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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
赤い力と黒の従者
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彼女たちの決意

 正清と別れると同時に、アヤノはマグスに止めを刺そうとしたリザードラステイターに跳び蹴りを叩き込み、体育館内に押し返した。体育館内は予想していた通り蜘蛛の巣が張り巡らされている、この中で戦わざるを得なかったマグスたちにアヤノは同情した。


「戦うんなら戦う、逃げるんなら逃げる。さっさと決めな。待っちゃくれないからな」


 アヤノは臆することなく体育館内に踏み込んで行く。

 ここから逃げようとすれば、彼らは迷うことなく『食事』を再開するだろうから。

 殺意を込めた視線をラステイターに向ける。

 スパイダー以外のラステイターはビクリと震えたが、スパイダーは逆に笑った。


 スパイダーが気色悪い叫び声を上げると、竦んでいたラットたちはアヤノに向かって来た。

 止まればやられる、アヤノはそう判断し跳んだ。

 ラットの頭を蹴り跳躍、次なる敵へと向かう!

 こうすれば地に足を突くことなく移動可能!


 もちろん、それを許すスパイダーではない。

 スパイダーは自分が放った糸をリングロープめいて蹴り、反動を使って突っ込んで来た。


 空中では対応できない、そう思っていたのだろうが甘い。

 アヤノは空中で上体を逸らしスパイダーの一撃をかわし、両肩を掴み腹に足を当てた。

 その場でぐるりと半回転、入り口に向かってスパイダーの体を蹴った。


 スパイダーの体は一度入り口の床に当たってバウンド、体育館の外へと投げ飛ばされて行った。

 アヤノは追撃を放ってきたラッドの体を蹴り、スパイダーを負った。


「さーて、あんたは巣の主なんだろ? あんたがいなくなれば、あいつらはどうする?」


 アヤノの予想通り、体育館に蔓延っていたラステイターたちはアヤノと主を追って外へと出て来た。

 自分の危険は高まったが、しかし体育館に囚われた人々が殺されるようなことはなくなっただろう。

 アヤノは呼吸を整え、構え直した。


 彼女は人死にを良しとしない。

 『桜花の魔法少女』に使われることもあったが、しかし人が死ぬような場面に彼女は連れて行かれなかった。反発すると分かり切っていたからだ。彼女は死を嫌う、虐げられるものを嫌う。だからこうして戦っている。


(さて、どうしたものか。これだけの数……本当に私で勝てるのかな?)


 いままでアヤノが見たこともなほどの数、見たこともないほどの質。

 凄まじい戦力差を前にしても、しかしアヤノは笑っていた。

 狂気を帯びない純粋な笑みを。


(誰かを守るために、あたしは戦える。お爺ちゃん、あたしはやるよ。

 シャルディアだけじゃ、高崎さんだけじゃない。あたしもみんなの夢を背負って戦う!)


 それは、夢を失った少女が抱いた新しい夢。

 二度と折れないという誓いの笑み!


「往生、せいやァーッ! マァァァジカァァァル! パワァァァボォォォム!」


 その時、叫び声が辺りに轟いた。

 あまりの大声量にアヤノだけでなく、ラステイターたちも驚きそちらを見た。

 三階の窓からラステイターが投げ捨てられ、地面にめり込むほどの力で叩きつけられた。

 そして爆発四散。誰もが言葉を失った。


「……パワーボム?」


 そう言ったワリに落ちて来た影はラステイターのものだけだった。

 声の主は少し遅れて地面に降り立った。青いドレスの魔法少女、九児河数多。


「あなたは……『聖剣の魔法少女』!」

「げっ!? あんた、確か『拳鬼の魔法少女!』 何しに来たのよ、こんなところに!

 まさかあんたたちの仕業だっての? 学校の惨状はさぁ!」


 違う、と頭を振りながらアヤノは伏せた。

 スパイダーが放った投網状の糸が空を切り、その先にいたラステイターに絡み付いた。

 地を這う蛇のようにアヤノは走り、スパイダーの顎を蹴り上げた。

 スパイダーの頸骨が粉砕され、そして爆発四散した。


「お爺ちゃんと約束したんだ。みんなを助けるって。だからあたしは戦う」

「お爺ちゃん……? 何だかよく分からないけど、あんたのせいじゃないのね?」


 ふん、と数多は鼻を鳴らし、綾乃の横に並び立った。

 二人で構えを取る。


「足引っ張んないでよ、アヤノ。こいつらぶっ倒して、さっさと終わらせるわよ!」

「うん。こいつらだけで終わりじゃない。だから止まってはいられない!」


 二人は同時に踏み出した。

 そして二人でラステイターを倒した。

 かつての敵同士で。


◆■◆■◆■◆■◆■◆■◆


 藤川美里は校舎裏で追い詰められていた。

 みんなを逃がすために囮になったまではいい。

 ラステイターは他の生徒を無視し、美里の方に一直線に向かって来た。

 問題は、彼女がラステイターを振り切る手段を考えず、反射的に駆け出して来たということだ。


 ここはいま、誰がいる場所からも離れている。

 すなわち、助けは来ない。

 素体級のラステイターばかりだが、しかし生身の人間にとってみれば脅威であることに変わりはない。


 そんな絶望的な状況にあってさえ、美里の目には少しの絶望も浮かんではいなかった。

 彼女の瞳に宿っているのは、決意の光だけ。みんなを生かし、自分も生き残る。

 魔法少女としての力も何も持たない少女だったが、しかし心は誰よりも強かった。


 鋭い鉤爪を持ったラステイターが飛びかかって来る。素早く、鋭い攻撃。

 生身の人間には絶対に避けられない。だが、それでも美里は諦めなかった。

 身をかわす、精一杯。


「この状況にあってもキミは生きようというんだね、美里」


 爪を振りかぶったラステイターが何者かの攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 美里は、攻撃を行ったものの顔をまじまじと見た。

 そこにいたのは、雪沢光真だった。


「あなたは……光真くん? どうして、こんなところに」

「キミを助けに来た。それでは不満かな、お嬢さん(レディ)?」


 光真は芝居がかった仕草で手を差し伸べて来る。

 若干の違和感を覚えながらも、美里はその手を取り立ち上がった。

 いまなおラステイターは、彼らを包囲している。


「さて、キミと話をしてみたいがその暇もないようだ。仕方がないね……」


 光真は神をかき上げた。髪に隠された耳に、小さなイヤリングが着けられていた。


「マギウス・コア? それじゃあもしかして、あなたは……」

「僕はこれから戦う、キミのために。でも、出来るなら秘密にしておいてほしいな」


 光真の体が光に包まれ、そして騎士鎧めいたものが体を包み込んだ。

 その手に握られているのは大柄な長剣。

 『騎士の魔法少女』、ナイヅ。それが彼女(・・)のもう一つの名だ。


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