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魔法少女と終末の獣  作者: 小夏雅彦
青の魔法少女
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企業の思惑

 千葉城駐車場での戦いが終わった後、正清はすぐにバンクスターへと向かった。

 幸い、ここでも誰にも呼び止められることはなかった。

 正清の携帯にはひっきりなしにメールと電話がかかってきている。

 学校や、仲のいい友達からの連絡だ。


 だが、いまの彼にそうしたものに関わっている余裕はなかった。

 確かめなければならないことがある。


 ディアフォンは通行証代わりになっており、学生である正清がこんな時間にバンクスターに訪れることを咎めるものは誰一人としていなかった。正清は迷うことなく足を進めていく、第三社史編纂室へと。そして勢い良く扉を開き、彼らを驚かせた。


「高崎くん? どうしたんだい、こんな時間に。学校はどうしたんだい?」


 玄斎の気遣うような言葉を一切聞かずに、正清は須田の方へと歩み寄って行った。


「先生の言う通り、学校に行った方がいいんじゃない?

 戦いだけが人生じゃないよ」

「ラステイターの死骸から出た宝石はいったい何なんですか?

 知っているんでしょう」

「宝石? 何言ってんの、そんなの知らないよ。

 生き物から宝石が出るわけないじゃん」

「しらばっくれないで下さい!

 ラステイターと戦っている、本当の目的はあれなんでしょう!?

 利益がなけりゃ会社は動かない、そう言ったのはあんたでしょう!

 ラステイターと戦うことで何か利益を得られるとすれば、あれしか考えられない!」


 正清は激高した様子で須田の肩を掴み、無理矢理自分の方を向けた。

 須田の方は苛立たしげな様子で正清の手を跳ね除けた。

 意外にも強い力だったが、正清は臆さない。


「彼に知らせた方がいいのは確かだ。隠し事の数だけ、彼の信頼を損ねるだろう」

「別に、彼に信じて欲しいなんて思っちゃいない。知らせる必要がなかっただけです」


 須田はため息を吐いて言った。

 そんな彼を、玄斎はすっと睨み付けた。

 自分が睨まれているわけでもないのに、正清は身を竦ませた。

 彼の厳しさを始めて見た気がした。


「……好きにしてください、先生。

 知っていても知らなくても、戦うことに変わりはないんです。

 だったら、知らなくたって問題ない。そう判断しただけのことですから」

「分かっている。だが、疑問が生じたのならば答えなければならないだろう」


 須田は鼻を鳴らし、再びパソコンの方に向き直った。

 お好きにどうぞ、とでも言っているようだった。

 玄斎はわがままな部下の態度にため息を吐いた。


「座ってくれ。少し長い話になるから、茶を用意しよう。

 リクエストは何かあるかい?」

「いえ、何でもいいです。それより、早く聞かせて欲しいです」


 分かった、とだけ言って玄斎は一度部屋を出てペットボトルの飲料水を買って来た。


「まず、ラステイターがどういう生き物であるかから説明しなければならない」


 ラステイターの生態について、分かっていることは殆どない。

 多くは太陽光の当たらない地中や地下道と言った場所で暮らしており、ほとんど人間と交わることはない。これは彼らが特殊な波長の電磁波を放出する能力を持っており、それを人間が忌避するから、と言うのも理由の一つだ。そして、ラステイターにはもう一つの特徴がある。


「それは、『マギウス・コア』と呼ばれる物体を核として活動しているということだ」

「マギウス・コア? それって、ラステイターの死骸から出てきたあの宝石……」

「あれは彼らの肉体を構成している物質、いわゆる魔力を凝縮して作られた宝石だ。

 核からラステイターが生まれたのか、それともラステイターとなった生き物が核を持つのか、そこまでは分かっていない。だが重要なことは死んだラステイターがあれを放出するということだ。魔力研究への大きな足掛かりとなるだろう」

「それじゃあ……あなたたちもマギウス・コアとやらを求めているんですか?」


 玄斎はゆっくりと頷いた。

 しかし、いったい何のために。それが分からない。


「魔力が我々にとって未知の存在であり、有用であるからだよ」


 正清の疑問に答えを示してくれたのは、意外にも須田の方だった。


「ラステイターは常人を遥かに上回る身体能力と、通常兵器が通用しないという特性を持っている。それは何故か、すべて魔力のためだ(・・・・・・・・・)

 魔力が何らかの形で肉体に作用し、凄まじい身体能力をもたらすと同時に、身を守るバリアとしても機能しているんだ」

「ラステイターの体表には、目で見えないがエネルギーの皮膜が展開されている。それが物理的な干渉を押さえているんだ。銃弾だって奴らを傷つけることは出来ない。逆に、奴らの肉体が音速を越えるようなことがあっても、そのフィールドが衝撃を吸収するために被害をもたらすことがない。彼らの隠密性をも高めているんだ」


 そこまで言われて、正清ははっとした。


「さすがに分かったようだね。

 現状、スターターとして魔力がなければそれらのテクノロジーは使えない。

 魔力を注ぎ続けなければ作り出した物質は瞬時に霧散してしまう。

 だがマギウス・コアがあればそれらの制限はなくなるんだ」


 魔力によって作り出した物質を売り出すこと。

 そのために必要なマギウス・コアを手に入れること。

 それがバンクスターの目的ということだ。


「それじゃあ、あなたたちはお金とか、名誉とか、そんなことのためにラステイターの存在を秘密にしているんですか!? 信じさせることが出来るはずなのに!」

「言っておくけど、僕たちはラステイターの危険性を早くから指摘して来たんだ。

 それでも公開しないのは、スポンサーの意向。僕らに当たられたってしょうがないでしょ」

「それに唯々諾々と従っているなら、結局は同じことじゃないですか!」


 正清は激高するが、須田は何も分かっていないな、とでも言うようにため息を吐いた。


「逆に聞くけど、これがもし政府とか軍需産業とか、あるいは裏社会に流出していたらどんなことになるかって、考えてみたことあるかな? 正清は?」

「えっ……それって、いったいどういう……」

「近代兵器では傷一つ付かない装甲。機械化された軍人を単独で殲滅しうる存在。いかにも軍隊が欲しがりそうなものじゃないか? 魔力のすべてを解明すれば、無敵の軍団が完成する。その力を使って、世界を支配することだって出来るかもしれない」


 須田の言葉は、彼の語り口も合わさって一定のリアリティを持って受け止められた。


「僕たちはね、その防波堤になっているのさ。

 悪意あるものに、研究の成果を渡さないこと。それも僕たちの大事な仕事なのさ。

 バンクスターは秘密を知らせるに値するパートナーだと僕たちが判断した。

 もちろんキミもね。この世界の平穏を、守っていくために」


 須田の言葉を前に、正清は反論することが出来なくなった。

 先ほどまでの覇気がない。


「分かってくれたようでありがたいよ、正清。それで、キミが聞きたいことは以上かな」

「……もう一つ教えてください。あなたたちは魔法少女の存在も知っていたんですか?」


 玄斎は少しだけ気の毒になって来た。

 口論で少年をやり込めようとする須田に、少しばかりの怒りもあった。

 だから彼は、自分の知っていることを正直に教えた。


「魔法少女の存在自体は知らなかった。だが、その存在を予期してはいた。まさかあんな形だとは思わなかったが、ラステイターを狩るものが存在するだろうとは思っていた」

「ラステイターを狩るもの……人間を守る存在が、いるってことに?」

「正確に言えばラステイターの数を調整するものだ。

 ラステイターの数は膨大だ、人間をはるかに凌ぐだろう。

 それが同族を喰らったり、小動物を食べるだけで満足していられるだろうか?

 答えは否だ。にも拘らず人間は襲われない、その理由は……」

「魔法少女がラステイターの数を調整しているから、ですか?」

「現時点ではそうとしか言いようがない。直接会って話が聞ければいいんだがな」


 あの数多が、ラステイターを狩る存在。脅威から人間を守る存在だった。それだけでも驚くべきことだが、それよりも気になることを彼女は言っていたような気がした。


「……魔法少女はマギウス・コアを使って何かをしているようなんです」

「マギウス・コアを? その話は聞いていたが、どうにも見当がつかない」

「やはり、直接会って話を聞くほかありませんね。彼女はキミの知り合いなんだろ?」


 シャルディアの内蔵カメラを通じて話を聞かれている以上、ウソをついても意味はない。正清は正直に答えた。数多が自分にとってどういう相手なのか、ということを。


「キミの友人であるというなら話は早い。もしかしたら直接話を聞けるかもしれない」

「でも、大丈夫でしょうか? 僕、数多に激しく拒絶されたんですけど……」

「紳士的に応対していれば大丈夫さ。キミが生理的に嫌われてない限りはね」


 須田はあくまで飄々とした態度を取っている。まるで他人事だ。

 この男のことはきっと好きになれないだろうな、と正清は思った。


「九児河数多は行方をくらましているんだったな。なら、こちらも捜索に協力しよう」

「よろしくお願いします。話しを聞きたいだけじゃなくて、僕心配で……」

「あの年頃の子は、難しいもんさ。会って話をしてみれば、何とかなるさ」


 玄斎は努めて楽観的な予想を話してくれたが、そんなことで正清の不安は払拭されなかった。


 様々な謎と謎が絡み合っている。

 そんな気が正清にはしていた。


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