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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
死者の舞踏
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ロード・ドラクル

 正清は息を飲み、怪物を見た。

 怪物はクツクツと笑い、彼の言葉を否定した。


「それではあまりに芸がないな。私を呼ぶなら……そう、ドラクルと呼びたまえ」


 目の前の怪物が放つ危険な雰囲気。

 正清は本能的に、ドラクルが魔王(ロード)級の力を持つ危険な存在だと見抜いていた。

 ロード・ドラクル。


 吸血鬼の怪人、ドラクルは言うや否や踏み込んだ。

 その手にはいつの間にか、鋭く長い串のようなものが握られていた。全長二メートルほどで、柄も返しも存在しない。それだけに、突かれればどうなるかを見るものに否応なく想像させた。


 正清は横に跳び、鋭い突きを回避する。脇腹が薄く裂かれ、鮮血が零れ落ちる。すぐにバッグからドライバーを取り出す。だが、変身する前にディアバスターを形成した。次なる一撃を繰り出そうとするドラクル目掛けて、正清は銃弾を叩き込んだ。甲冑にいくつもの弾丸が叩き込まれ、ドラクルはしばしの間硬直した。


「変身!」


 隙を見つけ、正清は変身。

 あるいは、それもドラクルの想定通りだったのかもしれないが。

 手元で串をくるりと回転させ、穂先についた血を舐めた。おぞましき光景。


 すぐさまフレイソードとブライガードを形成、ドラクルと対峙した。


「こいつは強い……須田さん、バーストの使用許可を出してください」

『分かった、ただしこちらで解除コードを打ち込まなきゃならんようになっている。

 こちらが解除を行うまでの三十秒間、キミの方で耐えてくれ』

「何をブツブツ言っているのかね? ならこちらから行かせてもらおう!」


 ドラクルは神速の踏み込みで一気に正清との距離を詰めると、その勢いを殺さぬまま串を突き込んだ。ブライガードを掲げ受け止めようとするが、流される。それに逆らわず正清はバックステップを打つ。ドラクルもそれを追い掛けて来た。


 突きと戻しのスピードが桁違いに速い。

 ギリギリのところでそれを受け止め、受け流す。

 懐に飛び込まなければ、このまま削り殺されてしまうだろう。


 正清はそう考え、半歩身を引いた。ドラクルの突きを盾で受け流し、側面に回る。

 回り込みながらフレイソードを振るい、ドラクルに強襲を仕掛ける。斬撃はドラクルの手甲に受け止められるが、しかし距離を詰めることには成功した。


「至近距離での打ち合いなら勝てるとでも思っているのかね!?」


 ドラクルはそう言うが、しかし攻防の主体は逆転していた。ドラクルの長物は至近距離では上手く使えず、逆に正清は剣と盾を巧みに操り至近距離からドラクルを押し込もうとする。盾の押し込みと剣撃を捌くのに、ドラクルは精一杯になっているようだった。


「何が目的なんだ、お前! どうしてあんなことをした!」


 流された剣を素早く返し、ドラクルの首を狙って斬撃を繰り出す。

 ドラクルは串を立てそれを受け止めた。

 盾を使ってドラクルを押し込もうとするがそれは左手で止められた。


「一番獲物が多そうな場所で、獲物と同じような格好をしているというだけさ」

「なに!」


「キミたちが野を駆けているのならば、そうしたさ。だが、そうではない。

 狩りを行うコツはね、いかに獲物に気付かれないように振る舞うか、というところにある!」


 正清は盾を引き、もう一撃を加えようとした。だが、それは叶わなかった。

 何らかの力によって盾はその場に縫い止められてしまったのだ。

 その隙にドラクルは後退する。


 盾を縫い止めていたのは、血だった。ドラクルの掌から鮮血が迸り、それが樹氷のように固まり、地面と盾とを繋いでいた。盾に気を取られた正清は、ドラクルの放った刺突を避けることも受け止めることも出来なかった。凄まじい衝撃に吹き飛ばされる。


「血を……吸い取った血を、そんな風に使うことが出来るのか……!?」

「水芸くらいしか出来なかったのだがね、昔は。これも鍛錬の成果だよ!」


 ドラクルが掌を正清に向ける。

 その指先から赤い血の玉がせり出して来た。


『待たせたな、正清! バーストを使いたまえ!』


 言われるまでもなかった。

 正清が『BURST』アイコンをドラッグしたのと、血の玉が放たれたのは殆ど同時だった。

 ドラクルの放つ魔力と、正清の身に内在する魔力とを使い、それは発動した。

 身を焼く痛みに耐え、正清は勝鬨を上げた。


 放出された魔力波が血の弾丸を受け止め、弾いた。

 ドラクルは驚嘆の声をあげる。


「ほう、それはアリエスを殺した力か! どれほどのものか、見せてくれないかね!?」

「やはり、ロード・アリエスはお前の仲間だったのか!」


 手元で剣をくるりと回転させ、正清はドラクルへと走った。ドラクルは続けて血の弾丸を放つが、正清はそれをすべて切り裂いた。通常形態であればただでは済まぬだろうが、三倍近い身体能力を誇るバーストフォームであれば造作もない!


「これは、洒落にならない力を持っているようだね――!」


 ドラクルの声には驚きと恐怖が滲んでいた。

 ドラクルは串を振るい、正清を近づけまいとするがあっさりと弾かれた。開いたドラクルの胴に、正清は一瞬で二撃を繰り出した。吹き飛ばされるのは、今度はドラクルの番だった!


「なるほどな。圧倒的な力、アリエスを殺したのは単なる武の力だったか……!」


 ドラクルの右手から血が迸る。損傷によるものではない、彼自身が能力によって自らの身から絞り出した血だ。血は串を覆い、一本の禍々しい槍を形作った。


「敬意を表そうではないか! キミは私が全力で戦うに値する敵だ!」


 ドラクルは槍を振るった。槍の穂先から飛沫が飛び、矢じりめいた形になり正清に向かって飛んで来た。すべてを打ち落とすことは不可能、正清は回避を選択した。銀色の体が霞み、ドラクルの知覚能力で捉えられぬほどのスピードで動いた。


「そんなことも出来るのか……! 思っていたよりも、余程厄介な相手だな!」

「この程度でやられるものか! とどめだ、ドラクル!」

『待ってください、高崎さん! まだ敵の攻撃は終わっていませんよ!』


 警告音が鳴り響いた。だが遅い、正清の背中に矢が突き刺さった。

 先ほど避けた血の矢が戻ってきて、再び正清を襲ったのだ。

 見ると、避けた矢のすべてが滞空している。


『一度放った攻撃は、相手を捉えるまで決してなくならないということか』

「そこで子供たちの相手をしていたまえ、私はここで失礼させていただくよ」


 そう言ってドラクルは屋上から身を躍らせようとした。

 させるか、正清はディアフォンを操作、アンカーワイヤーを生成した。ぐるりとワイヤーを旋回させ空を飛ぶ矢を牽制、アンカーの先端をドラクルに向けて投げた。逃げに徹していたドラクルはそれを避けられない。ドラクルの体を支点にしてワイヤーは回転、彼の体に巻き付いた。


「なにっ……! このような小細工、解けぬとでも思っているのか!?」

「解けるかもしれないな、あんたが生きている間かは知らないけど……!」


 フレイソードのトリガーを引き、エクスブレイクを発動させる。

 増強されたエネルギーがフレイソードに注ぎ込まれ、刀身を破砕させた。

 純粋な魔力によって形成された刃が大気を焼いた。

 正清は圧倒的熱量を伴ったそれを、ドラクルに向かって投げつけた。


 直撃を喰らえば、ドラクルとてただでは済まなかっただろう。

 横合いから乱入してきた黒い影が、彼の代わりにその一撃を身に受けなかったならば。


 飛び込んで来た黒い影、クロウラステイターを、剣はあっさりと貫いた。

 だが、かなりのエネルギーが減衰してしまったことは確かだ。フレイソードはドラクルの甲冑上で炸裂、凄まじいダメージを与えたものの、爆発四散には至らせられなかった。


 更に悪いことに、クロウが爆発四散した。

 その時立ち上った煙で、彼の姿は隠された。


「くうっ……! シャルディアだったか、この借りは必ず返させてもらうぞ……!」


 ドラクルは背負っていたマントを変形させ、翼を成した。

 そして、何処かへと飛び去っていく。


 正清はそれを追い掛けようとマシンアーマーを展開させようとした。

 だが、影がかかった。正清は反射的に腕を振るい、襲撃を防いだ。


 襲撃を仕掛けて来たラステイターは、迎撃行動によって早くも傷を負っていた。

 巨大な体躯、硬い皮膚、頭から伸びる固い角。

 手には角を模したようなスパイクが付けられている。

 ライノセラスラステイター、とでも呼ぶべきだろうか?


 それだけではない、建物の影から新たな怪物が飛び出してくる!

 筋骨隆々たる雄牛、ミノタウロスラステイター!

 湖面の覇者、クロコダイルラステイター!


「手下が隠れていたのか……! 須田さん、あいつを追えますか!?」

『いや、マーカーは潰されたようだ。さすがに知恵が回る』


 一瞬のミス、一瞬の不覚。

 想定外は言い訳にはならない。


 ライノセラスが太い角を向け、突進してくる。加速の乗った一撃、厚さ一メートル鉄板だろうが容赦なく打ち抜くだろう。だが、正清は冷静に対応した。突進に合わせチョップを繰り出し、角を切断。呻くライノセラスの顎に強烈な前蹴りを叩き込んだ。ライノセラスの首が千切れ、宙を舞った。


 その背後から、ミノタウロスが突っ込んで来た。太い腕を振り上げ、拳を繰り出してくる。正清は身を屈めてそれを回避、腕を掴んだ。そして、力任せに投げた。ミノタウロスの膂力をも上回るパワーで、頭からアスファルトに叩きつけた!


 魔人(デーモン)級の力など、バーストフォームの前には無きに等しい!

 正清は残るただ一人、魔獣(ビースト)級ラステイター、クロコダイルを見た。

 眼光に敵が怯む。


 ツカツカと、正清はそちらに向かって歩みを勧めた。

 クロコダイルは狂乱したように腕を広げ咆哮を上げ、殴りかかった。振り下ろされたプレス機めいた圧力を持つ腕は、しかしあっさりと弾き飛ばされた。カウンターパンチがクロコダイルの腹に突き刺さる。よろよろと呻くクロコダイルの横っ面を、正清は叩いた。


 クロコダイルが体勢を立て直すよりも早く、正清は顎に強烈なアッパーカットを繰り出した。

 クロコダイルがのけ反り吹き飛び、頭からアスファルトに落下する。

 後方で二体のラステイターが爆発四散するが、クロコダイルはそうはならなかった。


 正清はエクスブレイクを発動させた。右腕にエネルギーが収束する。倒れ伏したクロコダイル目掛けて正清は跳び上がり、ダメ押しの瓦割りパンチを繰り出した! クロコダイルの肉体を拳は易々と破壊し、爆発四散せしめた!


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 ロード・ドラクルは薄汚れた裏路地に落下し、呻いた。

 体力を回復させなければならない。

 騒ぎそうなホームレスの血を吸って黙らせ、少しばかりの安息を得た。


「ふ、フフフ……アリエスを殺しただけはあるな。もっと、力が必要だ」


 それは、懐かしい感覚だった。

 たった一匹の動物であった頃、彼は常にそう思っていた。

 ラステイターとなり、最強の生物となった時、その感覚は消え失せた。ラステイター同士戦うことはそうない、自分の狩場が重なったとしても、エサは無数にあるのだから。


「あいつらが狩り手だよ。コワいだろ……クックック」


 ピクリ、とドラクルは眉を動かした。

 その時には、彼は人間の姿に戻っていた。


「おっかない狩人。お前の擬態も見破ったみたいだな。コワイ、コワイ……」

「何のつもりだ、ネクロマンサー。いや、お前がいるということは……」


 路地の入口から、襤褸(ボロ)布を纏った男が現れた。


「私があの子供たちに追われたのは、お前のせいだということか?」

「やだなぁ、コワイ。そんな目を向けないでくれよ。まあ、悪戯はしたけど……」

「貴様の如き新参者、私が始末するのに一瞬でも躊躇すると思っているのか?」


 ドラクルは殺気をぶつけるが、しかしネクロマンサーと呼ばれた男は肩をすくめた。


「冷静になろう、お互い。ぶつかり合うのは得策じゃない、ワカル?

 敵がいるのに俺たち同族同士で殺し合っても意味ないじゃん?

 そういうもんだろ?」

「私はお前を同族だと認めたつもりはない」

「細かいなぁ! つまりはさ、あんたと協力したいんだよ、俺は。

 あいつらを倒すために、一緒になって戦おうって言ってるの!」


 カタカタと笑うネクロマンサー。

 ドラクルはそれを値踏みした。


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