとする。


 しかし、後方から放たれた銃弾が彼の注意を削った。

 バスターライアットの弾丸がアクエリアスの甲冑上で炸裂。

 大きなダメージこそ与えなかったが、カウンターを阻まれた。

 その隙に、須田はアクエリアスに切り込んだ。


 舌打ちし、アクエリアスは腕部ブレードで須田の斬撃を捌いた。

 ダメージを受けようともロード・ラステイター、油断ならぬ腕だ。


 だが、押し込める。

 アクエリアスは空腹(・・)だ、先に戦ったロードと比べても魔力が充実しているとは思えない。

 魔力が足りないロードならば、ウィズブレンが勝る。このまま押し切れる。


 そう思い、須田はヴァリアガナーを突き込んだ。

 だが、眼前にあったアクエリアスの影が消えた。


 潜られた、そう判断した時には、すでに背後に回られていた。

 出現と同時に振り上げられたブレードが、須田の背中を裂いた。

 鈍い痛みが走り、画面上にいくつもの警告が表示される。

 痛みをこらえ、後方をなぎ払うが、すでにアクエリアスはいない。


 アクエリアスの能力、潜行と遊泳だ。

 彼はありとあらゆる場所を水場に見立て、泳ぐことが出来る。

 それが固いコンクリートだろうが、鉄の中だろうが、同じことだ。

 内部は同じような強度を保っているので、射撃を仕掛けることこそ出来ないが、恐ろしい能力だ。


 ウィズブレンのセンサーは、コンクリートの中を優雅に泳ぎ回るアクエリアスの姿を捉えていた。

 須田は知覚情報を悟志に送り、一帯を更地にするように命令を出した。

 内部に入るアクエリアスにダメージを与えられればそれでよし。

 ダメだったとしても足並みを乱すくらいは出来るだろう。

 その間に自分が攻撃を行えばよい。


 悟志は一瞬考えて、アルケミスミサイルを発射した。

 魔力に誘導され稼動するミサイルは、しかし到達する前に曲がった。

 まるで見えないレールがあるかのように。


『なっ……須田さん、こっちは操作してないのに、おかしな曲がり方を……』

「ああ、キミの良心が邪魔してあんなことをしたとは思っちゃいないよ。

 キミの言う通り、僕たちは誘い込まれたのかもしれないね。さっきから体が重い……!」


 その原因は、アルデバランだろう。

 先ほどから激しい空中戦を繰り広げるザクロの動きも、どこか鈍い。

 水の中での格闘を強いられているかのようだった。


「これはロード・アルデバランの力……重力制御か! ミサイルは斥力場で……」


 アルデバランが重力を制御する力を持っているということは、既に聞いていた。

 だが、ここまでのものとは思っていなかった。

 これほど広範囲に、精密に制御出来るなどと!


 非常にマズい状態だ。

 アクエリアスの潜行を破るためには火力が足りず、遠隔攻撃はアルデバランによって防がれる。

 このままではジリジリと削り取られるばかりだ。

 そんなことを考えていた須田のくるぶしに、激しい衝撃が走った。


 やられた、と考えた時は遅かった。

 ブレードだけをサメの背びれのように繰り出し、アクエリアスは遊泳を行っていたのだ。

 的が小さすぎて反応出来なかった、繰り出された一撃によって、須田は大きく体勢を崩した。

 その時を待っていたアクエリアスは俊敏に反応し、コンクリートの海から再び姿を現した。


 体をギュッと縮め、ドリルのように回転しながらアクエリアスは飛び出して来た!

 両腕から伸びたブレードが交互に須田の体を切り刻む!

 凄まじき連続斬撃に、さしものウィズブレンも耐えられず吹き飛ばされる!


「須田さん!」

「よそ見をしている暇はあるのかな、ザクロ! キミの敵は私だぞ!」


 アルデバランは右手を剣から放し、チョップを繰り出した。

 ザクロは斬馬刀でそれを受け止めるが、しかし重力の力が加えられた攻撃は受け止めきれなかった。

 彼女は過大な重力に押し潰され、落ちた。須田の上に。

 背中から地面に激突し、ザクロが急き込んだ。


 斥力によって浮遊するアルデバランは、二人に掌を向けた。

 魔力によって生成された重力が、二人を襲った。

 周囲のコンクリートが軋みを上げ、砕ける。

 同じように、二人の体にも通常の数倍もの重力が襲い掛かった。

 肉と骨が悲鳴を上げるのを、二人は聞いた。


「っそ……! 参ったね、まさかロードに一杯食わされるとは……!」


 須田は珍しく弱音を吐いた。

 それを聞いたアルデバランは吹き出し、彼を見下ろした。


「私たちをただのロードだと思ってもらっては困るわね?

 アクエリアスはプレゼンターとほとんど同時期に誕生した、最古のロードだし、私は……」


 彼女は誇らしげに、自分の胸元に着けたペンダントを指した。

 かつてはマギウス・コアがそこに納まっていたのだろうが、いまは何もない。


「私は魔法少女からラステイターとなった。記念すべき最初の一体なの。

 私は他のラステイターとは比較にならないくらい濃密な魔力に晒され、変異した個体。

 だから魔力への抵抗が極めて高く、それだけに大量の魔力を蓄え、使うことが出来るのよ」

「新参者ヲ倒シタ程度デラステイターノスベテヲ知ッタヨウナ気ニナラレルト……

 仕方ノナイコトデハアルガ、愉快デハナイナ」


 二人の体にかかる重力が強まった。

 須田も、ザクロも悲鳴を上げるが、しかし諦めてはいない。


 会話によって時間を引き延ばすのには成功した。

 ザクロの下敷きになり、手の動きを見られなくなった須田がドライバーを探る時間は。

 こんなことになるなら、音声認識か思考操作で使えるようにしておけばよかった。

 今更になって須田は後悔した。


「まあ、いいか……後悔が出来るってことは、まだ余裕があるってことだからな」


 須田はヘルメットの中でニヤリと口元を歪めた。

 彼らの異常に、アルデバランは気付いた。


「こいつら、いったい……アクエリアス、止めを刺して! 私が押さえている!」

「ヌゥッ……! 致シ方、アルマイ! アマリ力ハ浪費シタクナイガ……!」


 アクエリアスは最初に生成したのと同じ巨大水球を作り出し、放った。

 だが、須田が作業を終える方が少し早かった。

 彼の全身を、いくつもの小さな錬金式が覆った。


「切り札は最期まで取っておきたかったんだがね……コード・イージス、発動!」


 《ウィズドライバー》の秘密ラックに格納されたマギウス・コアが、怪しく光った。

 それは、ウィズブレンの予備電池だ。その力を使い、彼は新たな形態を生み出した!


 ウィズブレンの全身に、無骨なパワードスーツめいた装甲が現れた。

 脚部には一回り太い具足が、肩には何らかの発射口を備えた肩当が。

 背中には翼のようなパーツが生え、ランドセルめいたバックパックが生まれた。

 眼孔部を覆う、新たなバイザーも出現した。


 更に、ヴァリアガナーが変形、巨大化し、腕に纏わりついた。

 巨大なシールドを両手に着けているような格好だ。

 須田は両腕を突っ張り、力を込めた。

 重力によって押し潰されたはずの体が、徐々に持ち上がって行った。

 アルデバランも驚嘆し、叫んだ。


「バカな、私の重力場を打ち破れるものなどいるはずが!?」

「残念ながら、いるんだなァ! 人間の力を舐めるなよ、化け物!」


 肩の発射口が開き、そこからいくつものミサイルが飛んだ。

 それは水球に向かって飛んで行き、爆発。

 最初の時と同じように攻撃を消滅させた。


 更に、いくつかはアルデバランに向かって飛んで行った。

 舌打ちし、彼女はミサイルを切り払った。

 そのせいで重力場に乱れが生じ、二人は脱出のチャンスを得た。

 素早く立ち上がり、左右に跳ぶ。


「その力はいったい……!? そんな形態は知らないぞ!」


 一回り大きくなったウィズブレンを見て、再びアルデバランは叫んだ。


「キミが知らないことも、この世界には多くあるということさ」


 須田は仁王立ちになった。

 火器管制システムが全身に備えられた武装を制御し、露わにする。

 フルアーマーモードの完成系。

 ありとあらゆるラステイターを圧倒し、そしてすべての人を守る希望の盾!


「イージスフォーム、起動。さて、実験の開始と行こうじゃないか!」


 須田の叫びととともに、すべての武装コンテナから雨霰の如く銃砲が放たれた!


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