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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
赤い力と黒の従者
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魔王の実力

 正清たちがバタフライと交戦していたのと、ほぼ同時刻。

 優嶺高校を囲うブロック塀に沿って一台のバンが停車していた。

 第三社史編纂室の持つ武装バンだ。


『現在優嶺高校を中心に大規模マギウス・フィールドが展開されています。

 固有波形パターンから考えて、ロード・アリエスのものと考えて間違いないでしょう』

「ロードラステイターがこれほど広大なフィールドを展開出来るとはな。甘く見ていた」


 須田は苦虫をかみつぶしたような表情になりながらも、自分の非を認めた。

 アリエスの力を甘く見て、慢心して、その結果がこれだ。

 京葉道路脇での邂逅で包囲し、始末しておけばよかったのだ。

 どれほどの被害が出るか、想像するのも恐ろしかった。


「我々は優嶺高校に突入し、ロード・アリエスとの交戦に入る。

 A班は私と共にロード・アリエスの追跡。

 B、C班は分担して学校内に取り残されている人々の救援に当たれ」

「市民の救援は後回すべきでは? ロードの殲滅を優先すべきです」


 提案した滝沢を、須田は睨み付けた。

 歴戦の兵士である滝沢にとってみればどうということのない視線だった。

 須田は幼児に言い含めるように、ゆっくりと言った。


「我々の活動は、人々を守るためのものだ。ロードを殲滅しても人が死ねば意味はない」

「出過ぎた発言でしたね、須田さん。忘れてください、失礼」


 須田は作戦地図を見返し、頭の中で再度プランを練った。

 ロード・アリエスさえ排除すればあとは烏合の衆、殲滅はそれほど難しくないだろう。

 須田を含めた四人でロード・アリエスを倒せるか、という疑問もある。

 それでも、この布陣を崩すわけにはいかない。


 二度と同じような被害者を出すわけにはいかない。

 父を失う子供が辛いように、子供を失う親も辛い。

 同じ悲しみを何度も繰り返すような真似だけは出来ない。


 作戦確認後、須田たちは優嶺高校に侵入した。

 その光景を見て、唖然とした。


 校内はラステイターで溢れかえっていた。地上にはラットはローチと言った素体(プレーン)級が多く、校内では魔人(デーモン)級ラステイターが我が物顔で闊歩していた。これほどまでに大量にラステイターが発生した例は、これまで存在しない。


『須田さん。ロード・アリエスは現在、校庭にいるようです。護衛も確認出来ます』

「作戦通りいくぞ。B班は校内、C班は郊外の救助作業を!」


 須田はヴァリアガナーを抜き、マグスたちは一斉にバスターライアットを発砲!

 脆弱な素体級ラステイターがクズ肉めいた物体となって霧散していく!


 雑多なラステイターを殲滅しながら、一行は進んで行く。

 助けられる人は助けるが、しかし当然ながらすべてを助けられるわけではない。

 突入までのわずかな時間で、救助が間に合わず、見殺しにした人は多い。

 須田はヘルメットの中で唇を噛んだ。


(実に屈辱的だ、アリエス。この報いは、必ず受けてもらうからな……!)


 両手に握った拳銃を巧みに操りラステイターを撃ち殺し、横合いから飛び出して来たものを殴り倒し、須田は進んで行った。マグスたちは互いの死角をカバーしショットガン銃撃によってラステイターを打ち倒して行く。ウィズブレンはシャルディアを越える力を持ち、マグスは基礎スペックこそ劣るが高度な情報連携システムを搭載している。他者の感覚を自分のことのように受け取れるからこそ出来ることだ。


「B班、西口より校内へと突入します。皆さん、ご武運を」

「我々は校外での救助任務を行います。それでは」


 一行は別れて行った。

 校内で、校庭で、銃声が轟く。

 九人で死角をカバーし合えた時とは違う、だが彼らに恐れはない。

 なぜなら彼らはプロフェッショナルだからだ。


 中庭を通り、校庭へ。アリエスは校庭の真ん中で一人佇んでいた。

 須田はヴァリアガナーを連射しながらアリエスへと走った。

 バスターライアットの援護射撃も加わる。


 ロード・アリエスはそれを見ると手を掲げ、魔力フィールドを展開。弾丸を受け止めた。

 須田に抉られた目はまだ治っておらず、白濁した瞳が須田を睨んでいた。


 須田は殆どゼロ距離まで接近し、アリエスに銃身を突き込んだ。

 アリエスはそれを腕で止める。

 この距離で発砲しても、貫通することは出来ないだろう。


「また私の邪魔をするのか。いい加減、うんざりして来たんだよなぁ」

「それはこっちのセリフだ、アリエス。貴様はここで始末する。迷いはない!」


 須田は蹴りを繰り出そうとした。

 だが、その足が何かに掴まれた。

 足下を見ると、土の中から手が生え右足を掴んでいた。

 銃口を向けるが、しかし足下の地面が蠢いた。

 須田は引き倒され、そして引き離された。自分の体が高速で運ばれて行くのを感じた。


「なっ……! これは!」


 突如として体が持ち上げられ、投げ捨てられた。

 空中で体勢を立て直し、着地。

 自分をここまで運んで来たものの姿を須田は初めて確認した。


 一つはモグラのような、鋭い爪とフサフサの毛を持つ怪物。

 一つは巨大なムカデのような怪物。

 モールラステイターとセンチピードラステイターだ。


「しばらくはそいつらと遊んでいてくれたまえ。私はキミのお友達と遊ぶから、さ」


 策に嵌った。須田は直感した。

 アリエスは自分の実力を把握しており、そしてマグスの力をも把握している。

 自分とマグス、その両方を相手にするのは難しいのだろう。


 だが、それを分断してしまえば?

 マグスだけなら殲滅するのもそれほど難しくはない。


「ふざけた真似をしてくれる……! 貴様ら、そこを退け!」


 校庭の端にある野球部のバックネット付近まで須田は運ばれてしまった。ここからではアリエスを狙うことは出来ないし、もし出来たとしてもモールとセンチピードを捌き切ることが出来ない。突破するには、まずこの二体を倒さなければならない!


 モールが鋭い爪を向けて突進して来た。硬い岩盤を貫くほど鋭利な爪、食らえばウィズブレンの装甲であろうともただでは済むまい。須田は突き込まれた爪をグリップガードで弾き、開いた胴体に弾丸を見舞おうとした。だがそれはセンチピードに阻まれる。


 センチピードはラステイターにしては珍しく、人型ではない。大口を開け須田に突進してくる。そこから覗く鋭い牙からは毒液が滴ってきている。須田は身を捻り噛み付き攻撃を回避し、跳んだ。またマグスと距離を離されてしまった。須田はアリエスの方を見る。


 戦いとも言えない、一方的な展開だった。

 バスターライアットでは魔力シールドを貫通出来ない。

 そもそも攻撃が当たらない。


 小刻みなステップによる攻撃をかわし、逆にショルダータックルを繰り出す。胸甲を抉られ一人が吹き飛ばされ、反転し放たれた斬撃でバスターライアットごと装甲が裂かれた。背後を取ったマグスもバックキックで迎撃される。


 一刻も早く向こうに行かなければ。須田はヴァリアガナーを連射し、二者を牽制した。

 だがモールもセンチピードも銃撃をものともせず突き進んで来る。

 強固な外皮に覆われたセンチピードはともかく、モールの方は体にいくつもの風穴が開いている。


 死をもいとわず敵を倒せ、そう命令されているのだろう。

 倉庫での戦闘を思い出す。


 モールが爪を振りかざし突っ込んで来る。それをヴァリアガナーで受け止める。格闘の間に横合いに回ったセンチピードは前足で器用に立ち上がり、全身を持ち上げたかと思うと、体を鞭のように振り回し須田を襲う! 避けられない、直撃を喰らい須田は吹っ飛んだ。バックネットに激突し、人型のへこみが作られた。


「舐めるなよ、昆虫如きが……!」


 センチピードが突っ込んで来る。

 須田は臆することなく、腕を突き込んだ。

 須田の腕がセンチピードの口に飲み込まれ――そしてセンチピードの体が内側から破壊された。

 内部に腕を突き込み、銃撃を行ったのだ。


 無論、攻撃を行った須田自身も無傷ではいられない。

 センチピードの分泌した毒によってガントレットには痛々しい焼け跡が出来た。


 モールは須田の背後に回り、鋭利な爪を振り払う。須田は素早くエクスブレイク機構を発動、しゃがみ込み爪をかわし、バックキックを繰り出した。須田の蹴りがモールの脇腹に炸裂し、モールは爆発四散した。


 呻き、須田は両手を突き息を整える。須田は元々戦闘を得意とはしていない。持ち前の頭脳とウィズブレンの身体強化、そして戦闘AIによるサポートを駆使してかろうじで戦っている。こうした泥臭い戦いは本来彼の得意とするところではないのだ。


 それでも、立ち上がらなければ。

 マグスを助けなければ。


 時間にすれば三分も経っていないだろう、だがその間に勝負は決していた。

 須田が顔を上げたと同時に、マグスの首にアリエスの剣が巻き付き、それを刎ねた。

 振り払われたショーテル刀がマグスの防御をすり抜け、脇腹を抉った。

 背中を向け、撤退しようとしたマグスを伸びる剣が貫いた。


「……お、もうそっちは終わったのかい? こっちも終わったところだよ」

「貴、様ァッ……! よくも、やってくれたな!」

「これはキミの流儀に従ったまでのことだよ。

 キミは僕がどうあろうと僕を殺そうというんだろう?

 ならば僕もそれに従うよ。キミがどうあろうと僕はキミたちを殺す」

「黙れ、家畜如きが!」


 須田は立ち上がり、アリエスに向かって走り出した。アリエスは肩をすくめた。


「まあいい、そろそろ消化も進んで(・・・・・・・・・・)来た(・・)


 アリエスは全身に力を漲らせ、低く呻いた。

 アリエスに向かって突き進んでいた須田も、威圧感を覚え思わず停止する。

 姿形に変化が生じたわけではない。

 しかしロード・アリエスの纏っている魔力の量は。質は。

 これまでと比べ物にならないほど高まっていた。


「さあ、始めようじゃないか。僕たちの……殺し合いをねぇ」


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