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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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終わりへと突き進む少女を救うことは出来るのか

 数多は震える声で目の前のラステイターの名を呼んだ。

 作り物めいた表情がニヤリと歪んだ気が正清にはした。

 厭らしい笑み。その背後でザクロが動いた。


「何のつもりか知らないけれど、邪魔をするのならば――!」


 巨大な斬馬刀を構え、ザクロは再び突撃して来た。ラステイターは目も向けない。


「ウルせぇな、手前! 親子の団欒をよォーッ、邪魔してんじゃねえぞ!」


 地面がもこもこと隆起し、人型を取った。顔と思しき場所、眼孔部が赤く光る。

 人型の土人形はひとりでに動き出し、ザクロに向かって突撃していった。


「チッ、子機の作成か! 面倒くさい能力を……持っているようね!」


 ザクロはそれを切り倒そうとするが、すぐ横でもモグラの穴のような隆起が出来上がった。

 一つ、二つ、三つ! すぐさま四体の土人形が現れ、ザクロに襲い掛かる!

 いかなザクロでも初見の相手、それも四体もの敵をすぐに排除することは出来ない!


「あんたは……あんたは、本当に中西正二なの?」

「他人行儀だなァ、数多。昔みたいにさぁ、俺のことをパパって呼んでくれよ? なあ」


 媚びを売るような猫なで声だが、どこか威圧するような響きがあった。

 数多は驚愕の表情を浮かべる。

 そしてそれは、すぐに殺意へと変わった。彼女は吠える。


「お前が……お前が生きて行って言うんなら、私が殺してやるッ!」


 数多は聖剣を振り上げ、ラステイターの首を狙った。

 だがそれは手甲で弾かれる。


「数多ァッ! 父親に手ェ上げるたぁ、手前何考えてやがるんだ!」


 数多の父を名乗るラステイターは激高した。親子の団欒だのなんだのと、理解出来ないことを言っていたが、結局のところは力で相手を支配しようとする魔物であることに変わりはなさそうだった。


「俺がお前を生んだんだッ、だったら親に逆らうんじゃねぇよ!」

「私の親はお前なんかじゃない、お母さんだけだーッ!」


 力任せに聖剣を振り払う数多! だがラステイターの手甲の強度は聖剣を上回る!

 再び弾き返され、数多の腹に分厚い手甲が叩き込まれた! 吹き飛んでいく数多!


「俺は温厚な男だが、お前の態度次第じゃ厳しい父親になるぜ!」

「へえ、それなら厳しさというものを見せて欲しいものね」


 ラステイターが背後から切りつけられ、たたらを踏む。悲鳴を上げたところを見ると、相応のダメージを受けているのだろう。ラステイターは背後のザクロを睨む。


「手前……お、俺の人形をこんな短時間で始末したのか!?」

「鈍重ね。パワーはあるけど、簡単。これなら魔人の方がまだいい動きをする」


 土人形の頭部はすべて切り取られていた。ラステイターは振り返り、二度目の斬撃を受け止める。さすがにパワー負けしているようで、ザクロは反動で後退した。


「頭を落した程度で、俺の人形を殺したと思ってんのか? あぁん?」


 ザクロはピクリと眉を動かし、足元に目を向けた。足首を土人形が掴んでいる。


「こいつら……! そうか、核がないから頭を落してもダメージが……!」

「ようやく気付きやがったか、ボケが! これで死ね、『鮮血の』!」


 ザクロに向かって、ラステイターは巨大な拳を叩きつけようとする!

 ザクロは足首を掴まれ、動けない!

 だが、彼女とラステイターの間に盾を構えた正清が飛び込んだ。


 ブライガードはその一撃に耐え切った。

 だが、正清は耐えられなかった。彼の体が浮かび上がり、後方にいたザクロを巻き込んで吹っ飛んで行った。二人は折り重なるようにして地面に転がり、呻きながら立ち上がった。


「お前は……いったい何者なんだ。数多にウソを吹き込んで、何をしようとしている!」

「なにを言ってやがる? 俺は数多の父親さ。それは決して変わらない事実だぜ?」

「ウソをつくな、人間はラステイターにはならない! なれないのはしっているだろ!」


 ラステイターは仮面のような顔をニヤリと歪める。

 嘲笑うかのように。


「何も知らねえってことか、お前。ああ、そうだろうな。だが俺は違うぜ」


 ラステイターは拳を打ち付け合った。

 大気が震え、魔力が撒き散らされる。


「俺は滅びを待つだけの人間じゃあねえ。俺の名はロード・クラッシャー!

 滅びを乗り越え、次なる世界を生きる新たな支配者!

 俺はお前らを超えた存在なんだよォーッ!」


 ロード・クラッシャーと名乗ったラステイターは地面を蹴った。爆発的な加速力で巨体が正清たちに迫る! 受け切れない、正清はそう判断しアンカーワイヤーを展開させ、マンションのベランダに引っ掛けた。ザクロを抱き、ワイヤーを巻き取る。寸でのところでクラッシャーの突撃をかわす。進行方向状にあった住宅街が衝撃で破壊される!


「逃げてんじゃねえぞ、お坊ちゃんどもよォーッ!」


 クラッシャーは正清たちに向けて腕を伸ばす。ナックルから魔力波が放出された!

 正清とザクロはベランダの壁を蹴り、別々の方向に跳んだ! マンションが破壊される!


「人間じゃなくたって、人間だったんだろ! ならどうしてこんなことが出来る!」


 正清は落下しながら『BURST』を起動!

 クラッシャーは正清の言葉を笑う!


「俺は弱い人間ってのが大っ嫌いなんだよ! 殺したいほどになァーッ!」


 クラッシャーは正清目掛けて飛びかかる!

 大気が逆巻き、周囲に展開された魔力が正清に吸収されて行く。

 黒色のラバースーツが銀色へと変わって行く。

 シャルディアバーストフォーム、展開完了!


 拳を握りしめ、正清は真正面からそれを受け止めた!

 クラッシャーの拳、正清の拳、二つがぶつかり合い、敗れたのは――正清だ!


「グワァーッ!?」


 正清は吹き飛ばされ、背中からマンションの外壁に叩きつけられた!


「中々のパワーだがよぉーっ! 俺の体には敵わねえんだよな、これはァッ!」


 まさかバーストフォームで打ち負けるとは思っていなかった。

 正清はよろよろと立ち上がり、クラッシャーを睨んだ。ジリジリと全身が焼かれるような感触を覚えた。全身に魔力が染みわたって行き、内側からそれ砕こうとしているようにも思えた。バーストフォームの過剰魔力吸収は、正清の身を持ってしてもなお強烈なフィードバックをもたらす。


 正清は体勢を低くし、駆け出した。時速二百キロを超えるスプリント、瞬間速度はそれよりも更に加速する。追撃のハンマーパンチを跳んで避け、頭頂に拳を叩き込む。クラッシャーの足元に蜘蛛の巣状のひび割れが発生するが、クラッシャーは堪えない!


「効かねえって言ってんだろうが、クソ雑魚野郎が!」


 頭上目掛けてクラッシャーは腕を振るうが、しかし正清は既にその時そこにはいなかった。着地し、ディアバスターを形成。連続で発砲した。強化魔力弾がクラッシャーの胴体に何発も突き刺さる。

 だが、クラッシャーは止まらない!


 敵に勝るのはスピードのみ。ならばスピードで撹乱しなければ。

 正清は考えた、だが避けられなかった。彼の後ろには無防備な少女が転がっている。


 ブライガードを再生成、展開。

 だが受け切れるか? 止められるか?


 思考が終わるその前に、数多が飛び込んで来た。

 その手に持つのは、光り輝く聖剣!


「行けッ……! 逝け、死ね! この世から消え去れェーッ!」


 数多は剣を両手でしっかり握りしめ、クラッシャー目掛けて振り下ろした。

 クラッシャーは笑い、それを受け止めようとするが、途中で顔色を変えた。聖剣に込められたあまりにも強い魔力に気付いたからだ。腕を掲げ、それを止めようとするが、しかし無駄だった。クラッシャーの強固な手甲を、聖剣はバターのように切り裂いた。


「ッギャァァァァァァーッ!? あ、数多ぁっ! て、手前ェーッ!」

「ッ……! ダメだ、『聖剣の』! それ以上、怒りに身を任せるな!」


 クラッシャーは失った腕で体当たりを仕掛け、空中の数多を吹き飛ばした。

 後方からザクロが、前方から正清が迫る。クラッシャーは一瞬の状況判断の後、彼は土を巻き上げた。彼の全身が土の鎧に包まれる、二人は意に介さず突き進んだ。


 魔力を収束させた正清のパンチが、ザクロの斬馬刀が、土の鎧を貫いた。

 だが、手応えはなかった。いつの間にかクラッシャーはそこから脱出していたのだ。


「クソ、あいつ……! いったいどこに行ったんだ!?」

「恐らくは地下に逃れたんでしょうね。それらしい土の盛り上がりがある」


 地面を掘って逃れた、ということか。

 何たる小細工、正清は内心で憤った。


 いや、それよりも。正清は数多を見た。

 彼女は殺気立った様子で歩き出していた。


「待ってくれ、数多! あいつを追い掛けるんだろう、だったら僕も――」

「放っておいてくれないかな、ショウ! これはあたしとあいつの問題だ!」


 数多は正清の手を跳ね除け、走り出した。

 追い掛けようとしたが、全身が軋む。過重魔力吸収、そして戦いの傷が動きを止めた。倒れた正清に振り向くこともなく数多は走る。正清は変身を解除した。これ以上、一瞬も耐えられそうになかった。


「あの子を、クラッシャーを追い掛けないと。このままじゃ取り返しのつかないことに」


 そう言うザクロの額にも脂汗が浮かんでいる。

 見ると、脇腹から血が滲んでいる。


「ザクロさん、その傷ってまさかあの時の……」

「……あなたが気にするようなことじゃない。それよりも、早くあの子を」

数多がラステイターと(・・・・・・・・・・)なってしまうから(・・・・・・・・)ですか(・・・)


 ザクロは言葉を詰まらせた。

 それがすべてを物語っているのと同じだった。


人間はラステイターに(・・・・・・・・・)はならない(・・・・・)でも魔法少女はラステ(・・・・・・・・・・)イターになるんでしょ(・・・・・・・・・・)()?」

「気付いていたのね、高崎。いや、いま気付いたと言うべきかしら?」


 気付いたのはいまだ。そう考えると、ザクロがラステイターを追う理由も、彼女が魔法を使わない理由も、彼女が魔法少女を倒そうとしている理由にも説明がつく気がした。


「人間はラステイターになれない。魔力に耐えられないから。

 でも、魔法少女となることで閾値が引き下がるか、もしくは魔力への耐性が高まる。

 その状態でラステイターと戦い、魔法を使うことで、体がどんどん魔力に馴染んで行く。

 そうなれば……」

「魔力の支配を受け入れ、魔法少女はいずれラステイターへと変わる」

「どうして教えてくれなかったんですか、ザクロさん! 知っていたんでしょう!」


 叫ぶ正清を、ザクロは寂しげな表情で見た。

 何度もやったと言わんばかりの目で。


「甘く優しい幻想と、辛く都合の悪い現実があれば、前者を信じるのが人間よ。

 理想の実現という人参をぶら下げられたのならば尚更。

 こうすることでしか、私は魔法少女を助けることが出来なかった。

 ただ、それだけの話よ」


 俯きそう言ったザクロだが、弾かれたように顔を上げた。

 そして、振り返る。


「あなたを行かせるわけにはいかないわ、ザクロ。新たな王の誕生、いえ」


 それは、底冷えするほど冷たい声だった。

 聞いているだけで背筋が寒くなって来る。


我々の同族となりえる(・・・・・・・・・)存在(・・)が、生まれるかもしれないから」


 白の魔法少女。否、いまだから正清は分かる。

 あれは魔法少女では、人間ではない。


「させない。ラステイターは殺す。魔王(ロード)を殺す。

 魔帝(アークロード)が生まれたのならばそれも殺す。すべての魔法少女を殺す。

 お前たちの好きにはさせない!」


 傷ついた体で、ザクロは地を蹴った。

 ザクロの姿が、白の魔法少女の姿が掻き消える。


「どいつも、こいつも。言いたいことだけ言って、それで満足かよ……!」


 正清は地を叩いた。

 拳が傷つき、血が滲むまで、何度も。


「それじゃあ、僕はいったいどうすりゃいいんだよーッ!」


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