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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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魔法少女、その願いの代償

 声を上げる暇さえもなかった。

 だから正清は、すべてが終わってから叫んだ。


「ザクロさん!? いったい、何を!」


 細剣を持った魔法少女の体が陶器のようにひび割れ、そして弾けた。生身の少女が道路に投げ出され、ピクリとも動かなくなった。気絶しているだけだろうか?

 彼女の胸元にあったマギウス・コアは、空中で砕けて塵になった。


「人間は殺さない。だけど魔法少女は殺す。それが私のスタンス。

 邪魔をするつもりならば、あなたも容赦はしないわ。高崎正清……でも、いまは!」


 背後からエレファントラステイターが素手で襲い掛かって来る。ザクロはそれをスウェーと見事なムーンサルト跳躍で回避。正清のすぐ隣に降り立った。


「ラステイターを倒すことからね。邪魔をしないでちょうだい、高崎」

「……邪魔をするつもりなんてない。けど、乱暴なやり方は僕は好かない!」


 放たれる弓の一撃を盾で弾き、なぎ払われたハンマーを蹴り返す。残った魔法少女は五人、ラステイターが減ったとはいえ、このままでは彼女たちは殺されるだろう。


「あんたとは因縁があるけど、それは後に取っておいてやるわ!」


 数多は聖剣を発現させた。数度の打ち合いで魔法少女の実力を完全に見切ったからだ。魔法少女が大太刀を構えるよりも早くそれを鍔ごと切断、呆然とする少女の腹に槍のようなサイドキックを叩き込む。背後からヨーヨーめいた武器を持つ魔法少女が迫るが、数多は素早く手首を返し剣を掲げ、それを受け流す。


「まずはこの魔法少女軍団を排除するのが先! あんたを倒すのはそのあとよ!」

「誰、あなた? まあいいわ、あなただって排除すべき対象――」


 ザクロは頭を狙って放たれた矢を二本の指で受け止め、そして投げ返した。イヤリング状のマギウス・コアを正確に射抜き、一撃で戦闘不能に追い込む。

 メイスを持った魔法少女はたじろぎ、逃げ出そうとするが、投げ放たれた斬馬刀でマギウス・コアごと胴体を貫かれた。コアを失った魔法少女が爆散し、地面に投げ出される。


(あまりにも実力が離れすぎているということもあるけど……やっぱり強い!)


 エレファントの相手をしながらも、他の魔法少女を倒している。まるで目がいくつも付いているようだ。どれだけの研鑽を積めば、どれだけの修羅場を潜れば、あれほどの領域に辿り着くことが出来るのだろうか? 正清は戦慄した。彼女の背負うものに。


 その時だ、アルマジロが体を丸めて回転。地を削りタイヤめいて正清に向かって突進して来た!

 正清は仁王立ちになり、それを真正面から受け止めようとした。だが、アルマジロの力はあまりにも強い。轍を作り、正清の体が奥へ奥へと押し込まれる!


「くっ……! こんな、ところで! 負けてたまるかぁーっ!」


 気合は入れども、しかしパワーの差は如何ともし難い。アルマジロを受け止める手が滑り、外れ、そしてアルマジロの甲殻が回転しながら正清とぶつかり合う! 凄まじい回転に装甲を抉り取られ、正清は倒れ込む! アルマジロは勢いをそのままに突っ込む!


「高崎ッ!」


 ザクロが叫ぶ。正清は素早く立ち上がり、アルマジロを見た。回転するアルマジロは見事なターンを決め、再び正清に向かって来た。削り殺すその時まで繰り返すつもりだ。

 ならば、と正清はディアフォンを操作。アンカーワイヤーを生成した。


「ウオォォォォォォーッ!」


 アンカーを振り払い、それを突撃してくるアルマジロの側面に向けて叩きつけた!

 アルマジロのそれは完全な球体ではない。真横にはホイールめいて本体が露出している。タイミングを見計らい、正清はそこを捉えた! 集中力と発想の合わせ技だ!


 続けてエクスブレイクを発動。ワイヤーを通ってアンカーに魔力が充填されて行く。正清はアンカーを巻き戻し、そして今度は吹っ飛んでくアルマジロ目掛けて真っ直ぐ放った! 光の矢と化したアンカーがアルマジロの腹部に当たり、そして貫いた! キラキラと光り輝く粒子を撒き散らしながら、アルマジロラステイターは爆発四散!


 それとほとんど同時に、マンティスが倒された。数多の放った聖剣の一撃だ。

 返す刀で数多は剣の腹でヨーヨーを持った魔法少女の腹を殴り、気絶させた。


 エレファントと対峙していたザクロも、戦いを終えたようだった。彼女はエレファントのパンチを避けると、二本の指を眼球に突き込んだ。目を、脳を、そしてその先にあるマギウス・コアを一突きで粉砕した。エレファントラステイターは爆発四散!


「さて、残った魔法少女はあなただけ。ということかしら?」


 大鎌を持った魔法少女は、その場から一歩も動けなかった。ガタガタと震え、歯を噛み鳴らしている。その前に数多が立ちはだかり、聖剣の切っ先を向ける。


「待ちな、あんた。これ以上はもういいだろ。これ以上はあたしが相手になる」

「やめ、て。こ、このままじゃパパが、パパがッ……」


 少女は震え、何かを言った。

 ザクロは目を伏せ、そしてその瞬間にはすべてが終わっていた。

 ザクロは文字通り、目にも止まらぬスピードで少女の背後に回った。


 ザクロの手刀が、チョーカーに付けられたマギウス・コアごと彼女の首を刎ねた。


「なっ……!?」

「悪いけど、あなたの相手をしている暇なんてないの」


 少女は爆発四散し、元の姿を取り戻した。

 かつて魔法少女だった六人の子供たちを見るが、どれも疲弊しているだけで傷を負っている様子はない。中には少女ではなく少年もいるが、その辺りはマギウス・コアが見た目を制御しているのだろう。


「『鮮血の』……! あいつらを倒してくれたことには感謝するけど、やり過ぎだ!」

「あの子たちを止めるには、こうするしかないわ。

 そうしなければ、あの子たちは無限の地獄に足を踏み入れて行くことになる。

 行く先に待っているのは死か滅びだけよ」


 どういうことだ、と確かめようとした時、第三社史編纂室から通信が入った。


『高崎くん、大変だ! 例の団地にいた人々のことなのだが……』

「玄斎さん? どうしたんですか、そんな。何かがあったんですか?」

『被害を受けていないと思われていた人々だが……全員死亡した(・・・・・・)


 間抜けな声を上げ、おうむ返しに返答することしか正清には出来なかった。

 ザクロはこうなることが分かっていたのか、何の感慨もなくその光景を見ている。


『与沢さんから緊急連絡が入ったんです。

 死因はいままでと同じ、全身の体液を抜き取られての枯死のようですねー。

 それと、死亡推定時刻なんですが少なくとも一週間前です』

「……どういうことですか? あそこで聴取を行っている、その場で死んだんでしょ?」

『どういうことかは分かりませんねー。ラステイターの仕業、としか言えません』

『そちらに関する調査は、私たちの方で行っておく。そちらはどうだ?

 大規模なマギウス・フィールドが展開されたのを、こちらでも確認したのだが』


 ほとんどまともな応対をせず、正清は頭を抱えて膝を折った。


「こうなることが……分かっていたんですか? ザクロさん、あなたには……!」

「奴ららしいやり口よ。大切なものを守るためと嘯いて契約を強要し、仮初の希望を映し出す。魔法少女のマギウス・コアと霊的なリンクを張り、そこから魔力を供給することによってそこで生きているように振る舞う、ただの人形に過ぎないわ」

「それじゃあ、みんなもうあそこで死んでいたってことなのか……!?」


 ザクロはゆっくりと首を縦に振った。

 正清には意味が分からなかった。なぜ、そんな。


「どうしてそんなことが! 魔法少女って、願いっていったいなんなんだ!?」

「願いではないわ、呪いよ。そうしなければならない状況に追い込むことを、契約させるとは言わないでしょう。恐怖と恫喝によってそこに陥れられただけ……」

「それでも、それが分かっていてあなたはなんで! あなたが殺したようなものだろ!」

「願いに捕えられてしまえば、死ぬよりも辛い現実と向き合わなければならなくなる」


 話は終わった、とばかりにザクロは斬馬刀を引き抜き、その切っ先を数多に向けた。


「あなたもここで倒す。どんな目的を持っているのかは知らないけれど……」


 それを数多は受け入れない。

 受け入れることは、彼女の母を殺すのと同義だからだ。


「あたしは……母さんを守る! お前が邪魔をするなら、倒す!」

「そう。ならばあなたは私が倒す。優しい夢は終わりよ。現実を見なさい」


 ザクロは斬馬刀を構え、数多は聖剣を構え、打ち合う。

 正清は止めようとした。だが。


「待ぁーて待て、待て! こいつはお前には殺させねえぞォーッ?」


 その間に割り込むものがいた。

 いつの間にか、それはそこに現れていた。


「ッ……!? お前は、いったい……」


 これほどの存在感を持つ敵に、どうしてこれまで気付かなかったのだろうか?

 いつの間にかザクロと数多の間に、巨大なラステイターが立っていた。仁王立ちになるその巨体は二メートルを遥かに超え、四メートル弱ほどもある。肉体は黒光りする金属質の物体で構成されており、黄色いピンポイントアーマーが光る。工事現場めいた色彩だ。


 ラステイターは黄と黒のストライプをあしらった手甲に力を込める。それだけで、数多もザクロも跳ね返された。正清は数多を受け止め、ザクロは自力で着地した。

 木彫りの面のような、人間味のない表情がぎこちなく歪んだのが見えた。


「『鮮血の魔法少女』に狙われるとは……大変だったなぁ? 数多」

「なっ……何なのよ、あんた! どうしてあたしの名前を知ってるのよ!?」


 目の前に入るラステイターは、他のものとは何かが違った。

 外観だとか、能力だとか、そういうものではない。

 もっと根本的なところで他のラステイターとは違っていた。


「オイオイ、つれねえな。また昔みたいに、俺のことを呼んでくれよ。パパ(・・)って」


 数多は世界そのものが時を止めたかのように硬直した。

 ぎこちなく、口を開く。


中西(なかにし)……正二(しょうじ)?」


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