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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
悲しみを消し去るもの
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誕生する救世主

 数多の魔獣(ビースト)級ラステイターを駆逐し、二人は遂にネクロマンサーの喉元に迫った。

 だが、それだけだった。ネクロマンサーの力を前に、二人は膝を折った。


 千葉公園、中央広場。

 様々なレーンへと進んで行くこの場所に、ネクロマンサーはいた。

 彼は不機嫌に腕を振り回す。伸びが糸が鞭のようにしなり、二人に襲い掛かって行った。

 防戦を余儀なくされる。糸の一本一本が凄まじい力をもって二人に迫る!


「ここに来るまでに、俺のペットを何体も殺してくれやがったよな?

 その報い……受けてもらおうじゃねえか! なあ! お前らもそう思うだろう!?」


 立木の隙間や柵の向こう側から、何体ものラステイターが飛び出してくる!

 彼らの背からは光り輝く糸が伸びており、その目は血走っている。

 ネクロマンサーが操っているのだ。

 頸椎から侵入した糸はラステイターの脳を浸食し、思うがままに動かしている。


「愛するペットが聞いて呆れる……! こうでもしなきゃ貴様には誰も近付かんか!」

「ペットに紐を付けるのは当然だろう? オラ、行けやお前らァッ!」


 統一感も欠片もない軍団だ。多くは魔人(デーモン)級、生育するだけの魔力が足りていないからだ。

 それでも、あまりに数が多い。そして奥にはネクロマンサーも控えている。

 須田はヴァリアガナーを抜き、悟志はフルアーマーモードを発動した。


「ザコどもの相手は俺がします。須田さん、あんたはネクロマンサーを押さえてくれ」

「オイオイ、一番キツい相手を僕に任せようとしているな?」

「俺が行ってもいいんですよ? 一瞬でやられても文句言わねえなら!」


 悟志は両腕のガトリングを連射して、ラステイターたちを牽制した。

 その隙に、須田はライフルモードを展開し駆け出す。

 ブレードを発動させ、ネクロマンサーに切りかかった。

 ネクロマンサーは腕から放出した糸を収束させ棍を作り出し、受け止めた。


「お前たちの力じゃ俺に勝つことは出来ない。その程度のことも分からないのかな?」

「分かってるさ。分かっているからって、退くことが出来ないのが僕らなのさ!」

「ああそうかい、よく分かったぜ! お前らは『愚かもの』だってことだなぁ!」


 ネクロマンサーは切りかかって来た須田を押し返し、蹴りを放った。

 紙一重のところで須田はそれを避ける。掠った胸部装甲が火花を上げ、削り取られた。

 側面に回り、再度の剣撃を放つ。


 ネクロマンサーはそれを受け止めようとするが、空振り。

 須田が敢えて結合を解いたのだ。

 代わりにハンドガンモードが展開され、銃身下部から剣がせり出す。


 受け止めようと開いた胴体目掛けて、須田は剣先を突き込んだ。

 ギリギリのところでネクロマンサーは剣を弾く。

 だがそこで須田は発砲! 銃弾が胴体に突き刺さる!


「それがどうかしたか……!? 手前の弾丸など、俺には効かねえさ!」


 舌打ちし、須田は両手の銃のトリガーを何度も引いた。

 至近距離で放たれた弾丸は、しかし一発としてネクロマンサーの装甲を貫かなかった。

 ウィズブレンのセンサーは装甲の最も弱い部分を見切っており、そこに銃撃を仕掛けている。

 だがそれでもなお、アークロードと彼の間には乗り越えられぬ断絶が広がっているのだ……!


「お前の実力が分かっただろう? 俺に敵わないということが理解出来ただろう?

 ならばお遊びは終わりだな。お前たちは、ここで死ぬんだよォーッ!」


 ネクロマンサーは手に持った棍を回転させ、何度も須田を打った!

 打たれるたびに凄まじい衝撃が走り、火花が散る!

 その情景は情報リンクされた悟志の視界にも映されていた。

 自身も強敵に囲まれながら、悟志は須田を援護するために攻撃を行った。


 ダチョウ型のラステイターが仕掛けてきたタックルを跳んで避け、その背を蹴った。

 ネクロマンサーをロックオンし、ミサイルを放った。

 空中から迫るミサイルの群れを、しかしネクロマンサーはあっさりと切断!

 空中に伸びた糸による迎撃だ!


 破壊されたミサイルの内側から煙幕が放出され、視界を乳白色の煙が覆い尽くす!


「これはこの間見たんだよなァ……馬鹿の一つ覚えってことかなァーッ!?」


 ネクロマンサーは腕を振るい、糸を放った。悟志の位置はだいたいのところを把握していた。

 糸は寸分違わず彼の下に到達し、がんじがらめに絡め取った。

 ネクロマンサーはそれを力任せに振り回し、何度も地面に打ち付けた。

 悲鳴が煙の向こう側から聞こえる。


「お前の相手は僕だってこと、忘れてもらっちゃ困るんだよ……!」


 悟志が作り出した一瞬の隙を掴み、須田はネクロマンサーの背後に回っていた。

 夢中になって悟志を打ち付けるネクロマンサーに向かい、マグナムの銃口を向けた。

 すでに、膨大な魔力が収束していた。魔王級ラステイターすら吹き飛ばす魔力が!


 須田は躊躇わず、ほぼゼロ距離でトリガーを引いた。

 ネクロマンサーを巻き込み、光の帯が伸びていく。

 乳白色の煙が吹き飛ばされ、余波を受け部下のラステイターが何体から爆発四散した。

 須田はニヤリと笑い、勝利を確信した。だが。


「この程度がお前たちの全力が……拍子抜けだな。俺を害するものはいないのか?」


 魔力の波から腕が飛び出し、須田の襟首を掴んだ。

 思わず驚き、声を上げた。

 マグナムブレイカーの直撃を喰らったはずのネクロマンサーは、まったくの無傷であった。


「バカな……! 僕の最大出力だぞ、傷一つ付いていないというのか……!?」

「弱いということは罪だな。自分がしていることすらも理解出来ないんだから!」


 ネクロマンサーは須田を投げ飛ばした。そして、絡め取っていた悟志を振り下ろした。

 須田は悟志に押し潰され、悟志は地面に押し付けられ、悲鳴を上げた。


 安全装置が作動し、二人の変身が解除される。

 ドライバーの対抗魔力力場をもってしても数分も保たぬであろう濃密な魔力が、二人に襲い掛かる。

 二人はお互いを跳ね除け、立ち上がろうとしたが、ダメだった。もはや指一本動かせない。


「お前らは俺に歯向かった愚か者として首を晒す。

 俺に逆らえば、こうなるってことを教えてやるんだ。

 そうすりゃ俺に平穏が訪れる。永遠の平穏がなァ……」


 ネクロマンサーは両腕を振るった。

 すると、糸がそれぞれの腕で収束し、剣のような形になった。

 これで二人の首を掻こうと言うんだろう。


 呻き、ネクロマンサーを睨み付ける。

 例え死んだとしても――決して屈服しないという決意を込めて!


 二人を殺害するために進むネクロマンサーだったが、しかしその途中で足を止めた。

 二人の耳にも足音が聞こえる。残された力を振り絞り、二人は振り返った。


 そこには、正清がいた。

 腰に《ディアドライバー》を巻き、傷だらけの体を引きずって。

 されどもその瞳は、たった一点を見据えている。

 すなわち、倒すべき敵を。


「負け犬がもう一匹御登場か。お前らはつくづく俺に花を持たせるのが好きらしい――」


 そこまで言って、ネクロマンサーは正清から放たれる違和感に気付いた。

 濃密な魔力に晒されているにもかかわらず、正清は何の影響も受けていないのだ。


「お前、やはり……魔力が通用しない体質か。俺以外なら脅威なんだろうが……」

「寝言をほざいているんじゃないよ、ネクロマンサー」


 正清は低く、冷たい声を吐いた。

 『ABSORPTION』アイコンをドラッグする。


「僕は、お前の脅威になるためにここに来たんだ」


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


「救世主、って。いったい僕に何を指せようとしているんですか?」

「端的に言えば、高崎くん。キミにはラステイターと同じ存在になってもらう」


 玄斎の放った言葉の意味を、正清は考えた。

 睦子は彼に質問をした。


「さっきも言っていましたけど、ラステイターにするっていったい?」

「キミには、自分の魔力を使って変身してもらいたい。

 己の魔力を使って変身し、事を成す。

 それは、ラステイターと同じ存在だと言ってもいいだろう」

「僕の魔力を使って……魔力を無力化する魔力を使って、ということですか」


 玄斎は首を縦に振った。

 言われても、あまり良くは理解出来なかった。


「周辺の魔力を吸収して変身するのと、自らの魔力を使って変身するのとでは、まったく違うだろう。

 最悪、システムに魔力を吸い尽くされて枯死するかもしれない。

 ぶっつけ本番、だがバーストを破った奴に勝つにはこの力を使うしかない。

 アークロード・ネクロマンサーを殺す可能性を持っているのは、高崎くん。

 キミだけしかいないんだよ」


 正清はディアフォンを見た。『|ABSORPTION(吸収)』、まさにその通りだ。

 自分自身の存在を吸い取って、シャルディアは成長する。すべての敵を殺すものへと。


「ショウくん、それはあなたが……本当にやらなきゃいけないことなのかしら?」


 それまで押し黙っていた睦子は、意を決したように口を開いた。


「あなたにしか出来ないことなのは分かっている。けど、それはあまりにも……」

「正直なところ、嬉しいですよ。僕は。ようやく当事者(・・・)になれるんだ」


 夢の中で対話が蘇る。

 そう、正清はいままで傍観者であった。

 勝っても、負けても、自分には損はない。

 それは幸運だったのだろう。


 だが、それは彼の望みではない。


「命を賭けて、やろうとしている人がいるんです。なら、僕はそれを手伝いたい」


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


「変身……!」


 『ABSORPTION』アプリをドラッグし、『ENTER』ボックスまで持っていく。

 『ARMORED』の表示が画面上に踊る。正清はディアフォンをスロットルに差し込み倒した。

 回路が繋がれ、正清の身の内から魔力が吸い出されて行く。


 バーストフォームで感じたような、身を焼くような感覚はなかった。

 代わりに底冷えする寒さがあった。


 己が命が、根こそぎ吸い込まれて行くような感覚に正清は襲われた。

 並の魔力所有者であれば、システムに食い尽くされて死んでしまうだろう。

 とんでもないものを開発してくれたものだと、正清は玄斎を呪った。


 そして――笑った。


「な、に……ニヤついてんだよ、手前ーッ!」


 ネクロマンサーは糸を放つ!

 だが正清の体に到達する前に、錬金式が彼の体を包み込んだ。


 いままでのように、空中に鎧が錬成されることはなかった。

 代わりに、正清の手足の側面、脇腹、胸を覆うベースラインが引かれ、そこから装甲が発生した。

 白銀色の装甲に当たった糸はそれを揺らすことすらなく、霧散していった。


「なっ……! バカな、俺の攻撃を無効化する力をも持っているというのか!?」


 フルフェイスのヘルメットが展開され、開口部から白い蒸気が噴き出した。

 バイザーが赤く輝き、機械音を発した。

 胸には丸いラインが引かれており、その中央に宝石が現れた。

 マギウス・コアめいた、複雑な光を反射する琥珀色の宝石が。


 高崎正清という名のラステイターが、ここに誕生した証でもあった。


「お前は……お前は、いったい何だ! 何者なんだよ、お前はァッ!」


 ネクロマンサーは叫び声を上げた。

 正清は自らの胸に手を置き、言った。


「僕の名は高崎正清。人間にとっての救世主(メサイア)。そして……」


 胸に追い立てをネクロマンサーに向けて、指さした。

 死刑宣告めいて。


「お前たちにとっての死神(デス)だ」


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