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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
桜色の炎
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対立する魔法少女

 『桜花の魔法少女』と名乗った女と、正清は対峙した。

 奇妙な威圧感を持った女だ。


 身長は正清とよりも一回り小さいくらいだろうか。どことなく幼い顔立ちをしているが、アイラインやチークに薄化粧を施しておりそれが美しさを引き立てている。だがそこが、アンバランスな気がした。これくらいの歳の子供なら、化粧はそれほどしないはずだ。


「何が目的だ……!? あのラステイターを放っておくのか、お前は!」


 恐らく、この女が桜色の光を操り、正清の攻撃を無力化したのだろう。

 ならば、その目的はいったい何なのか?

 魔法少女の目的はマギウス・コアを手に入れ、自分の力を高めること。

 ラステイターを倒すことはあっても、逃がす意味はないはずだ。


 パステルピンクの女はクツクツと笑った。

 不相応に大人びた態度だった。


「強くなるラステイターがどんなものか、あなたはご存知ですか?」

「強くなる……? それにいったいどんな意味がある! 質問に答えろ!」

「あまり大きな声を出さないで下さいます?

 それに、気が急いているのではなくて?

 もっと会話を楽しみましょうよ。

 せっかく私とあなた、ここで出会えたのです」


 余裕を保った仕草をしているが、限界だ。

 正清はディアバスターを向け発砲。

 この女とこれ以上話をしていても得るものはないと判断した。


 だが、放った弾丸はすべて防がれた。

 女が手を振ると桜色のエネルギーが彼女の前に展開され、弾丸を絡め取った。

 そして、爆発。衝撃によって弾丸は消滅した。


 呆気に取られている正清に向かって、女は手を振った。

 桜色の球体が正清に襲い掛かる!

 予想外に速いそれを防御することも出来ず直撃を受け、正清は吹っ飛ばされた!


「強くなるラステイターって言うのはね、上手く眠ることが出来(・・・・・・・・・・)る子よ(・・・)

 熊のようにエネルギーを蓄えて冬眠することが出来る子。

 そう言う子だけが肥え太って、私たちにとって美味しい餌になってくれるのよ」

「それじゃあ、劇場での爆発事故はもしかして……!?」

「眠っている子を起こしてあげるには、衝撃と爆発が一番効果的でしょう?

 もっとも、あの場には肥え太った美味しい子はいなかったみたいだけどね。

 まったく、残念だわ。最低でも魔人(デーモン)魔獣(ビースト)くらいじゃなきゃ食いでがないわ」


 この女は、自分が喰らって、肥え太ることしか考えていない。そう思うと、正清の全身に沸々と怒りが湧き上がって来た。立ち上がり、憎悪を込めた目で女を見る。戦いを好まない正清にとって、誰かにこれほどはっきりした怒りをぶつけるのは初めてだった。


「じゃあ、さっきのラステイターも太らせるために逃がしたって言うのか!」

「何を怒っているのかしら? そんなの当たり前じゃない。何を言っているの?」

「その過程でどれだけの人が犠牲になると思っているんだ、お前は!」


 怒りのままに正清は突っ込んで行く。

 女は腕を振るい、桜色の弾丸を放つ。

 命中の直前で、正清はジャンプ。


 弾丸は空を切り、砂利の上で爆発した。

 正清は勢いを殺さないまま、全力のジャンプパンチを女に向けて放った!


 だが、拳が何かに絡め取られた。

 桜色のカーテン、そう気付いた時には遅かった。

 拳が爆発し、正清は再び弾き飛ばされた。


 今度こそ、耐えられない。

 地面に叩きつけられると同時に変身が解除され、傷だらけの生身が露わになった。


(シャルディアの衝撃吸収機構が、正常に作動していない。何て力なんだ……!)

「それがあなたの御尊顔? フフ、見せてくれてありがとう。意外にカワイイのね」


 女の手に桜色の球体が生み出された。

 彼女の顔が、醜く歪んだように思えた。


「でも、私に歯向かうような奴は可愛くないわ。消えなさい、ここから永遠に!」


 桜色の球体が正清に向かって放たれる。

 その大きさはバスケットボール大。

 野球ボール程度の大きさでも行動不能に陥るほどの威力を持っているのだ。

 あれほどのエネルギー量を、それも生身で喰らっては生きていられるはずもない。

 正清は目を閉じた。


「相変わらずのやり方をしているようだな、『桜花の』」


 声が聞こえた。

 何かが飛んできて、桜色の球体とぶつかった。そして、爆発。

 その衝撃は正清に届くことなく、地面に大きなクレーターを穿つだけに留まった。

 何が起こったのかは分からなかったが、女の顔が般若のように歪んでいた。


「お前は……『鮮血の』! どうして、お前がこんなところに……!?」


 正清は腕を突き上体を起こし、後ろを見た。

 そこには黒いドレスを纏った赤髪の魔法少女、ザクロがいた。

 その手には(かしら)が握られている。フィッシュラステイターの。


「ラステイターを殺す、それが私の使命だ。お前はどうなんだ、『桜花の』?」


 ザクロはフィッシュラステイターの頭を投げ捨てた。

 それは急速に風化し、崩壊していった。

 『桜花の魔法少女』は動かない。ザクロの力を警戒しているようだった。


「私の邪魔をする人がいくつもいるとは知っていましたが……あなたもでしたか」

「お前の邪魔をしているつもりはない。ただ、ラステイターはすべて殺す」

「それが邪魔だというのですよ。あなたは力のないラステイターも、一度狩ったラステイターも、すべてを区別なく殺している。魔法少女にとっては、邪魔な存在ですよ」


 二人のスタンスはまったく異なっている。

 自分を強くするためならどんな犠牲でも許容する『桜花の魔法少女』。

 すべてのラステイターを殺すためならどんな手段でも使う『鮮血の魔法少女』。

 その生き方が、決して交わるはずなどない。


「私にとってみればラステイターを養殖しようという貴様の方が邪魔だ。

 それが許容出来ないというのならば……かかって来るがいい。

 私は魔法少女でも全然構わん」


 投げた斬馬刀を回収し、その切っ先を『桜花の魔法少女』に向ける。

 彼女は怯み、一歩後退した。その時点で勝敗は決まっていたのだろう。

 彼女は負け惜しみを言った。


「戦って負ける気はしませんが、あなたと戦ってもメリットはありませんから」

「私のマギウス・コアも食ってみるか? 腐れババア」


 最後の言葉に『桜花の魔法少女』は反応したが、それ以上は何もなかった。彼女はコンテナから飛び降り、死角を通って二人に見えないようにしてここから去って行った。


「……また、助けられてしまったね。ありがとう、ザクロさん」

「あなたを助けたかったわけじゃない。あいつが私にとって邪魔だというだけ」


 それでも、ザクロは手を差し伸べて来た。

 その手を取って、正清は立ち上がった。


「『桜花の魔法少女』はあなたのやり方とは決定的に合わない」

「ラステイターを肥え太らせ、それを食って強くなるなんて二流のすることよ。

 飢えて、鍛えて、そうすればマギウス・コアなんて必要なくなる」


 ザクロは踵を返し、手をギュッと握った。

 中にあったマギウス・コアが砕けた。


「……ねえ、ザクロさん。本当に僕たちは協力することが出来ないのかな?」


 ザクロは謎だらけだ。

 だが、二度命を助けられた。

 彼女は悪人ではない、そう正清は思っていた。

 その言葉に、ザクロはため息一つだけ答えた。


「あまり多くのことに関わらないことね。あなたが守るべきものは、何なのかしら?」


 それだけ言って、ザクロは跳んだ。

 その場に残ったのは正清一人きりになった。




 ザクロとの邂逅を終えて、正清は第三社史編纂室へと戻った。


「ラステイターの養殖か。興味深いね、どんな効果が上がるのやら……」

「ショウもそんなことが起こってるなら呼んでくれたっていいじゃん。水臭いなぁ」

「ごめん、数多。そっちは確か陸上部の練習があるな、って思ってさ」


 ラステイターとの戦いは重要なことだが、だからと言って生活をないがしろにしていいとは思っていなかった。特に、数多には彼女を待っていてくれる人が大勢いるのだ。休みの比だろうが関係なく活動があるのはつらいところだが。


「ところで、『桜花の魔法少女』とやらはラステイターの階級らしきものを口にしていたそうだね? 現役魔法少女から見て、その区分けってどうなのよ?」

「ラステイターにも強さのランクがあるってことです。呼び方は私もよく知らないけど」


 数多は少しだけ記憶を呼び起こすような仕草をして、やがて思い出したように言った。


「まずは素体(プレーン)級、ネズミのラステイターとかあんまり強くない連中です。数が多いけどマギウス・コアはそれほど大きくない。

 次に魔人(デーモン)級、私とショウが戦ってきたような連中ね。ビー玉くらいの大きさのマギウス・コアを持っててそれなりに強い。でも対応は十分可能。

 その上には魔獣(ビースト)級ってのがいるんだけど……」


 数多はごくりとつばを飲み込んだ。

 その時の様子を思い出しているのだろうか。


「かなり、強い。ラッキーがなければあたしも負けてたと思います」

「そんなのを養殖して狩ろうってんだから、結構強いんだろうね。彼女」


 そしてそれさえも怯むザクロの実力とはいったいどのようなものなのだろうか?

 いままで戦ってきた中で、一度も自分の力を見せていないということだろうか?


「『桜花の魔法少女』はラステイターの養殖だけでなく、爆破事件を起こす危険人物だ。彼女を生かしておけば、また市民に被害者が出ることになるだろうね」

「どうにかして捕まえないと……でも、相手が誰かも分からないんじゃ」

「その辺を探す手はある。幸い、正清が彼女の画像を撮って来てくれたからね」


 モニターにはあの時戦った『桜花の魔法少女』の顔が映し出される。

 彼女は何を考え、どんな目的を持ってラステイターと戦っているのだろうか。


 そして、ザクロ。

 彼女は何故、魔法少女となったのだろう。

 何を目指して戦っているのだろう。


 どうしてあんなに……寂しそうな顔をしているのだろうか。

 そんな思いが正清の頭をグルグルと駆け巡って行った。


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