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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
桜色の炎
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魔女のお茶会

 第三社史編纂室にはすでに須田と玄斎、そして数多が集合していた。


「お疲れ、ショウ。呼び出されたから来てみたけど……これ、かなり酷いね」


 数多はモニターの一つを食い入るようにして見ていた。

 それはツイッターに上げられた動画で、煌々と燃える爆炎が映し出されていた。

 あの光景を切り取った動画に息を飲む。


「事態の収拾を警察が行っているが、原因究明をすることは出来んだろうな」

「話すことがあるんだって?

 んじゃ、まずはそれから聞いてみることにしましょうか」


 正清は劇場で見たパステルピンクの魔法少女のこと。

 地下駐車場でラステイターと遭遇し、ザクロと共闘しそれを退けたこと。

 そしてザクロの語った言葉を全員に伝えた。


「あいつ、あんなところにもいたの? 絶対あいつが犯人だよ! ウソついてるだけ!」

「でも、彼女が嘘をついているようには何となく思えない。そうする意味もないし」

「確かに。高崎くんを欺いたとして、彼女にメリットがあるとは思えないな」


 少なくとも、ザクロは正清を一瞬にして打ち倒すだけの実力を持っているのだ。

 そんな相手にウソをついて、どんな得があるというのだろうか?

 パッと思いつかない。

 彼女が自分を生かしている理由についても、よく分かっていないのだから。


「ダイナマイト漁法か、だがどうやってあそこにラステイターがいると分かった?」

「劇場での事件を何らかの方法で知って、それ以外のラステイターが潜んでいると思ったんじゃないでしょうか? 試すだけ損はないと思ったのかもしれませんよ」

「試すだけ損はない、って……! あれで何人もの人が死んだんですよ……!?」


 特に何の感慨もなくそんなことを言う須田の態度に、正清は憤慨した。

 須田の方はうんざりだ、とでも言うように手を振った。

 鋭い視線で正清を見る。


「僕に憤りをぶつけられたって、どうしようもないんだけどな。それに、あくまで一般論を述べたまでのことだ。法律に支配されず、倫理観からも外れた存在にある彼らの思考と行動はある意味単純だ。自分の力を振り回すことに躊躇いがないからね」


 その言葉は数多をも非難しているようだった。

 彼女も身を固くする。


「例えば自分の親を救うために、無軌道に戦闘を行うようになるかもしれない。

 自分の欲望を満たすために人を殺すかもしれない。

 そう言う存在だよ、彼らはね」

「あ、あたしは違う! 頼まれたって、あんなことなんてするもんか!」

「『やらなければキミのお母さんを殺す』とでも言われたら? 見たことも話したこともない他人の命と、肉親の命を天秤に掛けられてキミはそう言えるかな?」


 数多は息を詰まらせ、視線を逸らした。事実、彼女は母親の命を救うために危険な戦いの中に身を投じ、法令に違反するようなことも行ってきているのだから。


「キミたちは人間社会から逸脱した存在であるという自覚を持った方がいい。

 自覚をせずにその力を振るうことは、抜身の刀を持ったまま街を歩くようなものだよ」

「陽太郎、その辺りにしろ。キミも二人に当たっているのではないのかね?」


 玄斎の静かな一喝で、その場は収められた。

 それでも、微妙な雰囲気は漂い続ける。


「このような力を持つ魔法少女に、何か心当たりはないかな? 九児河さん」


 見かねた玄斎は数多には話を振り、話しを進めようとした。

 だが芳しい成果はない。


「どうにも。って言うか、魔法少女の連中ってみんな……

 あたしも含めて一匹狼ばっかりなんですよ。

 ラステイターを倒して手に入るマギウス・コアは一つだけ。

 となると奪い合いになるから、自然と距離を取るようになっちゃうんです。

 だから……」


 魔法少女にとってマギウス・コアは非常に重要なものだ。

 ならばそれを誰にも渡したくない、と考えるのは自然なことだろう。

 魔法少女は自然、徒党を組むことがなくなる。

 最悪の場合、魔法少女同士の争いになる。

 数多とザクロがやったように。


 そこまで考えて、数多は唸った。

 何かを考えて、そして意を決してそれを話しだした。


「でも、噂に聞いたことがあるんです。

 この街には魔法少女の『組合』があるって」

「組合って……何をするんだよ、それは。仕事を斡旋してくれたりするのか?」

「うん。力ある魔法少女を何人も囲って、協力してラステイターを倒す組織。

 それに逆らうものには死の鉄槌を下す、って。

 その名を、『魔所のお茶会』」


 『魔所のお茶会』。

 それはそこはかとない、パワーを感じる言葉だった。


「あ、あくまでも噂に聞いただけですよ? って言うかネットで見ただけだし」

「そりゃ興味深い。ネットに魔法少女コミュニティがあったら是非見てみることにする」

「なかなかバカにしたものじゃないと思うが。自分たちでマギウス・コアを独占することが出来るし、邪魔ものも排除することが出来る。非常に合理的だ」


 そう言えば、と思い正清は先ほど回収したものを須田に見せた。


「そうだ、マギウス・コアと言えば須田さん。ラットからこれを回収したんです」


 正清は極小のマギウス・コアを須田に渡した。

 彼はそれをしげしげと見る。


「不可思議な輝きだ。生きたサンプルが手に入るとは、僥倖だね」

「そんなにちっちゃいマギウス・コアで何をするんです? 変身で消えちゃいますよ」


 やはり、魔法少女にとってこの程度のサイズでは使い出がないらしい。


「どうやらキミたちはマギウス・コアがどのような性質を持っているか知らないようだ」


 しかし、須田は鼻を鳴らしクイクイと指を振った。

 こちらに来い、と言っているのだろうか。正清と数多は大人しくそれに従った。モニターではワイヤーフレームの正多面体が回転していた。かと思うとその内側にメッシュのような構造が出来上がり、輪郭を形作って行った。それはすぐに、正清が回収した、マギウス・コアと同じ形になった。


「これがマギウス・コアの内部構造。

 このメッシュ部分、ここに不可知の魔力を絡め取ってため込んでいるんだ。

 まるで蜘蛛の巣のような感じだね」

「へえ、内側を砕いてみるとこんな感じになってたんだ……知らなかった」

「もちろん、肉眼じゃ単なる結晶体にしか見えないがね。

 で、これの面白い性質がもう一つある。

 それは、魔力を吸収して貯め込む性質を持っていることさ」


 魔力を、吸収する? つまり、それは。


「マギウス・コアが一つあれば、魔力を無限に引き出すことが出来る……?」

「もちろん、内容量に制限はある。だが、時間さえ置けば魔力は使い放題なのさ」


 その事実は、数多も知らなかったようだ。

 興味深げにそれを聞いている。


「キミの身に着けているマギウス・コアも同じような性質を持っているんじゃないの?」

「あー……確かに長い時間休んでると力が充填されているような……」

「って言うか数多。長いこと魔法少女として戦ってきてそんなことも知らなかったの?」

「しょ、しょうがないじゃん! 使い切ったマギウス・コアはもう使えないと思ってたから一々ぶっ壊してたし、それにため込むことが出来るったって用途と合わないよ」


 用途?

 マギウス・コアに魔力補充以外の用途があるとは聞いていなかった。


「プレゼンターは言ってたの。複数の魔力を絡め合わせることで、お前たちの力はより強くなっていくだろう、って。つまり、別種のラステイターの力を組み込んで行けば行くだけ私の力は強くなっていくの。同じラステイターのじゃダメ、ってことだと思う」


 混ぜ合わせれば混ぜ合わせるだけ強くなる、合金のようなものだろうか? もちろん合金はそんなに適当な組み方が出来るわけではないが、概念としては近いだろう。


「混ぜ合わせればそれだけ強くなる、か。興味深い概念だねぇ。

 魔法少女と言うものについて、また少しだけわかった気がするよ。

 ありがとう、数多くん」

「たはは、何か力になれたならいいんですけど……って言うか、私何かしましたっけ?」


 この男は自分たちの理解できる範疇の外にある。

 彼のことを考えるのは無駄だろう、と正清は思っていた。

 彼の方も自分を無視してくれるので、話しが進めやすくていい。


「となると、ダイナマイト漁であぶり出したラットを放置した理由についても分かるね。彼らにとってみれば、ラットは何度も狩った相手。マギウス・コアを回収する必要もなかったから放置した。そう考えると、辻褄が合うよ」

「あの場にラステイターを放置して、どうなるか分かり切っていたはずなのに……!」

「世の中、力を得るためならどんなことだってするって人間はいるものさ」


 須田は何かを検索した。

 ここ数週間の間に起こっている事件記事を探しているようだ。


「同じようなことをしているかも知れない。それらしいものを探してみよう」

「それならあたしたちにも探しようがあるね。頑張ろう、ショウ」

「魔法少女の集団は、もしかしたら危険な思想を持っているかも知れない。

 もし見つけても単独で接触しようとはせず、我々に報告を行ってからにしてくれ」


 玄斎の言葉はいままで以上に緊張感を伴ったものだった。正清は頷く。目の前で彼らの所業を見ていた彼には、どれだけの危険性を持っているかが肌で理解出来た。


 ところが翌日、彼の意志に反して事態は進展していくこととなる。


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