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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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鬼神乱舞

 ロード・ドラクル、鬼人態。

 まさしくそれは、吸血『鬼』と呼ぶのに相応しい姿だ。


「肉体強度の向上を確認。迂闊に近付くなよ、数多、綾乃。こいつの力は――」


 正清を殴りつけたドラクルが、須田に視線を向けた。

 その時にはすでに、逆の手の裏拳が放たれていた。

 須田は全力で前転を打ち、太い腕を潜り抜けた。


「……バーストフォームに匹敵するか、それ以上の力を持っている!」


 連続前転を打ちながら体勢を立て直し、須田は立ち上がる。

 ヴァリアガナーの結合を解き、ドラクルに銃撃を叩き込んだ。


 ドラクルは小さく足を踏み鳴らした。

 すると足下から鮮血が吹き上がり、壁が出来上がった。

 銃弾はそれに弾き返された。


 ブレードモードを展開。ヴァリアガナーの銃身下部から二本のナイフが出現。銃身と水平になったブレードは、銃撃戦を行いながらの近接戦闘を可能とする。須田はブレードを胸元で交差させた。その時、血の壁を突き破って槍が須田に向かって飛んで来た!


 防御姿勢を取ったのは、単に本能的な行動だ。血の槍はあっさりとブレードを破砕させるが、かなりの威力を削った。それでも槍は甲冑に突き刺さり、火花を散らした。


「ったく、とんでもないバカ力に柔軟な能力。こいつはキツいね!」


 綾乃は意識を集中させ、力を解放した。

 綾乃の持つ魔法は短期間の身体能力向上。

 ただしそれは理性を削る諸刃の刃だ。知恵持つ相手には使い辛い。


 だからこそ、綾乃は意識を集中させた。

 理性の手綱を握れ、己が知性を確かめろ。

 この力は必要だ、だが飲まれることなかれ。

 綾乃は圧倒的な力の奔流に身を任せながらも、懸命に意識という名のオールを握った。


「ッシャァァァーッ!」


 綾乃はドラクルに向かって突撃する。

 ドラクルは槍を振るい、彼女を迎撃しようとした。

 綾乃は地を蹴り、槍をすれすれのところで回避!

 ドラクルの顎目掛けて強烈な蹴りを叩き込んだ!

 しかしドラクルは逆の掌でそれを受け止める!


 綾乃は反動で後退。更に跳んだ。

 ドラクルの側面を取ろうとするが、彼はそれに対応する。

 綾乃が放った連続パンチを片手で捌き、血の槍を地面に突き刺した。

 地面から伸びる血の槍を、綾乃は最低限の動作で回避。

 高められた身体と感覚がそれを可能とする。


(もっと、もっと加速しろ。もっと力を。もっと反応速度を高めろ。でなければ!)


 死、あるのみ。

 理性が焼き切れるギリギリのところで、綾乃は踏み止まる。


「邪魔臭いな、キミは! 私の前から消えたまえ!」


 ドラクルは左の拳を振り払う。

 綾乃はそれを受け止めきれず、後方にふっ飛ばされる。

 ドラクルは手元で槍を回転させ、投げた。音速を遥かに超えたスピードで迫る槍!

 吹き飛ばされた綾乃には防御はおろか、回避さえも不可能!


(いや、避ける! 私は生きて、生き残って戦う!)


 吹き飛ばされながら、綾乃は神経を研ぎ澄ました。

 時間感覚が鈍化し、槍がゆっくりと迫って来る。

 体を捻る、捻る、捻る。槍の回転に合わせ、綾乃は体を弾丸めいて捻じった。

 飛んでくる槍を這うように、綾乃はそれをかわした。


「なんと、そのようなことが出来ると言うかね!?」

「あたしにばかり構っていていいのか――!?」


 ドラクルは弾かれたように後ろを振り向いた。そこには聖剣を携えた数多がいた。

 しかし、遅い。彼女が振り抜くよりも先に、掌から放たれる血の槍が彼女を貫く。


 ドラクルはそう考えたが、しかしそうはならなかった。

 掌から伸びた血の槍が、弾かれた。ヴァリアライフルの一撃を受けて。須田は既に体勢を立て直していた。ドラクルは腕を引こうとした、だが間に合わない。振り上げられた聖剣が、ドラクルの腕を切断した。


「驚くべきことだ、ここまで私が追い詰められるとは……!」


 だがドラクルは冷静だった。半歩身を引き、太い拳を繰り出す。

 数多はその一撃を聖剣で防ぐが、しかし衝撃で弾き飛ばされる。

 ドラクルは周囲を睥睨し、三者を牽制した。


「長き時を生きて来て、ここまで追い詰められたのはいつ以来だろうか?

 キミたちほどの使い手は、ここ七百年ほど見てこなかっただろうな」

「ほう? 近代の魔法少女は余程ボンクラ揃いだったようだね」


 須田は減らず口を叩きながら、冷静に状況を観察した。

 正清を吹っ飛ばされ、多大なダメージを受けた。

 四対一で囲んでおきながら、ようやく腕一本。桁違いの実力。


 須田は打開策を探したが、ドラクルはいきなり笑い出した。


「ハッハッハ、魔法少女か。なるほど、キミはまだ気付いていないということか」

「なに……? どういうことだ、下らない策でも考えているのかな?」

「策? キミたちを追い詰めているのは私だ、それなのに策を弄する必要があると?」


 ドラクルは須田を嘲笑った。

 まったくその通り、ドラクルの発言は腑に落ちなかった。


「少しだけ打ち合って分かった。キミたちは私にとって脅威とはならないということだ」

「脅威にならない、ね。舐めてくれたもんだ。だったら思い知らせてやる――!」


 須田はエクスブレイクを発動させ、銃口をドラクルに向けた。

 凄まじいエネルギーが収束する。だが、それはドラクルにとっても想定済み。

 須田がトリガーを引くのと同時に、ドラクルは血の盾を形成。

 凄まじい勢いで放たれた弾丸を受け止めた。


「残念ながら、その程度なら私にとって脅威にも――」


 そう思った瞬間、アンカーが飛んで来た。

 防御に集中していたドラクルは、それを防ぐことも避けることも出来なかった。

 アンカーはドラクルの周囲で旋回。

 チェーンがドラクルの体をがんじがらめに絡め取り、動けなくした。


「これは……! なるほど、やたらと静かだと思ったらこう言うことか!」


 いつの間にか正清は団地の屋上に昇っていた。

 虎視眈々とこの機会を伺っていたのだ。


「クックック……だが、この程度の拘束を私が解けないとでも思っていたのか!?」


 ぐっ、とドラクルは全身に力を込めた。

 ドラクルの体が膨れ上がっていき、ワイヤーがミシミシと音を立てて軋む。

 拘束が解かれるのも時間の問題だ!


「お前が脱出出来ないとは思っていないさ。そうなった時点で詰みってだけでな!」


 須田はホルスターからブラウズ二号を取り出し、放った。

 巨大なバイクが光と共に顕現する。ドラクルはそれを見て、鼻で笑った。


「あのアーマーがキミの切り札か? 笑止! バカ力で私は――」

「あんな野蛮な戦い方、私はしない。私のはもっとスマートだよ――!」


 須田はブラウズの秘密コードを入力した。

 巨大バイクのエンジンが嘶き、変形した。

 ほんの一秒の間に、ブラウズは巨大な手持ちキャノン砲へと姿を変えていた!


「なっ……! 何だね、それは! キミの方がよっぽど野蛮なのではないかね……!?」

「僕なら殴り合いはしない。そう言うことだよ、ドラクル!」


 須田はエクスブレイクを発動させた。

 ドラクルは身じろぎするが、魔力によって強化されたワイヤーはまだ解けない!

 砲口に魔力が収束する。すべてを飲み込む圧倒的な魔力が。

 ドラクルはそれを見て、抵抗することを止めた。


「素晴らしいな、人間。それがキミたちの力、エゴを貫き通す力!

 ああ、なるほど……見せてもらったぞ、キミたちの思いを!

 ハッ、ハッ! ッハッハッハ!」


 須田はトリガーを引いた。

 光の帯がアンカーワイヤーとドラクルを飲み込み、溶断した。

 光が消えた時、そこにはもはやドラクルの欠片すらも残っていなかった。




 けたたましいサイレンの音が聞こえて来た。

 何台ものパトカーや救急車が現場に到着した。すべてが終わった現場へ。

 助けるべき人々は、何週間か前にすでに死んでいた。


「とんでもないことになったみたいだな。ともかく、お疲れさん」


 与沢警部は正清に冷たいコーヒーを振る舞った。

 魔法少女組は撤退済み、須田は警察の見聞を手伝わなければならない。

 必然的に何もないのは正清だけになる。


「団地一つが丸々、ドラクルとやらの餌になってしまったわけだ。

 性質の悪いホラー映画みたいだな、これは。

 そんなことを言うと、不謹慎かも知れねえが……」

「奇遇ですね、僕も同じようなことを考えていたところですよ」


 ここで行われたことは、ラステイターが起こして来た事件の縮図だ。

 彼らは人目に触れぬよう、細心の注意を払いながら人々を捕食する。AMFという技術が開発されてしまったため、そうすることが出来なくなった。こうせざるを得なかったから、した。


(もしかして、混乱を引き起こしているのはバンクスターの方なんじゃ……)


 もちろん、詭弁なのは分かっている。

 だが、被害者遺族の会の言い分も少しは分かる、と思ってしまった。これから起こる事件の被害者はいなくなったかもしれない、けれどここで死んだ人々の命はどうやっても帰っては来ないのだ。どうやっても。


 不意に、プレゼンターの顔が頭に浮かんで来た。

 あれの力ならば、もしかしたら。


「ふぅ、っと。お疲れ様です、与沢さん。あなたもこちらにいましたか」

「捜査一課だからな。殺しの現場には呼び出されるんだ。とは言っても、犯人は死んじまったし、仮に生きていたとしても法が適用出来るかは分からねえけどな」

「心中お察ししますよ。正清をお借りしたいんですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、呼び止めていたわけじゃないんだ。仕事なんだろ? 行って来い」


 正清は須田に促され、そこから立ち去ろうとした。

 ところで、呼び止められた。


「お前はよくやったよ、正清。だが、こういうこともある。気に病むなよ」

「……ありがとうございます、与沢さん。それじゃ、失礼します」


 正清は歩き出した。だがとても、気に病むなと言われても無理だった。


「ちょっと気になることが起こったんだ。気のせいならいいんだけど……」

「どうしたんですか、須田さん。中を調べて何かあったんですか?」

「奴が言った通り、百三十七人の犠牲者が出ていた。

 だが、ここ一帯の世帯すべてが犠牲になっていたわけではない。

 残っていたのは子供のいる世帯だけだ」


 そこに何かおかしなところがあるのだろうか、と正清は思った。

 ドラクルも言っていた、『消えても問題のない人間を選んだ』と。

 つまりは、騒ぐ遺族がいない相手だ。

 胸の悪くなる話だが、家族連れは選ばれ辛かったという話だろう。


「だが、被害に遭っていない世帯にも魔力の痕跡があったんだよ」

「え? それって、つまりは……」

「ただお茶をしてきたわけじゃないのは確かだ。更に面白い事実が一つある」


 そう言って須田は一枚のリストを差し出した。団地の世帯名簿のようだ。


「多くの子供が行方不明になっているんだよ。年齢は代々十二から十八歳。

 どこかで聞き覚えのある年齢帯だと思うけど、キミはどう思う?」


 ラステイター。

 行方不明者。

 中、高校生。

 つまりはこう言いたいのだろう。


「彼らは魔法少女になりここから消えて行ったってことですか?」


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