たった一人での戦い
気分は重かった。だが、登校しないわけにはいかない。
昨日はこんなことになるとは少しも考えていなかった。
この世の春が来たと喜び勇むか。
それともこの世の終わりだと落ち込むか。
そのどちらかだと思っていた。全身が鉛のように重く感じられた。
「ショウ、どうしたのあんた? 元気ないわね、風邪でも引いたのかしら?」
「何でもないよ、母さん。ちょっと寝不足気味になってるだけ。何でもないから、さ」
母親が彼を気遣うが、しかし何を話すわけにもいかなかった。ほんの数ブロック離れたところにあるアパートに住んでいた老人、桐沢雄一の死に自分が関わっているなどと、口が裂けても言えなかった。モヤモヤした思いを抱えたまま、生きていくしかない。この世に味方など誰もいないと、そんな欝々とした思いさえも湧き上がってきてしまった。
最低限の荷物をかばんに詰め、皺ひとつない制服に袖を通す。優嶺高等学校の制服だ。優嶺は公立学校の経営部分だけを民間にアウトソーシングした学校であり、公立並みの授業料で私立並みの勉強が出来ると評判になっている。受かるとは思っていなかったが、必死に勉強して何とか入学することが出来た。期待に胸が膨らんでいたはずだった。
扉を潜ると、すぐに美里が見えた。正清は足早にそちらに近付いた。
「待っててくれたんだ。中、入ってくれてもよかったと思うんだけど」
美里一家とは家族単位で懇意にしている。
正清にとって美里は家族であり、妹であり、一番大切な人だった。
美里にとってもそれは同じだと彼は信じていた。
「そうしようとも思ったんだけど、気持ちに整理をつけたくて。行こう、ショウくん」
そう言って、二人は歩き出した。
しばし、無言だったが息苦しさは感じなかった。
「桐沢さんが亡くなったなんて信じられない。それも、私たちと同じ場所で」
「美里、あの人のことを知ってたのか? そう言えば、近所だったか」
「うん。たまに通学の時に会って、挨拶するくらいだったけど……信じられない」
美里は何度も『信じられない』と言った。
正清にとっても『信じられない』。
劇場でシャルディアを自分に譲ってくれた男はほんの数ブロック先に住んでいて、美里の知り合いだったとは。身近なところにあった奇縁。こんな形で出会わなければよかった。
「ショウくん、これからどうするの? あのベルト、貰ったんでしょう?」
「うん。まさか高校生になってまでああいうものを持つとは思わなったけど」
いま、正清のバッグの中には《ディアドライバー》とスマートフォン型のデバイスが仕舞われている。あの変身ヒーローのような姿になって戦うことになるとは。
「ショウくん、変身ヒーロー好きだったもんね。偶然だね、こういうの」
「高校生になってまで憧れちゃいないさ。あんまり嬉しいことでもないって」
美里は努めて明るく振る舞ってくれた。正清もそれに乗った。
彼女の気遣いが、ただただ嬉しかった。
二人はモノレールに乗り千葉へ。
駅前に建てられた学校へと急いだ。
通勤、通学でごった返す人波をかき分けながら、二人は優嶺高校へと向かって行った。
「おはよう、ショウ! それからミーちゃん! お久しぶりー」
途中で声をかけてきたのは、タンクトップ姿の少女だった。
同じような格好の生徒が多くいる、陸上部の朝練ではよく見られる光景だった。
「おはよう、九児河さん。今日は調子が良さそうだね」
「あはっ、分かる? 最近どいつもこいつもぶっちぎりでさ。日頃の行いがいいのかな」
何人かの生徒が彼女を抜いて行くが、すぐに挽回出来るだろう。正清が素人目に見ても分かるぐらい数多は余裕を残していた。対して他の生徒は息を切らしている。
九児河数多。
正清、美里と同じクラスに在籍する女子生徒だ。日焼けした健康的な小麦色の肌にキラリと光る白い歯。男女問わず人気が高いが、美里と同じく浮いた噂はほとんどない。明るく朗らかな少女だが恋愛関係には厳しく、にべもなく断っているのだという。将来を嘱望されるほどの長距離選手であり、その道に進みたいという希望もある。
「んじゃ、また後で。教室で会おうねー、二人とも!」
そう言って彼女は再び走り出した。
先行していた選手を、それも男子も含めてごぼう抜きにしている。
あまりの早さに並走する生徒から悲鳴が聞こえて来たくらいだ。
「相変わらず元気な人だね、九児河さん。悩んでるのがバカらしくなってくる」
「うん、そうだよね。悩んでたって変わらないんだし……前、向かないとね」
彼女の明るさに助けられた、そう二人は納得した。
何度も陸上部に追い越されながら、二人は校門へと向かった。
校庭からは運動部の生徒が放つ威勢のいい声が響いた。
「ショウくんも何か部活に入ればよかったのに。どうして入らなかったの?」
「あんまり運動って得意じゃないんだ。見てるのは好きだけど、やるのはちょっとね」
正清は苦笑した。運動全般とアクション映画を見るのが好きだが、実際やってみるとからっきしなのだ。体育の成績は並みから上に行ったことがない。逆上がりをするのにも苦労していたな、と正清は懐かしい記憶を呼び起こした。
まだ時間があるからか、教室の中もまばらな人影があるだけだった。
正清はバッグをロッカーに突っ込むと、ようやく一息吐いた。
朝から色々考え事をし過ぎた。
そんなことを思っていると、後ろから叩かれた。
思いがけない力に思わずつんのめる。
「シケた面してるな、ショウ。どうしたんだよ、らしくないんじゃないのか?」
「別に、悟志には関係ないだろ。僕はお前よりも繊細なんだよ」
「この野郎、言ってくれたな。誰が考えなしのゴリラだってー?」
そこまでは言っていない、と思いながらじゃれついて来るゴリラをあしらった。
「それより、何でこんなところに? 僕の記憶が正しければ三年だったはずだけど」
「一年坊主の勧誘だよ。月末が期限だからな、やれることは全部やっておかないと」
「言っておくけど、僕は入らないよ。僕を知っているから誘いはしないだろうけど」
「安心しとけ、他の運動部連中にもこいつだけはやめておけって言っておいた」
プッ、と二人は一斉に吹き出した。他の生徒からは奇異に映ったことだろう。
相原悟志、男子サッカー部の一員だ。
百八十を超える身長と筋肉質な外見から下級生からは畏敬の念を込めて見られているが、子供の頃から付き合いのある正清はこの男が面倒見がよく、快活な男であることを知っている。嫉妬だとか、そう言うネガティブな感情をどこかに置いて来たような男が正清は好きだった。
「今年は人集まってないんですか? わざわざ部長直々に勧誘に来るなんて」
「サッカー人気もちと陰って来てるからな。つっても、全体的な傾向だけど」
キツイ練習と上下関係を嫌って部活に入らない人間は多い。
正清もその一人なので、あまり大きなことは言えない。
その中で悟志はいま出来る最善を尽くしているのだ。
「おっと、そろそろ授業が始まっちまうな。このチラシ、配っといてくれるか?」
「分かった、今日の日直に頼んでみるよ。それじゃあ、またね悟志」
少女漫画ならば星が散るような見事なウィンクをして、悟志は去って行った。
室内温度が二度か三度一気に下がった気がした。
悪い男ではないのだが、暑苦しいのだ。
悟志からの頼まれごとを解決するために、今日の日直のところに行こうとした。
ところで予冷が鳴り、担任の教師が入って来た。正清は一旦諦めた。チャンスはあるし、最悪ロッカーの上にでも置いて自由に取れるようにすればいい。そう考えて席に戻った。
四限の授業が終わり、さてお昼にしようと考えていたところで着信があった。
《ディアドライバー》に付属していたスマートフォンだ。
携帯としての機能もちゃんと持っているんだな、と驚きながらも正清はそれを取った。ショートメッセージが来ていた、差出人は『須田陽太郎』。そこには『話がしたい。出来るだけ人気のないところに行って』と書いてあった。彼はため息を吐きながら人気のないところを捜し歩く羽目になった。
ようやく辿り着いたのは部活棟と本館棟の間にある渡り廊下、そこに併設された広場だ。設備修繕費が足りないため雑草が生い茂っており、放課後でもなければほとんど人は近寄らない。設置されたベンチに腰掛け、正清は通話ボタンを押した。
『やっ、お疲れさん。休み時間だと思うから手短に話を終わらせるよ』
聞こえて来たのは須田の声だった。
玄斎の方がよかったと思いながら、口には出さず正清は彼の話に耳を傾けた。
『《ディアドライバー》の使用には細心の注意を払ってくれ。
あれは我が社の秘密だからね。
人に見せるのはなし、人命救助ならケースバイケースって感じ。
どっちにしろこっちで監視しているってのは忘れないでくれ。
ドライバーは持って来ているかい?』
「ええ、いまはバッグに仕舞って教室のロッカーに置いてあります」
『あんまりよくないなぁ。常に身に付けている方がいいんだけど』
「勘弁して下さい。そんなことやったら、他の連中に怪しまれるに決まってます」
変身ベルトを身に着けていて怪しまれないのは日曜朝八時半までだ。ただでさえ好奇心旺盛な十代の少年少女、おかしなものを持ち歩いていれば速攻で噂になって、好ましからぬ事態となるだろう。隠し持っているものはすべて暴き立てたくなるお年頃なのだ。
『ふぅん、まあいいや。その辺は使用者であるキミに任せるよ。最悪自爆装置がある』
「学校内で作動させないで下さいよ。それこそ大参事になりますから」
『大参事を避けるためには致し方ないさ。あと、キミが使っているスマートフォンにはラステイターが放つ電磁波を探知する機能がある。音は切ってあるから気を付けてくれ』
「ラステイターが出たらバイブで反応する、と。分かりました。他には何か?」
『とりあえずはそんなトコ。じゃ、僕はこれから昼に入るから。またね』
そう言って通話はいきなり切れた。
勝手な男だな、と思ったが仕方はあるまい。
自分だってまだ昼を摂っていないのだ。
すきっ腹を抱えて正清は歩き始めた。
購買に残ったコッペパンを詰め込み、正清は午後の授業を乗り切った。
いつもなら弁当が用意されるのだが、正清がすっぽかしてしまったのだ。
帰ったら母さんに怒られる、そんなことを覚悟しながら、正清は帰宅の準備を進めた。バンクスターへ書類も提出しなければならない。支社ビルは徒歩で三十分程度の距離にある。
帰ろうとする正清のところに、美里が駆け寄って来た。少し息を切らしている。
「ねえ、ショウくん。一緒に帰ろう。わたしも、ちょっと一人じゃ不安で」
昨日あんなことがあったのならば当たり前だろう。正清はすぐに承諾した。
二人は駅まで続く道路を会話もなく歩いた。
北口は比較的人通りが少なく、閑散としている。
「ねえ、ショウくん。ショウくんは本当に、アルバイトをするの?」
「バンクスターでの話、聞いてたんだね。やるよ、やらないといけないと思うから」
この間は桐沢が助けてくれたから、二人とも助かった。
だが、二人を助けてくれるヒーローはもうどこにも存在しない。
ならば、自分で美里を守るしかない。
そのための力が近くにあるのならば、それを迷わず取る。
正清の決意は一夜のうちに固まっていた。
「あんまり、危ないことをして欲しくないんだ。
いなくなってほしくないの。
ほら、近所に住んでいた桐沢のお爺ちゃん、亡くなっちゃったじゃない?」
それを聞いて、正清の心が少し痛んだ。
シャルディアが桐沢雄一であったという事実を彼女は知らない。
知らないからこそ、彼女は無邪気にその死を悼んでいられる。
「あの場で犠牲になって人たちのためにも、僕は……戦うよ。それが、出来るなら」
「ショウくんには、危ない目に遭ってほしくないんだけどな」
気まずい沈黙が二人を包み込んだ。
二人の間に横たわる断崖は、あまりにも深い。
と、そこで正清の持つスマートフォン、ディアフォンが強く震えた。
緊急避難速報のそれを思わせる振動は、ラステイター出現を告げるもの。
同時に着信があった。
『キミの方でも探知したとは思うけどラステイターが出現した。至急対応に当たれ』
「分かりました。なるべくこちらの姿を見られないように、でしたね?」
『もし見せちゃったときはこっちに知らせてくれ。対応はこちらで考えるから』
通話を切り、画面を見た。
校舎周辺でラステイターが出現したようだ。
この時間なら運動部が外回りをしている時間だ。
学校の生徒が、友達が巻き込まれているかも知れない。
「美里、僕は行ってくる。キミは帰って、安全なところまで行くんだ!」
「そんな、ショウくん!?」
正清は美里の言葉を無視して駆け出した。
現場へと向かう足取りが、もどかしいほど遅く感じた。
もっと早く、もっと強く。もう二度と悲劇を起こしたくなかった。
学校と住宅街とを隔てる道路。
普段なら人通りがあるはずだが、いまはまったくいない。緑色のネットで隔てられた学校からもすぐ見えるはずなのに、誰もそれを感知しない。不自然なほど人気のない場所で、一人の少年が襲われていた。
「うっ、あっ……な、何なんだこいつ……ば、化け物かよ!」
狼狽え、少年はじりじりと交代した。
彼と相対する怪物、ラステイターはそれを追う。
少年と怪物がにらみ合いを続ける中、正清はその場に辿り着いた。
「……悟志!? そんな、あいつが……!」
怪物に襲われていたのは正清の友人、相原悟志だった。
相対する怪物は、正しく異形としか言いようのない存在だった。人がトカゲの着ぐるみを着ているような、そんな生物だった。二本の太くたくましい足で歩行し、筋肉の浮き上がった太い腕をだらりと下げている。だが、殺人的に鋭利な爪と光沢を放つ鱗がそのものの剣呑さを物語っていた。
正清は鞄から《ディアドライバー》を取り出し、『装着』のアイコンをドラッグ。
ディアフォンがアイドリング状態になったのを確認し、スロットにそれを挿した。
「変身!」
彼の全身を、投影された錬金術式が包み込む。
大気成分の一つである窒素を錬成し、硬質装甲が形成される。
HMDにいくつものステータスバーが表示され、照準円がトカゲの怪物、リザードラステイターをロックした。正清は心を奮い立たせ、走り出した。
リザードは鋭い爪を悟志に振り下ろそうとする。正清はその間に割って立ち、鋭い爪をガントレットで受け止めた。鉄鋼プレス機めいたすさまじい圧力がかかるものの、シャルディアの力ならば十分止められる。
「いまだ、逃げて! 早くッ!」
「ッ……!? あ、ああ! 分かった、た、助かったのか……!?」
事態は飲み込めていないが、とにかく怪物と戦う人間が来たということは理解した。悟志は踵を返し、走り出した。すぐそこにあった曲がり角をを曲がり、壁を背に呼吸を整える。逃げなければ、そう思い再び立ち上がろうとした彼の視界の端に、何かが映った。
それは、カバンだった。
そして、それを悟志は何度も見たことがあった。
「あれは、まさか……ショウのカバンか? じゃあ、もしかしてあいつは……」
一方で、正清はリザードを相手に苦戦していた。鋭い爪の破壊力、鱗の防御力。劇場で相手にしたスパイダーラステイターほどのスピードと手数はないが、強敵だ。
リザードの攻撃をかろうじで受け止め、反撃に転じようとしても、敵は巧みに攻撃を鱗で受けて来る。あれでは打撃の威力が半減され、ダメージを与えることが出来ない!
「強い……! あの蜘蛛といい、このトカゲといい! どうすればいいんですか!」
『そう言われても僕には分からないよ。戦いは専門外なんだ』
正清は悲鳴のような声を上げながら須田に助けを求めるが、にべもなく振り払われる。この状況を切り抜けるには、自分が何とかするしかない。当たり前の事実を再認識した。
リザードが爪を振り上げ、大振りな攻撃を繰り出そうとする。
いまだ、と正清は判断し踏み込んだ。
だが、それはフェイントだ。
画面上にガイダンスメッセージが躍る。様々なセンサーを通して集積された情報を元に、装着者に様々なアドバイスを行うシステムがシャルディアには搭載されている。
ただし、それを装着者が使いこなせるかとは話が別だ。
胸部装甲に炸裂した蹴りが彼をふっ飛ばし、地面に転がした。
『爪の切断力は言うまでもないが、脚力もかなりのもののようだね。
シャルディアを吹っ飛ばすとは。
注意して戦いたまえ、正清。ここでやられたらつまらんぞ』
「ッ……! 分かってますよ、僕だってこんなところでやられる気はない!」
正清はディアフォンを引き抜き、ホルスターにセットされた充電器型デバイス『インパクター』を取り出した。ディアフォンをセットし、拳銃型デバイス『ディアバスター』を形成。リザードに向かって発砲した。光弾がリザードに命中。
しかし、リザードはまるでそれを意に介していない。正清は驚き何度も発砲するが、しかしリザードは銃弾を無視して突撃してくる。リザードの堅牢な鱗、筋肉。それらがディアバスターの威力を弾き返すほどの力を持っているのだ!
リザードは腕を振るいディアバスターを弾き飛ばした。正清の意識は自然、吹き飛ばされたデバイスの方に向いてしまう。リザードのはその隙を見逃さず逆の爪を突き込む。装甲が抉り取られ、装甲強度を表すバーが激しく後退した。凄まじい威力にたたらを踏んだ正清に対して、リザードはとどめの連撃を繰り出す!
『何をしている、正清! 反撃しろ、そのままでは殺されてしまうぞッ!』
「そ、そんなこと言われたって……! 隙がまるで無い!」
正清は情けない悲鳴を上げ、リザードに圧され続ける!
爪の連撃が何度も装甲に炸裂、内部の正清を揺らす!
一際強く振り上げられた腕が、逆袈裟気味に正清を切り裂く!
後方に大きく吹っ飛ばされる正清の体が、光に包まれた。打たれた部分の装甲が光の粒子に還元され、消えて行く。道路をごろごろ転がり、うつ伏せになった時にはシャルディアの装甲は完全に分解され、生身の彼が晒されていた。
シャルディアに装備された衝撃吸収機構だ。装甲が限界に達した時、それ自体を分解することによってダメージを発散させるのだ。時に命を救うことになるそれは、しかし今は致命的な隙を生み出す。リザードは未だに健在であり、正清を殺すために爪を振り上げて来ているのだから。
軽減された、しかし重い衝撃が正清の全身を貫いていた。
手足の一本を動かすのも苦しいほど、大きなダメージが蓄積されていた。
(まずい、このままじゃ、やられる。い、嫌だ……)
正清の全身を恐怖が包み込んだ。
あの老人のように死ぬのは、いやだ。
正清は足掻いた。だが、現実は何も変わらない。リザードが歩み寄る。
だが、正清に魔の手が振り下ろされる寸前で、リザードは止まった。
どこかをきょろきょろと見渡し、そしてバックジャンプを打った。
正清が理解出来ずにいると、彼の前に少女が降り立った。
パステルカラーの衣装に身を包んだ少女としか言いようのないものが。
(あれは、いったい……なん、なんだ……)
意識が薄れていく。
戦いの音が聞こえた気がしたが、それすらも聞こえなくなってくる。
正清が現状を理解出来ないでいる間に、彼の意識は闇へと落ちて行った。