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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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鬼の矜持

 スーツ姿のサラリーマンがいた。

 上品なワンピースを着た女性がいた。

 皮と骨だけになった老人がいた。

 男がいた。女がいた。老人がいた。子供がいた。


 そのどれもが命を失っていた。

 白濁した瞳を向け、殺意だけを抱き駆けて来る。


 叫び、正清はディアバスターのトリガーを引いた。放たれた魔力弾はあっさりとゾンビの頭部を打ち砕き、活動を停止させた。その死体を踏みつけゾンビは進んで来る!


(頭を潰せば、動けなくなるのか! けど、このままじゃ……)


 ドラクルの言葉を信じるのならば、ゾンビの数は百三十七体。氾濫する死を前に、正清は対応を余儀なくされる。ディアバスターを分解、ドライバーに戻し武器を生成しようとした。しかし、並の合間を縫って赤き槍が正清に向かって伸びて来る。寸でのところでそれをかわすが、しかし続けてゾンビが迫る。徒手空拳での応対を余儀なくされた。


「ッ……! 須田さん、こっちにはいつ来られるんですか!?」

『三分くれ、数多と綾乃もそちらに向かっている。悟志と睦子はダメだな。

 港湾地帯でもラステイターが現れた、そちらへの対応に向かっている』


 二人にこんな惨状を見せるわけにはいかない。

 その前にどうにかしなければ!


「ッハッハッハ! いい腕をしている! ならばこんなのはどうかな!?」


 上からゾンビが飛びかかって来る。

 迎撃しようとするが、しかしゾンビの体が膨れ上がった。そして、弾けた。

 血の散弾が降り注ぎ、敵味方の区別なく一帯を殺傷!


「こんな……こんなことをして! お前は何とも思わないのかッ!?」

「空の袋をどう使おうと私の勝手だろう!? むしろエコだと思うんだがねぇ!」


 正清はグッと呻き、そしてブラウズを手に取った。

 死の波を跳んで避けるとマシンアーマーを展開した!

 ブラウズが変形し、正清の体を包み込む鎧と化す!


「それは聞いていたよ! だが想像していたよりも、ずっと力強い姿をしているな!」

「黙れ、ドラクル! お前は僕が殺す、ここで仕留めて見せる!」


 地上にホイールを向け、ビームの雨を降らせる! 対空攻撃能力を持たず、また防御能力も持たないゾンビたちは上空から降り注ぐ弾丸に対応出来ない! 一撃一撃で肉体を削り取られ、ミンチ肉めいた死体を周囲に飛び散らせるのみ!


「それはあまり美味くないな、シャルディア! シィッ!」


 魔力シールドで弾幕を防ぎながら、ドラクルは手元で血の槍を回転させた。穂先が波打つのが、正清には見えた。ドラクルが振るう槍の穂先から、血の矢が放たれる!

 正清は迎撃しようとするが、意志を持ち自在に動く矢を捉えることは出来なかった。マシンアーマーに矢が突き刺さり、火花が舞った。だが、戦闘不能に陥るほどではない。


「この程度の威力……! まとめて消し飛ばしてやる!」


 マシンアーマーが急速に変形し、必殺のアルケミスミサイルを形成!

 対象をロックせず、そのまま放とうとした。

 だが、ドラクルの頬がニヤリと歪んだ。


 両肩と両足に展開されたミサイルポッド、そこに赤い皮膜が張り出した。いつの間にかマシンアーマーに突き刺さった血の矢はそこからなくなっていた。破壊した装甲から内部に進入、火器管制システムにまで影響を及ぼし始めたのだ!


 正清は射撃を取りやめようとした、だがそれは叶わなかった。ミサイルは暴発し、圧倒的破壊のエネルギーがマシンアーマーそのものを襲った。細かな破片が辺りに散らばり、正清の体が空中に投げ出された。ドラクルはそれを見逃さず己が血を操った。行動不能に陥ったゾンビを操っていた血が一か所に収束、大樹の幹のように変わり正清を捕らえた。


「くっ、なんだこれ……!? 動けないッ……!?」

「ようやく止まってくれたか、小うるさいハエめ。

 とはいえ、人間がここまでの力を付けているとは驚きだったがね。

 キミには敬意を表して……」


 血の大樹から枝が伸びた。肋骨めいた姿を取る枝の先端は、正清に向いていた。

 木の幹の内側に捕えられた正清はもがくが、しかし力強い拘束を解くことが出来ない!


「この紅の大樹の一部となることを許可しよう! 死ね、シャルディア!」


 先端が正清を貫こうと迫る!

 しかし、彼が死ぬことはなかった。何故ならば!


「どっ、せいやぁーっ!」


 紅の大樹が切断される!

 複雑なルーン文様の描かれた剣、すなわち『聖剣』によって!

 拘束が緩んだ一瞬を見計らい、正清は『BURST』アプリを起動させた。

 全身を蝕む魔力の熱、収束した魔力が枝を焼き溶かし、彼の身を守った。


「なんと……! 力を放出することによって、そのようなことも出来るのか!」

「勉強不足だったみたいだけど……出来るんだよッ!」


 背後から掛けられた声に反応し、ドラクルは槍を掲げた。重い一撃は一撃で槍をへし折り、ドラクルの体をふっ飛ばした。甲冑がコンクリートの壁にめり込む。


「……数多! 綾乃ちゃん!」


 ドラクルは立ち上がろうとするが、阻まれた。連続した発砲音が響き、ドラクルの全身に弾丸が撃ち込まれた。悲鳴と共に彼の身に蓄えられた魔力が漏出する。


「どうやら危ないところだったみたいだね、正清。キミなら何とかなったかな?」


 団地の屋上からドラクルを狙撃したのは、赤い戦士。

 黄金に縁どられた鎧を纏う男!


「須田さん!? それに、ウィズブレン! 復帰したんですか!?」

『我々は止めたんだがね。彼が止めても止まらんのは知っているだろう』


 玄斎の諦めたような声が聞こえて来る。何となく情景が浮かんでくるようで、正清は苦笑した。ところで、ドラクルがピクリと動くのが見えた。


「やれやれ、やってくれたね。まあ、いい。本気でやらせてもらおう……!」


 ドラクルは両手を広げ立ち上がった。すると、一面に展開していたゾンビがビクリと震えた。そして、倒れた。その足元から赤い血のような液体が広がって行った。

「数で押し潰そうかと思ったが、そうもいかないようなのでね。

 キミたちが集合した以上、戦力を分散させておく意味はほとんど存在しない……!」


 血がドラクルの足元に集まって行く。そして、ドラクルはそれを吸収した。

 甲冑の厚みがどんどん増して行くのが分かる。ドラクルの体も肥大化していく。


「さすがは魔王(ロード)級ラステイター。とんでもない魔力量だな……!」


 須田が息を飲むのが聞こえた。さすがにアリエスほどではないが、凄まじい魔力。更にドラクルには変幻自在な操血能力がある。総合力ではアリエスを上回るだろう。


「奴の相手は俺がします! みんなは援護を頼む!」


 正清は言ったが、その前にドラクルが動いた。ゾンビから回収した血を、ドラクルはすべて吸収していなかった。血貯まりが泡立ち、盛り上がる。一瞬にして地上は針のムシロと化した。正清たちを仕留めるには至らなかったが、隙を作るには十分。


 その隙にドラクルは跳び、須田の方に向かった。

 ドラクルは再生成した槍をなぎ払う、槍の穂先から細かい血の飛沫が飛び、散弾のように須田を襲った。衝撃で屋上が粉砕される中、須田は柵から身を乗り出し、地上に降りようとした。


 だが、それをドラクルは見逃さなかった。ドラクルは空を蹴り方向を急転換、須田目掛けて弾丸のような勢いで跳んだ。空中で血の壁を展開、それを使い加速を得たのだ!


「ははっ、いいなその機能。僕も欲しい」


 須田はヴァリアライフルを掲げ、それを防ごうとした。


「それは私を撃つための武器だろう? 攻撃を受け止めるようには出来ていない!」

「そんなことはキミに言われるまでもなく分かっているさ!」


 その瞬間、ヴァリアガナーが変形した。

 変形したブレードが槍を受け止める!


「この前の戦いでは近接戦闘で痛い目をみたからね。ちょいと作らせてもらったよ!」


 舌打ちし、ドラクルは槍を引いた。再度攻撃を行おうとするが、それは中断。

 再び空を蹴り、弾丸のような勢いで迫る正清の跳び蹴りを回避!


「数多、綾乃、跳べ。地下水道を通って血の槍がそっちに向かっている」


 ヘッドセット越しに聞こえてきた命令を、二人は忠実に実行した。

 二人は飛びずさり、その直後アスファルトを割って血の槍が二人に襲い掛かった。対応が一瞬速かったのが幸いした。ドラクルは訝し気に呻きながら、団地の屋上に着地した。


「これもアリエス戦の教訓さ。パッシブセンサーで地中の動きを探知している」

「なるほど、物知り博士というわけか。キミから処分していきたいところだが――」


 ドラクルは屋上から身を躍らせる。正清がディアバスターによる一撃を放ったためだ。増強魔力から放出される弾丸の威力は、まさに桁違い。一筋の光条が天を焼いた。


 地上に落ちて行くドラクルに向かい、数多と綾乃が突撃していく。力任せに振り下ろされる聖剣の一撃、全体重を乗せた跳び蹴り。それをドラクルは真正面から受け止めた。


「なるほど、やはりキミたちは一筋縄ではいかないようだ。いいだろう」


 ドラクルの肉体が肥大化した。

 黒い鎧がひび割れ、そして弾けた。

 警戒し、数多と綾乃はバックジャンプを打つ。

 結果的に、それが二人の命を救った。


「キミたちには見せなければならないようだな。私の本当の姿を」


 そこに出現したのは、黒くふさふさとした体毛で全身を覆ったオオコウモリ。

 ただし、その肉体は正しく異形と呼ぶほかないものだった。両手足と胴は人間によく似ており、そして非常に発達していた。あまりに太く、そして厚い。背中からコウモリの羽根が生えていた。血に飢えた穢れた牙を携えた顔もコウモリのそれだ。


「あれがロード・ドラクルの本当の姿……なるほど、化け物だな。気味が悪い」

「そう言うな。私はこの姿が嫌いではない。強くなれる気がするんだ、この姿は」

「……強くなれる。それがあんたたちが、人間の姿を取る理由?」


 ふっ、とドラクルは自嘲気味に笑った。

 そして次の瞬間、正清の視界から消えた。


「そうだ。私たちの住処を奪い、大地を蹂躙し、世界からすべてを簒奪する」


 次の瞬間には、ドラクルは正清の横に移動していた。

 正清は腕を掲げ、繰り出される攻撃を受け止めようとした。

 だが、敵わなかった。凄まじいパワーに押され、正清の体が吹き飛ばされた。

 分厚いコンクリートの壁を破壊し、棟内へと叩き込まれた!


「そのような在り方こそが……我々生物の求めるものだからね」


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