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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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変わる世界

「いいな、やっぱり生は疲れる! どうだった!」

「大変素晴らしいスピーチでした」

「だろう!」


 高田は控室で化粧を落とし、スタジオを後にしようとしていた。

 数カ月に渡る交渉、その成果が今日に集約していた。決定的な証拠を叩きつけるまで、信じるものは皆無だった。金に物を言わせて報道ヘリを飛ばさせるまでにも多くの困難があった。


「これからのことを考えると笑いが止まらない! そうは思わないか?」

「思います、支社長」

「だろう! 素晴らしいビジネスチャンスだ。関係省庁との交渉プランを練っておこう」


 そのまま社に戻ろうとしたが、そうはいかなかった。

 出口に人影があった。


「お疲れ様! あの放送を見てここに来たのかい? 行動が早いな!」

「むしろ遅すぎたくらいですよ、高田支社長。話を聞かせて貰えませんか?」


 真剣な表情で問いかける須田を、高田は鼻で笑う。

 そして顎で車を指した。


「私は仕事が多いんでね。移動時間くらいしか割いてはやれんが、それでもいいか?」


 須田はブラウズを戻し、頷いた。

 金のかかった専用リムジンに三人は乗り込んだ。


「あれはどういうことですか、高田支社長。あんな発表をするなど……」

「気が狂ったと思われるかもしれないな。スピーチ単独なら。大丈夫、抜かりはない」

「どうやってあの映像を手に入れたんです? いや、それ以前に……」


 現場で撮影を行っていたのは大手通信社の報道ヘリだ。

 どうやって説得した?


「私とキミとではやり方が違うということさ。

 キミたちは真実を秘匿し、闇の中ですべてを終わらせようとした。

 だが私は違う。世界を光で満たさなければならないと思うんだ」


 そう言って高田は懐から小さな装置を取り出した。


「AMF、マギウス・フィールドの無力化装置だ。やり方としてはジャミングと同じだな。相反する波形の魔力波を放出し相殺する。ラステイターは白日の下に晒される。簡単な工事で取り付けられるからな。すでに市内三百か所に設置する予定が立っている」

「どうやってこんなものを……いや、これでは人々が」

「知るだろう、恐るべき存在を。

 慄くだろう、自らを捕食するものを。

 それが狙いさ。世界は混沌と混乱の坩堝と化す。そこにビジネスチャンスがあるんだ。『我々は長い間警告してきたが聞く耳を持たなかった』というアリバイ作りはキミたちがしてくれた」


 高田はあたかも楽しそうなことを話すかのように言った。

 須田さえ言葉を失った。


「すでに関係省庁にウチの部下を派遣してあるんだ。

 対ラステイター用装備の販売許可。駆除に際して横やりが入らないようにしなきゃならないし……そうそう、いくらかのパーツはまだ国の認可を受けていないからその辺に対する法整備も……」

「待ってください、ちょっと待ってくださいよ高田支社長」


 高田の演説には熱が籠もって行く。

 須田はそれを無理矢理押し止める。


「ラステイターの存在を公にし、我々が開発したものを民間に放出すると?」

「キミたちにもメリットはあるはずだ。広く認知が成されればラステイターも発見しやすくなるし、犠牲者も減るだろう。キミたちの望んだとおりの結果だと思うが?」


 ニコリと高田は笑い、サイドボードに置いてあったブランデーに手をかけた。


「キミたちはやり方がマズかった。必要なのは、より多くの人に、より信頼感のあるメディアから発表させることだよ。何だかんだでテレビってのは影響力が高くて、それ以外のものは例え映像や資料があったって胡散臭く見られるものだからね。つまるところ、私のお金持ちとしての力が世界を救うための鍵になるってワケだ」

「知恵を持たないラステイターばかりなら、それでもいいかもしれない。だが……」


 須田は知恵持つラステイター、魔王(ロード)級ラステイターについて知るところをすべて高田に伝えた。彼は興味深そうにそれを聞きながら酒を喉に流し込む。


「奴らは人間に擬態する能力さえも持っている。奴らはこの状況を利用しようとするだろう。もしそんなことが市民に知られれば、疑心暗鬼が生まれるだろう。隣に住む男が化け物かもしれないと、魔女狩りの世界が訪れるかもしれないんですよ!?」

「そりゃスゴイ! 素晴らしい! 何で教えてくれないんだ、もっと早く!」


 しばしの間、須田は高田の言っていることが理解出来なかった。


「もっと早く知ってりゃ、スピーチにもそれを取り込めたんだがな」

「あんた……! この状況さえも金儲けに利用しようってのか!?

 我々から研究成果を簒奪しただけでは飽き足らず、世界を混乱に陥れてまで!」

「勘違いするなよ、須田くん。世界を混乱に陥れているのはラステイターであって、私じゃない。私はこの混乱に心を痛め、市民に生きる術を与えてあげたいと思っているんだ。人々を闇の中で葬る怪物に対して、一矢報いたいと思っているんだ」


 高田はわざとらしく表情を作って言った。

 そして、鋭い視線を須田に向ける。


「キミの方がよっぽど残酷なんじゃないか?

 世界を安定させるためなら、少数を犠牲にしても仕方がないと?

 是非とも、犠牲になった人々の遺族に聞かせて差し上げたい」

「そうじゃない、この状況よりはマシだと言うだけの話だ……!」

「マシかどうか判断するのはキミじゃない、キミの周りの人々だよ。

 二十年間、キミたちが行って来たことに関してもマスコミにリークしているからね。今頃権力叩きでネットは大盛り上がりしているだろう。人間、自分が知らないことには我慢がならないのさ。キミの言っていることは正論だよ、須田くん。だが誰も納得しないだろう」


 そうこう言っている間に、車は地下駐車場に到着した。

 高田は襟を正した。


「私だって世界を救いたいんだよ、須田くん。ただ無償で救いたくない、それだけだ」


 高田はすぐにリムジンから出た。須田は窓ガラスを叩き、出て行った。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 美里たちの安全を確保した後、正清は第三社史編纂室に急いだ。

 須田に呼び出されたからだ。

 移動中もいろいろなことを考えたが、どれにも答えは出なかった。


「よく来てくれた。藤川さんたちは、無事かね?」


 玄斎は正清を気遣い声をかけるが、須田はモニターを睨み付けているだけだ。


「ラステイターの存在が公表されて……でも、みんな信じるんでしょうか?」

「映像もそうだが、実際に犠牲者が出て来ているからな。我々が行ってきた研究も様々な機関やマスコミに公表された。ラステイター肯定に傾くのは間違いないだろう」


 そんなことを話している間に、全員が集合した。


「……ポジティブに考えよう。魔力の存在が広く世間に知られたおかげで、情報は集めやすくなった。マギウス・レーダーも一般に売り出されたおかげで、魔力を探知しやすくなった。隠れている魔王級ラステイターも探しやすくなっただろう」


 須田は努めて『よかった探し』をしているように思える。

 内心では腸煮えくり返っているのだろう、こめかみには青筋が立っているのが見えた。


「ただ、世間の混乱は大きなものになるだろう。無責任なデマが広がる危険性もある」

「大盛り上がりですよ、ネット上は。大喜利みたいな状態になってる」


 『魔法』『化け物』『バンクスター』といったワードがツイッタートレンドになるくらいには盛り上がっている。状況が沈静化するまでもう少し時間がかかるだろう。


「高田支社長はシャルディアをどうするつもりなんでしょうか?」

「少なくとも量産する気は無いようだ。会見でも量産はしないと言っている」

「希少性を確保したいのだろう。自分たちにしか事態を解決できないようにしたいんだ」


 そうすれば、後々優位に立てるからだろうか?

 高田の悪意が見え隠れする。


「こちらの立ち位置を確保してくれた、ってか。ふざけた男だよ、本当にね」

「まーまー、そんなことどうでもいいじゃないですか。まずは目の前の敵ですよ」

「そうだよ。あのドラクルとかいう奴を早く見つけないと!」


 数多と綾乃は尚もやる気だ。こういう時、裏表のない二人は簡単でいいと思う。


「マギウス・レーダーの情報をこちらでも受信出来るようにしておこう。美耶、頼んだぞ。キミたちがやるべきことはこれまでと同じ、ラステイターを探し出し倒すことだ。奴の思惑に乗るようで癪だが、ラステイターを倒すことだけが人々を助ける唯一の方法だ」


 全員、そこには異存はない。

 やることは変わらない。戦うものとして。


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