寂しく笑う女
そこには女の肖像画が高価そうな額に入れられ、飾られていた。
それは紛れもなくシーラの顔だった。
飢えた野性動物のように冴えたマリッジの感覚がはるか上空からの落下物を捉える。
『お前が、マリッジか…源創…神眼のマリッジ…やっと逢えたぜ…』
『やはり上級闇天処か…それも憑依型だな…まぁ、シーラを滅茶苦茶にしやがるんだからな…』
不特定多数の念から生まれでる闇天処は言葉をまともに話すことができない。
想いを1つにまとめあげることができず、話してもいくつもの声がバラバラになって発せられる。
しかし強い念がある場合、それが他をまとめ闇天処に言葉を与える。
その強い念に引かれ、またいくつもの念が集まる、つまり1つの強い念を持ち言葉を話すやつは上級の闇天処で手強い。
しかも、念が具現化する発生型より、
人、とりわけマリッジたちのように闇天処と闘えるほどの人間を媒介として、それに憑依し出現する憑依型は超強力。
『さっさと降りてこい、このヤロー』
マリッジの“鋭集中”がイカれた重量のように闇天処に襲いかかり、敵は大きな衝撃とともに地面に落下《着地》した。
闇天処の依り代としている長く美しい金髪の美青年にマリッジは見覚えがあった。
かつて一度ともに仕事をしたことがあったのだ。
マリッジたちにはそれぞれが持つ固有時間と呼ばれるものがあり、闇天処にそれを盗まれると憑依される。
言うなれば闇天処はコンピューター・ウイルス、憑依とはハッキングに似ている。
“グズグズしてるとシーラの固有時間まで盗まれかねない”
マリッジの能力は冴えに冴えている。
起き上がった敵が何かしゃべろうとした刹那、マリッジは超速で敵の背後をとる。
振り向く間を与えず、鎌のような鋭い蹴りが敵にヒットする。
『オイオイ、いきなりかい、この金髪に見覚えは…』
マリッジは続く2発の蹴りと昇掌で、敵の臓器、手足を無用のものにした。
とどめを刺そうとした時、敵の金髪が針のように鋭く長く伸びる。
マリッジは仕方なく後方に退く。
『噂以上だぜ、お前…オレも本気でやらなきゃやべえな』
美しく均整のとれた顔が、体が歪み、黒いオーラがあふれでる。
金髪は黒く変形し、その髪の間から角が一本つきだした。