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アズラール戦記  作者: たけお
1章 異世界からこんにちは
2/4

1.学術と研究に励む日々

2話目を投稿します。

1日1話を目標に頑張ります。

よろしくです。

 諸星和馬の朝は遅い。


「カズ兄、カズ兄、起きて……」


 妹の花音の声がする。しかし和馬が眠りから意識を戻すには声量が絶対的に不足している。柔らかめの甘ったるい萌え声が、更に和馬を眠りの奥深くへと誘っていく。それもその筈、昨日は帰宅後、学校の課題を10分で終わらせた後、午前3時まで和馬が師匠と呼ぶ人物のもとで、とある実験に従事していた。いわゆる、ちょっとリッチなアルバイトだ。


「ねぇ起きてってば。遅刻しちゃうよ?」


 和馬が熱中しているアルバイトは、宇宙開発や宇宙そのものについて研究する会社「ファイブ・オリジン」での仕事だった。現在の和馬が人生の師と仰ぐ主任研究者――須藤明。和馬からコンタクトを取りに行ったのはつい1年ほど前のこと。高校レベルの物理・科学など霞んで消えてしまうくらいの高度な研究をしているところを紹介され、実際に実験を見学し、じゃあちょっとだけやってみる?と促され、参加してみると和馬はどんどん知識を吸収し、「こいつ使えるかも」と須藤をはじめ研究員たちも和馬が働くことを認め始めた。そしていつの間にか研究所の中核を担う研究員になっていた、というのがここ1年の和馬の忙しい日常が生まれた原因なのである。最初から宇宙開発技術者への道を希望していたので、和馬にとってもショートカットできて好都合だったのだ。


「起きろー!うがー!がぶっ」


 どうやら痺れを切らした妹に腕を甘噛みされたらしい。RPGで言うなら攻撃力2くらいのダメージ。適度な圧迫感が、更に和馬を眠りの境地へと誘う。


 そういえば、今日は何か大事な話があると須藤主任が言っていたことを夢の中で思い出す。和馬は目を覚まし、同時に体を起こすことにした。むくり。


「ひゃぁ!」


 和馬に対し馬なりに乗っかかっていた、我が妹という名の小動物がベッドから盛大に転げ落ちた。兄が自分から起きるという我が家始まって以来の歴史的快挙に、驚きのあまり気が動転してしまったようだ。


「大丈夫か、花音。おはよー」

「……」


 反応を示さない妹に、和馬は首を傾げた


「花音?打ち所が悪かったのか?大丈夫か?おーい」

「カズ兄が自分から起きた……」

「まぁそういう日もたまにはある」

「わかった。もう私はいらない子。用済みってことだね……」


 花音は立ち上がると、「いってきます……」とだけ言って学校へ歩いて行った。いつもは割としっかり者の妹だが、必要とされない事が分かると自分に価値は無いと思い込み、途端に病んでしまう癖があるらしい。


「我が妹ながら、相変わらず難儀な性格してるなー」


 とはいえ、そんな繊細な妹の心を案じてばかりもいられない。今日から高校2年の2学期が始まるのだ。用意してあった、チーズがトッピングされたトーストを齧り、ミルクと共に嚥下し「行ってきまーす」と仏壇へ声をかけて、和馬は学校へ駆け出して行った。



「おはよー和馬」

「おう、和馬おっはー」

「おはようカズくん」


 教室の廊下に行くと、同級生たちが朝の挨拶をしてきた。


「おはよう。みんなどうしたの?」


 廊下にはたくさんの生徒がごった返していた。その訳を、一番近くにいた友達――新藤彩夢に聞いてみる。


「学内実力テストの結果が貼り出されているのよ。ほら」


 彩夢が指をさしたほうを見ると、学内順位と点数が貼り出されていた。和馬が通っている高校は都内でも有数の進学校である。皆、勉学にはハイレベルに通じている学校なのだ。だから、結果が気になってしまうのか。この人だかりも仕方がないと思えた。


・3位 新藤彩夢 875点/950点


「おお、彩夢は流石だね、常に上位をキープしてるじゃん」


 同級生たちが彩夢に声をかける。


「4位と50点以上離れているのは嬉しいけど、3位かあ。2位の座は明け渡したくなかったわね」


 彩夢が残念そうな声をあげる。今回のテストはそれなりに難しかったらしい。2位の男子生徒とは3点差なだけに、惜しいとしか言い様がない。


「って2位の男子生徒、武史じゃないか」


・鈴木武史 878点/950点


 彩夢は「奴に負けちゃったか」と尚更残念そうな顔をする。すると、そこへ話題の本人が登場した。


「やっほー!今回は不眠不休で勉強した甲斐があったわ、まさか彩夢を抜き去り2位に浮上するとは。くくく、俺も捨てたもんじゃないな、あっはっはー」


 武史がそう愉快そうに近づいてきたので、彩夢は残念な奴を見る目で武史を見た。


「いや、あんたね、1位にいる人のある意味でバカみたいな点数を見てみなさいよ」

「どれどれ……うはー。やばいな。逆立ちしても学力で勝てる気がしないわー」

「はいはーい、みなさん教室に戻って。ホームルーム始めるわよ!」


 担任の女教師が来たので生徒たちはそれぞれの教室へ戻っていく。武史、彩夢、和馬の3人も教室へ入っていった。教室に入る際、女教師はテスト結果一覧をちらりと見た。いつもと変わらぬランキング。圧倒的なのは、1位と2位の差である。特別に今回は大学レベルの高難度のテストをしたはずなのに、1人だけ全教科満点がいたのだ。


「いつも通りね。ほんと、私たちは彼に勉強を教える必要があるのかしら?」


・1位 諸星和馬 950点/950点



 あっという間に放課後になった。


「今日は部活もないし一緒に帰ろうぜ」


 そう武史が和馬に声をかける。当然彩夢も一緒だ。


「あーすまん、今日もバイトなんだわ」

「バイトって、例の宇宙開発の?」

「そそ。ようやく今のプロジェクトが完遂しそうなんだよ」

「それってもしかして、あのブラックホール生成して異次元へ行くっていう実験か」


 突拍子もない武史の発言に、和馬は思わず笑ってしまう。「それはいくらなんでもないでしょ」と彩夢も笑いながら突っ込む。


「それにしても、最近付き合い悪いぜ?今度飯おごるからさ、どこか遊びに行こうぜ」

「いいね。今週中には今バイトでやってるプロジェクトは大体完遂するから、次の休みにでもどう?あと、僕のおごりでいいよ。みんなとは中々遊べなかったし、たまにはハメを外さないと息がつまりそうだ」

「オーケーわかった。テストの成績を3位まで独占しました会でも開こうぜ」


 その後、武史に対して、「そんないばりくさった嫌味な会もどうなのよ?」という彩夢の抗議の声もあり、クラスで普通に普段話せないことも話すように、もう2、3人ほど暇な人を探して普通に喫茶店で茶会でも爽やかに開こうという話でまとまった。


「それじゃ、そろそろ本当にバイトに遅刻するとまずいから行くわ」

「おう、またなー」

「また明日」


 2人に手を振って、和馬は学校からバイト先の会社へと急いだ。


 巨大企業ファイブ・オリジン。世界でも有数の宇宙開発事業団を経営する会社の総本山。そこには巨額の国家マネーが流し込まれ、将来の世界規模の宇宙開発プロジェクトを一手に引き受けるであろうことは確実視されている。その直轄組織である、本社の最先端技術を開発する「オリジン第一研究室」。そこは和馬がアルバイトしている職場だった。


「遅れてすみません!諸星和馬、ただ今出勤しました!」


 声を荒げて研究施設に到着する和馬。


「お、来たか。どこで道草食っているのかと心配したぞ」

「須藤主任、遅れてしまい申し訳ないです。その後、マザーシステムの稼働状況はどうですか?」


 須藤主任と呼ばれたのは、歳は中年相応の、しかし精悍な顔つきの男性。現在稼働実験中のマザーシステムと呼ばれる次世代型相転移エンジンも、ほとんどは彼が発案・企画・設計したものだ。これは宇宙での実際の移動を目的として作られたものだが、他の分野にも応用していけるものである。その1つとして開発され実験中のマザーシステムは世界でも最大規模の出力を誇る。正に次世代、否、次々世代と言っても過言ではない。そのくらい、今の科学技術と比較すると画期的かつ進歩的なものなのだ。今日は過剰な重力負荷を与えた上でのテストだったはずだ。宇宙では何があるかわからない。人類が宇宙で行動できる範囲は、今はまだ狭いが、今後はこのエンジンによって移動距離は何万倍、いや何千万倍にも増えるだろう。どこで何があるかわからない未知の空間での稼働を期待する以上、一定以上の、もしくは過剰ともいえる重力負荷などに耐えうるのか、万が一にも誤作動はないのかを念入りに調べることは重要なはずである。


「今のところは安定しているね。今日はこれからいったん、稼働を止めるから、動力システムのチェックを中で行ってくれるかい?」

「了解しました。あ、そういえば何か大事な話があると言っていましたが、それは……?」

「チェックが終わった後に話すよ、まずはパパッと点検をやってきてくれ」

「これだけ複雑なシステムですからすぐにはできませんが、わかりました。善処します」


 走り去っていく和馬を見ながら、須藤は「うーん、頼りがいのある若者だねぇ」と呟き感心した。彼はまだアルバイトとして入って1年だが、普通は正社員になるまではどんなに優秀でも雑用しかやらせないのが鉄の掟なのだ。しかし、同僚たちの強い意見もあり、こうして中核に近い部分を担ってもらっている。というのも、彼は知識の飲み込み速度と頭の回転、そして何よりも理論の構築が恐ろしいほど早い。須藤自身が、今の相転移理論にたどり着くまでには10年を費やしたというのに、それを半年で理解し、改良し始めた時は度肝を抜かれたのを今でも覚えている。今日、和馬に話すつもりだった大事な話というのは、要はうちの会社に入社契約しないか、打診をしようとしているのだ。いわゆる青田買いというやつである。優秀な人材はいくらでも欲しいのがこの会社の現状なのだ。


「流石はあの諸星博士の息子さんといったところか。血は争えないな」


 諸星博士。本名、諸星哲也。現代における最高の科学者だった彼のもとで、10年前にも似たような相転移エンジン開発を行ったが、ある重大な事故が起こった。須藤もそのプロジェクトに研究員として参加していたので、今も鮮明に覚えている。システムの点検中は何も問題は無かったはずなのに、起動してもいないのに途端に突如アラームが鳴り響き、プラズマが発生。一瞬にして煙で何も見えなくなる事態となった。煙を室外に排出し、視界が晴れた後、研究員たちはエンジンの内部がごっそり消滅、否、消失しているのを確認した。運悪く、諸星博士はエンジンのシステムチェックを自ら行っている最中であり、一緒に消失したと推測されている。

この謎多き現象は、今でもこの国の上層部の間で盛んに話題に上るという。やれ科学の禁忌に触れてしまったがゆえに起こった悲劇だの、やれ人類では到達できない未知の領域に足を踏み入れた罰だのと、マスコミも騒ぎ立て、一時はこのプロジェクト自体が凍結しかかった。


しかし、須藤は諦めなかった。


 8年間耐えに耐え、ようやく上層部を説き伏せて、再スタートし、プロジェクトの完遂は目の前だ。完遂まで後3年はかかるだろうと思われたが、博士の息子である和馬の協力もあり、予定よりも早く博士の夢であった「地球という惑星以外に生息する生命体」の探索に一歩近づく。実用化まではまだ至っていないが、理論が正しいことは出力の安定度からも窺える。


「このまま何事も起こらなければいいが……」


 何事にも例外は付き物だ。10年前の博士の時もそうだった。やっている事が事なだけに、不安は拭えない。須藤はただ、神にも祈る思いだった。恩師である博士の無念を晴らす。それだけが彼の今までの生きがいだったのだ。


 一方の和馬は、巨大な筒形のエンジン制御装置の中でシステムチェックをしていた。首尾は順調。不具合も見つからない。完璧と言えた。


「父さん、ようやくここまで来たよ」


 和馬が哲也という父親を失ったのは7歳の時だ。当時は何もわからなかったが、父が世間から注目を集める存在だということはおぼろげながら知っていた。哲也という個体が消失したとき、即ち実験が失敗した後、世間から誹謗・中傷に晒され心を病んで自殺してしまった母親を見た時から彼の心はもう決まっていた。父と母の無念を晴らす。彼のプロジェクトの跡を継ぐ。両親もきっとそれを望んでいるはずだから。


「あともう少しで、夢が叶う。もう少しで、父さんと母さんが正しかったと証明できる。僕は人類を送り届けてみせる、あの宇宙の果てまで」


 決意を新たにして、須藤のもとへチェック完了の報告へ行こうとした、その時だった。


「非常警報発令。非常警報発令。内部に不明の高エネルギー反応を検知しました。従業員の皆さんは、直ちに屋外へ非難してください。繰り返します……」


 非常警報のけたたましいブザー音が室内に鳴り響いた。


「な……」


 「なんだって!」という言葉をすんでのところで止め、頭を切り替える。何か重大な誤作動があり、トラブルが発生したことしか現時点では分からないが、おそらく爆発の危険性があるのかもしれない。


 いざ退避しようとした瞬間、和馬の周囲の空間が一瞬にして歪曲した。


「……!!!!!」


 声は出ない。出そうとするが出ない。自分の体まで歪み始め、それなのに意識はある。わけのわからない状況。やがて周囲の空間が黒く染まっていく。


 瞬きするような短い間の一連の出来事の後、和馬の意識は唐突に無の世界へ誘われた。



読んでくださりありがとうです。

なるべく短くしたつもりです。

拙いところだらけですが、今後もよろしくお願いします。


次回から早速、異世界編です。

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