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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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彼女たちは何を求めて戦うのか

 消えた少年少女の行方は未だ掴めずいた。

 そもそも、あの団地に入居していた世帯がほとんど丸々消えているのだ。

 被害状況の確認だけでも相当な時間が掛かる。


「警察とも連携して捜査を進めて行かなければならないな。

 人探しならともかく、ラステイター絡みとなれば一般の警察にはちと荷が重いかもしれない」

「同感です。仮にこれだけの世帯の子供が魔法少女となったなら、相当な脅威ですよ」


 団地から消えたのは若年層が中心だ。

 魔法少女の力は理性のタガを破壊する、というのが二人の見解だった。

 『桜花の魔法少女』という実例を見ているだけに反論出来ない。


 明くる八月二日、被害状況がある程度判明し、第三社史編纂室にもたらされた。

 テレビ報道もなされており、概ねその情報とも一致する。

 行方不明は報じられなかったが。


「やはり、犠牲になったのは単身者が中心になっているようですね。

 独居老人に母子家庭、DV被害者。

 親族とも没交渉になっているような人が選ばれたようだ」

「でも、どうやって選定したんでしょう? 傍目からは分からないでしょう?」

「アリエスが来る前から、準備を進めていたのかもしれないな。しかし……」


 玄斎は唸った。

 彼の視線は、行方不明者と思しき者たちのリストに注がれている。


「これだけの人数が一斉に行方をくらませるとはな。偶然とは考えられない」

「ドラクルが彼らの家に立ち入ったことは間違いありません。

 だが、そこで何らかの事が行われた形跡はない。事件性がないから捜査員も立ち入れない、確認する術はありませんがね。となると、考えられる可能性が一つある。プレゼンターとやらが関わっている」


 須田はあの白い生き物の名前を出した。


「ドラクルに襲われた家庭に彼が現れ、マギウス・コアを渡す。この力があればお父さんとお母さんを助けられるよ、とでも言ってね。彼の目的は魔法少女を増やすことだ、そうしたのっぴきならない状況は放っておかないだろう。だが……」


 須田は唸り、何かを考えている。

 そして、恐る恐る考えを口に出した。


「今更だが……プレゼンターというのはいったい何者なのだろうか?」

「それは、あいつがどういう目的を持って魔法少女を増やしているかということですか」

「それだけじゃない。

 プレゼンターとは果たして、いかなる存在なのかということも含まれる。

 人間ではないのは確かだが、それにしても……」


 須田の考えはまとまっていないようだ。

 足下に目線を落とし、何かを考える。


「仮説も立てられる状況じゃない、プレゼンターのことは一旦置いておこう。

 直近の問題である行方不明者捜索を優先すべきだ。彼らが如何なる意図をもって消えたかは分からないが、その背景にはラステイターの存在があるだろう。捨て置くわけにはいかん」


 蓮華も探さなければならないのに、その上別の事件まで重なって来るとは。

 正清は嘆息したが、仕方ないと受け入れた。目の前の事態を解決しなければ。


「高崎くん、数多くんと一緒に亥鼻の辺りを調べてくれるか?

 事件が起こった団地の、周辺十キロくらいを調べようと思っている。

 朱鷺谷くんと綾乃くん、それから相原くんと陽太郎は別の範囲を担当する。

 ナビゲーションは私がやろう」

「分かりました。あの辺りは数多の地元ですからね、何か分かるかも……」


 そう言って、正清は出発した。

 数多に連絡を取り、数分以内に到着するとだけ言っておいた。

 彼が部屋を出る段階になっても、須田は答えを出せなかったようだった。




 起伏に富んだ亥鼻には古い住宅がいくつも立ち並んでおり、そのうちいくつかは人が絶えて久しい。つる草に覆われ、無残な躯を晒していた。


「空き家が多いからね。不良が出入りするならこういうところだよ」

「あんまり家庭環境が荒れていたりとかはなかったみたいだけど……」


 とはいえ、どうやって探したものか。二人は途方に暮れていた。行方不明になった子供は十二から十八歳くらいまで。そのくらいの歳頃なら一人でで歩いていても少しもおかしくない。夏休みに入っているので、それはなおさらだ。何か手がかりがあればと思うが。


「んー……どうやって探したもんかね、ショウ」

「それをいま考えているところ……ん、どうしたの数多? 顔赤いけど」


 数多の頬は熟したトマトのように赤かった。

 よくよく観察してみると、呼吸も荒い気がする。

 単に熱いと言うだけではないだろう、というか今日は涼しいくらいだ。


「うーん、何だか最近熱が出るようになっちゃってさ。体調は悪くないんだけど……」

「風でもひいている、ってわけじゃないんだよな。でも、気を付けろよ?」

「アッハッハ、ありがとうショウ。気ィ使ってもらっちゃってるみたいだね」


 気も使いもする、と正清は思った。

 彼女は老婆との二人暮らし、体調を崩せば母親の負担が増えるだけではなく、母が病気にかかるリスクも大きい。彼女を守るために戦っている数多にとっても、それだけは絶対に避けたいシナリオだろう。


「そう言えば、夏美さんは最近どうなの? 一度会ったきりだけど……」

「元気元気。見てるこっちが気持ちよくなるくらいだよ。最近は綾乃ちゃんが来るしね」

「綾乃ちゃんが? そっか、最近一緒にいることが多いけど……」

「最初は生意気なガキかと思ってたけど、結構いい子だったからさ。

 よく家に誘って一緒にご飯食べたりしてるんだ。

 礼儀正しくって、そんで素直で。妹が出来たような気分」

「綾乃ちゃんみたいな妹なら、手がかからなくていいだろうね」


 数多似の妹だったら気がかりが多くなるだろうな、と正清は思った。


「……ねえ、なんかいまあたしにとって失礼なこと考えてなかったかしら?」

「別に、考えちゃいないよ。それよりも早く行方不明者を探さないと――」


 数多が食って掛かろうとした瞬間、ディアフォンが震えた。

 数多もそれに気付く。


「これって……もしかして、マギウス・フィールドの展開反応?」

「ああ、けど妙だな。こんなにはっきりとしたフィールドを展開するなんて……」


 最近のラステイターはマギウス・フィールドを展開しても無駄だと学習している。これほど大規模な、はっきりとしたフィールドを展開するような個体はここ一週間お目にかかっていない。何かがおかしい、二人はそう感じて発生源に向けて走り出した。


 二人は坂を下ったところにある、大きめの駐車場に辿り着いた。

 そこにいたのは何体ものラステイター、そして……

 パステルカラーの衣装を着た魔法少女!


「これは……! やはり、行方不明になっていた子供たちが魔法少女に!?」


 新人魔法少女とラステイターの戦いは、魔法少女側が劣勢だった。

 魔人(デーモン)級、更には魔獣(ビースト)級ラステイターが、それぞれ二体ずつ。魔法少女は六人ほどいたが、しかし歴戦のラステイターを相手にするにはやはり力不足感が否めない。


「川上さん、島崎さん! 亥鼻でラステイターと魔法少女を発見、応援を頼みます!」

『こちらでも把握している。だが、そう言うわけにはいかない』

『別の地点でもラステイターと魔法少女を確認しています!

 恐らく、行方不明になった子供たちと思われますが詳細は不明!

 各地点で交戦に入っています!』


 二人は驚き、顔を見合わせたが、すぐに気を取り直した。

 正清はドライバーを、数多はマギウス・コアを取り出し、変身。

 ラステイターに向かって行った。


「数多、ラステイターを倒す! この子たちを逃がさないように気を付けて!」


 正清はラステイターの横合いから飛びかかり、その首を切断。組み合っていた細剣を持った魔法少女が地面にへたり込んだ。殴りかかってきた別のラステイターを盾でいなす。


 襲い掛かって来た魔獣級と思しきラステイターは、硬い甲殻を持った怪物だった。

 硬い鱗状の甲羅がいくつも折り重なったような姿をしている。

 アルマジロラステイター、とでも呼ぶべきか。

 硬い甲殻は拳にも張り付いており、打撃力を高めていた。


「下がっていてくれ、キミ! ここは僕たちが受け持つから――」


 そう言おうとして振り返った正清の目に、細剣が飛び込んで来た。魔法少女から攻撃を喰らった、と認識した時にはもう遅い。細剣がヘルメットに突き刺さり、凄まじい衝撃が正清に襲い掛かって来た。吹き飛ばされ、砂利の上を転がる。


「くっ……! 何をする!」

「邪魔はさせないわ! マギウス・コアを奪おうっていうんでしょう!?」


 この子たちも、最初の数多と同じような勘違いをしているのか?

 正清は考えたが、しかしその暇はなかった。横合いからスタッグビートルラステイターが現れ、チェーンソー腕を振り下ろして来た。ブライガードでそれを弾き返し、空いた胴に剣を突き込む。


「ああ、もうあんたら……! ちょっとは、こっちの話を聞きなさいよ!」


 数多の方も似たような状態らしい。

 細剣の連続刺突を捌きながら、正清は少しずつ後退した。

 数多の方はより状況が悪い、聖剣は威力があまりに高すぎて使えないからだ。


「落ち付いてくれ、キミたちと戦う気は無い! ただラステイターを!」

「そう言って私たちから奪うつもりなんでしょう!? その手には乗らない!」


 刺突は稚拙なものだが、しかし数が揃えば厄介だ。

 弓を番えた魔法少女が屋根の上から正清を撃つ。周囲に警戒を払っていなかった彼女は、跳びかかって来たマンティスラステイターに吹き飛ばされた砂利の上に落ちた。正清の後方に大きな棍棒を構えた魔獣級ラステイターが現れ、柱めいたそれをフルスイングした。正清は避けたが、魔法少女は無理だった。吹っ飛ばされた彼女を追撃しようとしたラステイターが、数多に迎撃される、


 正清は振り払われた棍棒を蹴り、ラステイターと距離を取って対峙した。

 象牙質の棍棒を両手でホールドした、巨漢の怪物。

 灰色の固い皮膚が特徴的で、鼻のない象のような顔をしていた。

 エレファントラステイターだ。


「そいつを、倒すのは……私だぁー!」


 細剣を両手で持ち、魔法少女がエレファントに向かって突進していく!

 だが、遅い! エレファントは棍棒を振りかぶる!

 ジャストミートで魔法少女が肉塊へと変わる――!


 正清はそれを庇おうとしたがそうはいかなかった。

 棍棒が何かで射止められたからだ。


「どうにも街が騒がしいと思ったら、おかしなことになっているみたいね」


 棍棒を射抜いたのは、巨大な斬馬刀だった。

 続いて、何かが落ちて来た。エレファントの頭部に向けて。

 頭頂に叩き込まれた踵が、エレファントを叩き伏せた!

 着地したその影は斬馬刀を引き抜き、正清の方に顔を向けた。


「ザクロ、さん? あなたが、どうしてここに……」

「私がやることは変わらない。すべてのラステイターを殺し、そして――」


 斬馬刀を振り払う。

 反応すらも出来ず、細剣を持った魔法少女の首が飛んだ。


「すべての魔法少女を殺すこと」


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