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アズラール戦記  作者: たけお
1章 異世界からこんにちは
3/4

2.孤独世界よ、こんにちは

3話目投稿します。

出来たらすぐに投稿、を心がけていきたいと思います。

 波が押し寄せては返す。

 水の冷たさに和馬が意識を取り戻すと、そこは浜辺だった。

 

「う……どこだよ、ここ……」


 答える声は、どこにもない。ふと空を見上げると、銀色の鳥が悠然と空を飛んでいた。


「な!なんだよ、あの生き物は……。今までに見たことない……ぞ」


 訳が分からない。自分は先ほどまで、日本で最先端技術のシステムチェックをしていたはずだ。なのになぜ浜辺にいる?いや、見たそのままに現実を受け入れたとして、ここは日本なのだろうか。それとも、海外なのだろうか。それすらも、今の彼には、何もわからなかった。携帯電話をポケットから探そうとするが、見つからない。そういえば、職場に行くときに忘れて、家にそのまま置いてきたきりだ。和馬の心にどうしようもない孤独という名の不安がこみ上げてくるのも、時間の問題だった。


「武史、彩夢、花音、須藤主任……」


 誰とも会えない不安を抱えたまま、自分はここで朽ちていくのか。


「わああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!誰かあーーーー!!!」


 不安でおかしくなりそうだった。立ち上がってみる。五体は満足のようだ。普通に歩ける。あの時に起こった、空間が歪曲した現象はなんだったのか。そして何が起きて自分はここにいるのか。和馬にはとても思いつかなかった。それどころではなかった。このまま誰とも会えなかったら、待っているのは餓死である。


「人、人どこだよ……」


 とまれ、当面はこの孤島に住む人を探すしかなかった。元いた場所の目印となるように、浜辺に落ちている木を砂に深く挿しこみ、とぼとぼと歩き始める。今は明け方らしいのか、歩くにつれてだんだんと日差しが強くなり、和馬の体力を容赦なく奪っていく。

 浜辺を沿うように、歩き続けて12時間。夕暮れ時である。和馬の顔は絶望に染まった。以前に立てた木の棒が、目の前にあったのだ。


「ここは……まさか孤島なのか……」


 孤島。つまり周囲は海に囲まれている。無人島なんか珍しくもなんともない。島国育ちの彼は常識の範疇でそういうこともあると知っているが、この孤島に自分以外には誰もいないという絶望には耐えられなかった。周囲を沿うように歩いてきた。ならば島の中心部になら人はいるのではないか。当然だが浜辺と中心地点では高低差があるので、夕方も深まり日が落ちてきたのもあって、明日以降の探索になりそうだ。


「俺はここで死ぬのかな」


 誰に言うでもなく呟いた独り言は、周囲の闇の中に吸い込まれた。きちんとした寝る場所もない。ここで寝るしかない。仕方がないので、地面の堅い場所を探して、横になる。歩き疲れた体に、睡魔が襲ってくるのはすぐだった。



 翌日。

 和馬は島の中心部に向かって歩き始めていた。中心に近づくほど、森が深くなってきており、中腹部分まで進んだところで、少し休憩を取ろうと、座った。

 人っ子1人いやしない。ここまで蚊取り線香のようにぐるぐるとした軌道を描きながら登っているが、誰とも会っていない。喉も乾き、腹も減った。こりゃいよいよここで朽ちていくだけか、と思った。その時だった。

 

「それにしても、なんであそこに誰かの墓みたいな石があるのだろう。墓……」


 ふと感じたことを口にする。墓なんか見つけてどうするとも思った。だが、重要なのはそこではない。


「墓!つまり人がいたことがあるということか!」


 迷わずその墓とおぼしき石へ近寄ってみる。何か文字が書いてある。が読めない。古代ギリシア文字を更に変形させたような、意味の分からない形。ある程度語学にも通じている和馬だが、これは見たこともないような文字だった。解読不能。


 なりふり構っていられないと、墓の石をどけて、その下に何かないか探してみる。すると、小さな金色の腕時計が埋まっていた。和馬は一瞬、ぞくりとした感覚に襲われた。その腕時計は、父が愛用していたものと同じスイス製の時計だった。


 「な……まさか。まさかまさかまさかまさか」


 必死で土をかき分けて、出てきたものは、遺体だった。父の遺体だ。父は10年前、ここで朽ちたのだ。


 「そんな……」


 自分と同じような条件での事故に巻き込まれた父。しかし自分は生きている。そのことから、父もどこかで生きているのではないか。極限状態の中でも、狂いそうになる頭を必死にこらえ、和馬はそんな風に考えていた。わずかだが「父も生きているかもしれない」という希望は灯っていた。だが現実は残酷だ。姿かたち。間違いなくこの遺体は父のもの。


「……!!こんなところで死んでいたなんて聞いてないぞ!バカ親父!母さんはあれから、あれから……失意のあまり自殺しちゃったんだぞ!……こんなところで死んでんじゃねぇよ!俺と花音がどれだけ世間の憐みやマスコミの目に悩んだと思ってるんだよ!ふざけんなああああああああああああああ!」


 涙を流しながら葛藤する。これまでのこと、世間とマスコミに可哀想な奴を見る目で見られ続けた幼少期を思い出す。和馬は確かに父を尊敬していた。しかしそれと同時に、激しく憎んでもいた。幼い花音と自分を残し、父自身どころか母親の命さえも巻き込んだこと。とてもじゃないが、辛い、その一言で済ませられるこれまでではなかったのだ。今の彼には、ただ蹲って泣くことしかできなかった。



夕暮れ時になり、和馬はもうとことん失望して歩くのもやめていた。


「もういいよ、俺はもうここで死ねばいいんだ」


 失意のまま眠りに入ろうとする瞬間。和馬の脳裏に一つの疑問が浮かんだ。


「でも、誰が父の墓を作ったのだろう?」


 和馬の疑問は、そのまま答えとなって彼を起き上がらせた。間違いない、ここには人がいる。その事実が判明しただけで、和馬の気持ちは少しだけ軽くなった。土壇場で「自分は父のように死ぬわけにはいかない、明日は中心部まで一気に行こう」、そう決意した。




 夜が明けて、孤島での生活も3日目。

 和馬は中心部までかなり近い位置まで来ていた。ほぼ、島の中心地点。そこに周囲を森に囲まれながら、一軒のやや大きめの家があるのを偶然にも発見した。おそらくここ数年の間に建った新しい家だろう。レンガ造りの家だ。

 

やはり人はいた。その事実は、疲弊した彼をそこまで歩かせるのには十分だった。


孤島にある森に囲まれた家。人との関わりを避け、隔絶した場所に救いを求める人もいると、この前テレビで紹介していた。おそらくはそういう類の人だろうか。玄関に立ち、ドアをノックする。しかし、体感時間で30分ほど経過しても、返事がない。


「思い切って入ってみるか」


 扉を引くと、「キィ」とドアが開いた。カギはかかっていないようだ。家の中にはソファ、ベッド、テーブル、キッチンくらいしかなく、他には地下に続く階段があるだけだ。地下に続く階段を下りてみる。そこには、数万冊にも及ぶであろう分厚い本の山と、そこに埋もれたように寝っ転がっている1人の美女がいた。くるくるした黒い巻き髪に、耳は上に尖がっていて、おまけに尻尾もある。長いまつ毛の下には、透き通ったエメラルドグリーンの双眸。見てはいけないと思いつつも、その豊かな胸にも目が行ってしまう。


 こちらの存在に気が付いたのか、人間なのかもわからない女性から声が聞こえてくる。


 「○▽××○◇□?」


「え」


 和馬は首を傾げた。こんな複雑な発音をする言語は地球のどこにも存在しない筈だ。

 美女は「ふむ」とでもいいそうな顔で手を顎に当て、床に散らばった本をどけ始めた。そしてある程度のスペースが出来た後、魔法陣のような幾何学模様を、杖を使い描き始めた。驚いたのは、杖でなぞった部分が光り出したことだった。


 1通り終わったのか、美女はこっちに来いと手招きする。その指示に従い、和馬は魔法陣の上に立ってみる。すると突然、和馬の体を緑色の光の粒子のようなものが包み込んだ。和馬が初めて魔術を浴びた瞬間だった。


 「なんだこれ……」

 「やあ、少年。私の言葉がわかるかしら?」


 ようやく。ようやく和馬の孤独な苦しい時間が終わろうとしていた。

 和馬は3日間飲まず食わず。とっくに限界を迎えていた。安心したその瞬間、ばたんと糸がきれたように倒れた。


読んでくださり感謝です。

次の話を投稿したら、1日か2日置きにまた投稿開始します。

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