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王女と二人の女王と女子高生 4 テュッティの森

 四方八方から鳥のささやきが聞こえている。とくべつ探さなくても羽を彩った蝶が花にとまる姿がみえる。

 今は昼過ぎだろうか、太陽は真上から森を照らしていた。しかし森の中は木々の庇の下で日差しの勢いはまるでなかった。


 テュッティの森は深い。未だ、どの国も全ての全容を把握していない神秘の森。その森を歩いている男がいる。頭髪はボサボサで口周りの髭はあきらかに数日はそのままといった感じだ。黒い無骨なトレッキングシューズは埃まみれだ。 袖を捲って出ている腕は日に焼けていて、太く・ごつく・ミッシリとしている。元は白だったシャツは大きくはだけていて男の厚い胸元がのぞいていた。


 ドンドモット・ワイヤーだ。

 さきほど“爆弾を背負ったガーゴイル二匹”を倒したドンドモットは森の中を黙々と歩いている。



 (あと2時間もかからないだろう)

 ドンドモットは自分の足に言い聞かせるように呟く。


 ドンドモットが目指しているのはテュッティの森の中の小さな草原地帯、マルット草原だ。


 およそ半径3キロ程の円状に大木はおろか樹が生えていない場所があった。調査が何回かおこなわれたらしいが草は生えるのに樹が育たない原因は不明だそうだ。


 サイスーン共和国のある研究員は土壌の関係で大きな樹が育たないといったそうだが、この草原の中に小さいながらも池があり地下水が溜まっている場所が存在している。其の水質に問題ないとのことなので土壌のせいとは考えづらい。


 ともあれ、ドンドモットが目指しているのは其のマルット草原だった。ちなみにマルット草原はこの辺りの住人や冒険家が勝手につけた名前で正式な名称はないようだ。


 (あそこまでつけば、一息つける。…水もたんまりあるしな…)

 ドンドモットは地下水の溜まった池があるということを知っているようだ。森の中では目立つ場所のため、待ち合わせ場所等に使う旅人や冒険者も多数いるらしい。ドンドモットも過去に何かの用で立ち寄ったのだろう。



 (――!―)

 ドンドモットは魔法の詠唱をはじめる。

 肉体強化と走破系の魔法を自身に掛ける。両手で腰の短剣と背の剣の存在を確認する。

 ――そして走り出した。



 ドンドモットは追手の気配を感じたわけではない。しかし万が一の追手の存在を考えて走り出したのだ。

 (平野ではソコソコ強いと思っているが…この森の中だとやっかいなモンスターがゴロゴロいるからな…)

 とはいえ、ドンドモット・ワイヤーが走り出した根拠というのはある。左後方の遠くのほうで鳥が途中で鳴くのを止めたような気がしたからだ。


 (気のせいかもしれない…確証は無いが…聞き間違いでなければ追手とみていいだろう)

 今は、自分の感が間違いである方を願っていた。


 どのくらい走っただろうか?あきらかに太陽の傾きを感じる。途中、追手を警戒して大木の後ろに回りこみ三回立ち止まることもしてみたが、徒労に終わった。



 ――とッ一瞬ドンドモットは凍りつく。

 (なんだ?どうなっている?どうする?)

 「――!―」

 (魔法波!左後方から!敵!)

 ドンドモットは走っているスピードを更に一段あげると同時に背の剣を抜いた。



 (まずい!まずいな…)

 テュッティの森のマルット草原を目指しているドンドモットは木々を縫うように走る。左後方から一定の距離を保って“なにか”が追跡してきていた。



 (魔法波を放てた…ということは魔法騎士や魔法使い、レベルの高いモンスター…って事だが…)

 ドンドモットは相手を見定める。この森で、このスピードで付いて来る魔法使いもいるだろうが、魔法使い単独なら、抜刀しているドンドモットに近づかないだろう。接近戦で魔法使いが騎士に勝てる要素などまるでないからだ。


 (魔法使いでなきゃあ…騎士か?魔法使いだったら仲間がいるな…モンスターというのもハズせないが…)

 とにかく追手が現れた以上、考えれば考えるほどドンドモットにとって不利な点ばかりが沸いてきた。


 (敵さんにすりゃあ、有利とみたから正体ばらしたんだからな…)

 「――!――」

 左後方の追手が距離を詰めたかと思った矢先にドンドモット目がけて矢が飛んできた。



 “騎士の一瞬の眼”でみれば、矢は二本だった。

 ご丁寧に若干の時間差をつけて射られていて、一本目は普通の矢・二本目は矢全体が緑色に塗られていた。其の矢と同時に、矢が射られた反対方向後方から”何かがドンドモットの背に襲い掛かる。

 カキッカキッ――ザクッ


( 犬…いや…魔狼か…)

 矢は二本とも叩き落とし魔狼は二つに別れて地上に落ちる。其の一瞬の攻防を剣の一振りでやってのけたドンドモットは“流石”というべきか。いや…ドンドモットは逆に相手の手馴れた攻撃に舌を巻いていた。



 (おいおい!オレより場慣れ(戦慣れ)してんじゃね?)

 姿を隠匿し、魔法波からの弓と魔狼の連携攻撃は並みの騎士なら倒されていた可能性すらある。ドンドモットは疾走しながら左側を見る。そこには隠れることをやめた両耳が長い人間らしきモノが距離を保って併走していた。


 背中には短い弓と矢筒を乗せている。長い髪が後方になびいていた。艶の有る髪を尖った耳が掻き分けている。漆黒の肌の美貌は涼しげな表情だ。胸の膨らみがあるのはエルフの女だからだろうか。ドンドモットと眼が合った其のダークエルフは少し笑ったようだ。

 (チッ!余裕かよ!ダークエルフか!)


 ダークエルフは併走したまま、口元に人差し指と中指を添える。

 (不適な笑いの後に…投げキッスってか…)

 ドンドモットの予想は外れた。とはいえ本気で投げキッスとは思っていなかったが…。


 ピィーーーーーー


 ダークエルフを中心に高い音色の指笛が森の中に広がった。

 指笛の音色が森に溶け込んだと思ったころ、突然森がざわつきはじめる。

 (指笛か…意味するところは一つだわな…)

 


 木々の合間を疾走するドンドモットの背を黒い塊が追いかけている。

 先ほどの魔狼のようだ。

1匹、2匹、…5、8…10、20…30……黒い波がドンドモットに迫っていた。


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