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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
青の魔法少女
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友達にも話せないこと

 リザードラステイターの行方は分からず、追跡も行うことが出来なかった。

 手がかりもないまま敵を探すことは出来ない。

 その日の調査は打ち切られ、翌日へと繰り越された。


 優嶺高校の屋上へと集ったのは正清、悟志、そして美里の三人。

 普段屋上は解放されていないが、立ち入る手段はほとんどの運動部出身者が知っている。


「しかし、美里までこの件に関わってたなんてな。分からないもんだ」

「ごめんね、悟志くん。本当なら言っておくべきだったのかもしれないけど」

「いや、守秘義務があるんだから仕方ないさ。これからはみんな一緒だけどな」


 昼休みの時間を利用して、三人は今後の活動計画を立てることにした。


「怪物がどこにいるかも分からないからな。虱潰しに探してみるしかないだろう」

「でも、どうやって探すつもりなんだ? どこにいるかも分からないのに」


 ラステイターは選んだ人間以外を遠ざける電磁波を放っているという。

 先日、悟志を助けた時も壁を一枚隔てた向こう側、緑色のネットの向こう側には誰か人がいたというのに誰一人としてそれに気付いていなかった。単に人を遠ざけるだけでなく、音波や衝撃といったものを相殺する能力も持っているのかもしれない。兎角、隠匿性が高い。


「こういう時は噂を辿ってみるのがいいと思うんだ。

 人一人が消えて、何の噂にもならないワケがない。

 そう言うのを探して、一つ一つ検証していくんだ。いいだろう?」

「でも、それをやるってことは対応待ちになる。

 誰かが犠牲になるのを黙って見ているしかないなんて、そんなの納得出来ないよ……」


 正清に、これと言って対案があったわけではない。

 だが、それが偽らざる本心だった。


「俺だって苦しいさ、ショウ。

 けど、すべての人を助けられるわけじゃない。

 それは分かってくれ。助けられる人を助ける、それだって大事なことじゃないか」


 悟志は正清の肩を掴み、真っ直ぐその目を見た。

 正清は納得しなかったが、頷いた。


「それなら、私も力になれるかもしれないね。クラスの子に聞いてみる」

「美里ちゃんなら、俺たちが聞けない子たちからも話を聞けるかもしれないな」


 美里は色々と、モテる。

 同棲、異性、問わず彼女を好いている人は多い。

 彼女の人徳を使えば、これからの調査が相当やりやすくなるだろう、と二人は思った。


「悪いな、悟志。大事な時期だっていうのに、お前の負担になるようなことを……」


 そう言われて、悟志は少し寂しげに視線を落した。


「部活は休部して来た」

「どうして……!? だって、夏の大会だってあるし、それにお前……!」

「大学受験を控えてんだ、いずれ止めなきゃならなかった。

 それに、ラステイターに襲われた時に足首を捻っちまってな。

 とてもじゃないが動けない、レギュラーにはどうせは入れなかったさ。

 出来ないことを後悔するより、いま出来ることを俺はしたいんだ」


 無理矢理悟志は話を打ち切った。

 自分たちには理解出来ないような、深い悔悟の情が浮かんでいるように二人には見えた。

 だから、敢えてそこで追及はしなかった。


「俺は部活の後輩とかOBとか、当たれるところを当たってみる。

 お前たちも出来る限りでいいから、情報を集めるようにしておいてくれ。

 んじゃ、俺は行くわ」


 悟志は立ち上がり、屋上から出て行った。

 足を痛めているようには、とても思えなかった。

 再び重苦しい沈黙が二人を包み込んだような、そんな感じがした。


 もっとも、そんな思いを消化する時間を必ずしも世界は与えてはくれない。

 始業五分前を告げるチャイムが二人の耳に聞こえて来た。

 二人も屋上から出て行った。




 五間を終え、放課後へ。

 正清も美里も特に部活動には所属していないため、放課後は完全なフリーだ。同じくフリーな生徒たちや、文科系の部活に所属している生徒を片っ端から当たり、情報を収集してみることにした。二人はプロの探偵やスパイではない、それは非常に拙いものだった。それなりに粘ったが、何の成果もあげることが出来なかった。


「……やっぱりそう簡単に進んだりはしないよな。はぁ……」


 一日の活動が徒労に終わったと分かると、どっと疲労感が押し寄せて来た。元々それほど活動的ではない正清は疲れ切ってしまい、校門近くのベンチにドカッと座り込んだ。


(こうしている間にも人が襲われているかも知れないのに……どうすればいいんだ?)


 考えても仕方がないことは分かっている。

 けれども、考えずにはいられなかった。


 そんな風にしていると、突然首筋に冷たい感触。

 大袈裟に叫んで立ち上がろうとした。

 が、足がもつれてしまい転倒。ゴロゴロと地面を転がった。


「っちゃあ、あんた驚き過ぎじゃない? 大丈夫? 立てる?」

「ってててて……ああ、うん、大丈夫……って、あれ。どうしたんだよ、数多」

「どうしたんだよじゃないよ。もしかしてやったのがあたしだってのも分かってない?」


 数多は大きなため息を吐きながら、正清を助け起こした。誰が何をやったのか、理解出来ないほど正清は憔悴していたのだな、と気付き少しだけ恥ずかしくなった。


「何でもないよ、数多。それよりそっちはどうしたの?

 今日の練習はこれで終わり?」

「休憩時間。もうちょっと走り込んで、今日はそれでおしまいだね。

 で、ここでしょぼくれた顔してるショウがいるって聞いてね。

 脅かしてやりたくなったってわけ」


 自由な奴だな、と正清は思った。

 よく見ると周りにも陸上部員がたむろしている。


「別に、落ち込んでいたわけじゃないよ。そんなこと、してる時間なんてないし」

「いいね、それ。落ちてるよりも昇ってる方が気分いいしね!」


 数多はケラケラと笑いながら正清の隣に座った。

 こういう無根拠な明るさは時として人を勇気づける。

 特に、正清のように無暗に落ち込んでいた人間にとっては。


「一年で大会に出るんだって? 凄いんだね、数多は」

「ちょっと運が良かっただけだって。まあ……実力も多分にあるけどね?」


 数多は笑って答えたが、しかし並大抵のことではないだろう。陸上部も運動部的なヒエラルキーとは決して無縁ではない、一年生では雑用が主な仕事、大会など夢のまた夢だ。

 そもそも高校生は肉体的な成長が著しいため、二、三年に勝つのは容易ではない。


「……で、ショウ。何か考えて落ち込んでたんでしょ? どうしたのよ、そんなの」

「らしくない、って言うつもり? 分かってるけどさ、でもどうしようもないんだよ」


 大き目のため息をつき、正清は視線を落した。

 たった一日で何が出来ると思っていたわけでもない。

 だが、こうしている間にも犠牲者が増えると考えると、気が重くなる。

 人の命が双肩にかかっているという、その重みが焦燥をより強めている。


「元気だしなよ、ショウ。何悩んでんのか知らないけどさー。

 たくさん食べてたくさん寝りゃ何とかなるって! 大丈夫、ショウなら何とかなるって」


 無責任な言葉だったが、しかし正清は勇気付けられた。底抜けの明るさに好感を抱いている。これだけポジティブに物事を捉えられるからこそ、成績を残すことが出来たのだろう、とも思う。そういう生き方を、正清は尊敬してもいた。


「んじゃ、そろそろ休憩時間終わるからまた明日ね! 元気出せよ、ショウ!」

「うん、ありがとう数多。また明日、練習頑張ってね」


 微笑み、数多は立ち上がり練習に戻って行こうとした。

 ところで、正清は彼女の右足に包帯が巻かれているのに気付いた。

 少なくとも、今日ついた傷ではないだろう。


「数多、どうしたのその足? 怪我してるんなら走らない方がいいんじゃ……」

「え? ああ、これ? 昨日ちょっとガラス割っちゃって、そのせいでね?」


 いままでの態度とは打って変わって、数多の目は泳いでいた。

 必死になってその話題から話を逸らそうとしているふうでもある。

 何となく、おかしいと思った。


「ほら、そんなことどうだっていいからさ! 早く帰んのよ、最近危ないしッ!」


 そう言って数多は駆けて行った。


 その後ろ姿を、正清はずっと見ていた。

 あまりにも不自然な態度だったからだ。


 最近危ない、とはどういう意味なのだろうか?

 正清には分からなかった。


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