死者の王の誕生
ネクロマンサーのがらんどうの頭部から、魔力が漏出する。
吐血するかのようだ。
「カッハッハッハ……! まさか、嵌めるのが大好きな俺が嵌められるとはな……!」
「策士気取りのクズ。あんたはここで死ぬ、私の手に掛かってね!」
ザクロは天井を蹴り、弾丸のような勢いでネクロマンサーに迫る!
縫い付けられたネクロマンサーはそれを避けることも出来ぬ!
魔獣級ラステイターは主を守ろうとするが、降り注ぐ弾丸によって動きを止められた!
ザクロは斬馬刀の柄を取ると、手首を返しなぎ払った。
ネクロマンサーの体が真っ二つに切断された。
取った、誰もが思った。
当事者であるザクロを除いては。
「……違う! やられた、これはただの幻影……!」
先ほどまで死にかけていたネクロマンサーの体が、消え失せた。
代わりに、少し離れた場所に無傷のネクロマンサーが現れた。
少し呼吸を荒らげながら、笑った。
「っぶねえ。保険が効いてなければやられてたところだったぜ。助かった……!」
「バカな、ラステイターの能力は一人一つのはず! ならば、なぜ……」
須田は狼狽えるが、ザクロは冷静だった。
彼女の背後に回る影が一つ、悟志が叫んだ。
だが、ザクロはそれに反応もしなかった。
代わりに斬馬刀を左側面に立てた。
鋭い金属音が響き、剣と剣がぶつかり合った。
死角から放たれた刃を、ザクロは受け止めた。
「キミは……バカな、どうしてここに! 雪沢、光真!」
ザクロに剣撃を加えたのは、金髪の少年!
否、少女。『騎士の魔法少女』ナイヅ!
「あなたが関わっていたのね。ならば、このラステイターは当たりということかしら?」
「分かっているなら話は早い。キミに介入をさせるわけにはいかないんだよ。
魔王級までなら余裕を持って対処されてしまうだろうからね……!」
ナイヅは無理矢理剣を薙ぎ、ザクロを振り払う!
ザクロは舌打ち一つし飛びずさった。
ナイヅは己の持つ魔法たる幻影魔法を発動。
ザクロに向けて最大展開した。
幻影に紛れて繰り出される思い斬撃に、さしものザクロも対応に苦慮する。
彼女はどんどん押し込まれて行き、地下道の方向へと追い込まれた。
「ザクロさん!?」
「オイオイ、お坊ちゃんよぉ。人の心配してる暇があんのか、あんた!」
なおもブロイラーとベアは正清に向けて迫る。
ネクロマンサーは再び光の糸を展開、周囲に取り残された人から魔力を吸い上げている。
このまま続けさせたらマズい。
「邪魔を……するなぁ!」
正清はブライガードを展開、ブロイラーの連撃を捌く。
ブロイラーは文字通り掴みどころのない盾に対しては己の拳を十分に活用出来ないようだった。
無理やり押し込めば勝てる、そう判断した正清だが、そうは問屋が卸さない。ベアが動いた。
地を蹴り、鈍重な見た目に反した凄まじい跳躍力で正清を上方から押し潰そうとする!
避けなければならないが、避ければ先ほどの繰り返しになってしまう!
「邪魔はさせねえよ、クソッタレ!」
その時、後方で動きがあった。
ライオンとの格闘戦を演じていた悟志は、打撃に合わせて後方に跳んだ。
衝撃を散らすとともに距離を取り、《マグスドライバー》を操作。
肩部にミサイルポットを出現させ、放った。
目の前のライオン相手にではない、ベアに向かって!
白煙を放ってベアに向かって飛んで行くミサイルを、阻むものはいなかった。
何発ものアルケミスミサイルがベアに直撃。
体勢を崩したベアは、正清から少しそれた場所に落下する。
内心で悟志に感謝しながら、正清はブロイラーを更に押した。
無理矢理な突進に対応し切れず、ブロイラーはバックステップで距離を取った。
いまだ。
正清はそう判断し、敢えて後方に回転跳躍。
二人分の跳躍で取った距離、およそ十メートル。
正清は遠心力を加え、盾を投げ放った。
丸盾はブロイラーに向かって真っすぐ飛んで行く!
ブロイラーはそれに対して拳を合わせ、押し返す!
隙を作れればよかった。
盾に対応している隙を突き、正清はエクスブレイクを発動。
投げ返された盾を、もう一度蹴った。
エクスブレイクの魔力も上乗せされた丸盾はブロイラーに向かって再度襲い掛かる!
今度は弾き返すことは出来なかった。
防御しようとした腕ごと胴体を両断!
ブロイラーは爆発四散!
マスクの中でニヤリと笑う悟志を、ライオンは憎悪の表情で見た。
咆哮を上げながら襲い掛かるが、しかしライオンには見えていなかった。
上方から戦闘に介入する須田が!
須田はヴァリアガナー二つを結合させ、マグナムモードを発動させた。
更に新機構の恩恵を受け、マグナムはガチャガチャと音を立てて変形。
ナックルへと変わったマグナムを、背中を向けたライオンにそれを叩き込んだ。
打撃の衝撃、そしてゼロ距離で発射されたマグナム弾が、ライオンを貫いた。
ライオンラステイターは爆発四散した!
「オイオイオイ、ちょっとこれマズいんじゃないか? 一瞬にして形勢逆転?」
ネクロマンサーはへらへらとつぶやいた。
正清はベアを無視し、ネクロマンサーに向けて突っ込んで行く!
フレイソードを生成し、ネクロマンサーに切りかかった。
ネクロマンサーは糸の盾でそれを受け止めようとするが、あっさりと切断される。
ステップでそれを避けるが、しかし襤褸布の一部が切り裂かれた。
「っぶねえ! 参った参った、こりゃ参ったぜなぁ!」
「その小うるさい口、ぶっ潰して二度と喋れないようにしてやるッ!」
正清は手首を返し、もう一撃を繰り出そうとする。
だが、その背後からベアが迫った。
舌打ちし、背後に剣を向ける。
ベアの一撃を受け止めたものの、ネクロマンサーが腹に手を当てた。
指先からせり出した糸の束が正清を打ち、吹き飛ばした。
「俺が仲間頼りの雑魚だと思ってる? そりゃ残念。俺だって魔王様なんだぜ?」
正清は立ち上がろうとした。
だが、腹から伸びた糸が膝と絡まっていた。
強固な糸に拘束され、正清は動くことが出来ない。
しゃがんだ正清にベアが拳を振り下ろす。
正清は呼吸を整え、全身に力を漲らせた。
如何に魔王級ラステイターが放った攻撃であろうとも、バーストの全力に抗えぬ道理はなし!
ネクロマンサーの拘束を打ち破った正清は、振り下ろされたベアの腕をクロスガードで受け止めた!
「ッハッハッハ! なかなか耐えるじゃないか、シャルディア。どんどん行くぜ!」
ベアとネクロマンサーの攻撃を捌きながら、正清は後方を見た。
残っているのはキリンのみ、少しの間耐えれば仲間の援護がこちらに来るだろう。
そうすれば。
そして、その時はすぐ訪れた。
キリンラステイターは伸縮する四肢を使って器用に立ち回ったが、さすがに三対一では分が悪い。
形勢は徐々に傾いていた。
そして、その時は訪れた。
悟志のガトリングアームがキリンの体勢を崩し、キリンの両足を睦子の影が絡め取った。
そして、魔力を帯びたヴァリアガナーの双刃がその体を真っ二つに切り裂いた!
キリンラステイターは爆発四散!
更に、須田は即座にヴァリアガナーを結合させ、ライフルモードを発動させた。
ベアの巨体にライフル弾が撃ち込まれた。
攻撃を想定していなかったベアは驚き、怯んだ。
その隙を見計らい、正清はフレイソードのトリガーを引いた。
剣の外殻は破損、魔力の刃が伸びた。
純粋な魔力の刃によって、ベアラステイターは両断され爆発四散!
「おあぁっ!? こりゃマズい! マジで逆転されちまったか!」
「止めだ、ネクロマンサー! 喰らえ!」
「いいのか? 俺を殺したら俺が魔力吸ってる連中は全員死ぬぞ?」
ネクロマンサーが突如放った言葉の意味を、正清は考えてしまった。
彼を殺せば、人間は死ぬ?
それは時間稼ぎでしかなく、そして一瞬で時間稼ぎは十分だった。
ネクロマンサーが展開していた糸がすべて回収された。
ネクロマンサーの体に魔力が満ち、そしてそれが放出されて行く。
あまりの圧力に正清は吹っ飛ばされ、転がった。
「はぁーっ、マジでギリギリだった……やっぱ手下ってのは、役に立たねえなぁ」
ネクロマンサーが纏う襤褸布の間から覗く骨の上に、肉が付け足されて行くのが見えた。
ネクロマンサーは恍惚とした笑みを浮かべ、両腕を広げた。
「……っはは。最高だ、コレ。強くなるってのは、最高に気持ちがいいもんなんだな」
広げた腕の先から糸が伸びた。
糸は周囲を乱舞し、そして元に戻って行った。
瞬間、周辺の構造物が一瞬にして切断され、瓦礫の山に変わった。
「なっ……! これが、これほどの力を持つものが……!」
「そうさ、俺こそが、魔帝。アークロード・ネクロマンサーだ」




