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プロローグ1 クレイジー・ワイルドボア

 会社帰りの人が多いのか、車道も歩道も交通量が多い。

 居酒屋の大きな提灯の前で鉢巻をした若い女性二人がチラシを配っている。ラーメン屋の屋台が3台ほどみえて、数人がラーメンを啜っている。

 シャッターの閉まった店の前でロウソクを灯した占い師が水晶を前にして座っている。其の横でシルバーアクセサリーを並べる、帽子を被った兄さんが忙しなく商品を陳列し始めた。




 ひとつのマンションを見上げる男がいた。仕立ての良さそうな黒いスーツを纏っていた。サングラス以外は、どこでも居そうなサラリーマン風の男だ。顔のサングラスと鞄を持っていない事に違和感をもつ通行人が、ときたま男の方を振り返る。この時間に黒いサングラスは必要ないと思うが、かといって注目されるほどの立ち姿でもない。この街では真面目すぎる服装に入るだろう。


 「はいはい!ここネ!それではヨーイスタート!ネ!」


 男の左手はポケットに入っていた。ゴゾゴゾっとポケットの中から銀色に光るものを取り出した。どうやら男はストップウォッチを押したようだった…。






 ピンポーン

 ドアフォンが鳴る。

部屋で二つ目の缶ビールを開けていた小久保リツコは、怪訝そうな顔をしてドアの方を振り返る。

 (めんどくせえ男だな…またエントランスを上手く抜けて来たって訳?)




 ピンポーンピンポーン

 「わーかったあってえの!」

 一人で飲んでいたリツコは、まるで目の前のテレビに聞かせるように独り言を吐きながら玄関に向かう。 今、ドアフォンを鳴らしている訪問者の予想はできていた。

 (何度目よ!行く所なんかないくせに!)

 三日前まで同棲していたアキラがまた来たのだろう。

 (近所の住人の目、世間体というのもあるから今日は泊まらせるか…まあ今日だけなんだからね)

 まんざらでもないような顔でドアノブに手をかける。とうぜん全ての錠が閉まっている事を確認して外を覗いた。



 「――!」

 黒い上下のスーツに黒いサングラスをした男が一人立っていた。リツコが覗き窓から覗いているのがわかったのか、頭を垂れて挨拶しているようだ。

 (なにあれ?!)

 同棲していたアキラが帰ってきたと思ったのだが、ドアの覗き窓から見える男はリツコの知らない男だった。



 リツコはドアから離れ、今度はインターフォンの画面を見る――と…

 (何も映ってない!!)


 もう一度ドアの覗き窓を覗いて誰もいない事と全ての錠を確かめてからリツコはビールを飲んでいた部屋へもどる。

 (なにあれ?明日、管理人に報告するか)

 あやしい人影を一度みかけたからといって分厚いドアと三重の錠とスマホがリツコに安心感を与える。

 (そもそも、また隣のクソガキかもしれないし…)


 ビールを呑んでいた部屋へもどってみると、さきほどリツコが座っていたところに男が座っている。黒い上下のスーツにサングラスをしていた。どうみても、さっきドアの向こうにいた男が此処にいる。


 黒スーツの男はリツコが開けたビールを飲んでいるようだ。

 「あーいただいてますネ、もう最近はカクジツに誰もドア開けないネ」


 (  ――!  )

 「なにあんた!ギャーああああギャーあぁぁぁああ嗚呼」


 男が挨拶中にリツコは大声をあげた。大きな声が響き渡る。

 男は、まるでリツコが其処にいないような態度で缶ビールを飲み、左ポケットから何かを取り出しテーブルに置いた。ストップウォッチだ。

 缶が空になった。

 「うーんビールは良いらしいですよ。というかビール飲んでる人は美味しいネ。こうなんていうかモッチモチね!!リツコちゃん!おかわりネ!」


 リツコはズーッと叫んでいる。男の問いかけに我にかえったのか、叫び続けながらも唯一の出入り口であるドアに向かった。

 「――!」

 ドアノブに手をかけようとした。――ドアに手が届かなかった。ドアの前になにか目に見えない壁があるらしい。

 (さっきはドアノブを握れたのに?)

 「――!」

 リツコは押した。蹴った。肩からぶつかってみたが、みえない壁はリツコをドアに触れさせない。

 ドアもドアノブもすぐ其処に見えるが、手に取れなかった。そしてそれ以上進めなかった。

 (なにこれ!なんなのこれえええ!!)

 「■△○×フ○ジ□ぼぉ○…」




 もうリツコ自身も何を叫んでいるのかわからなかった。

 男は部屋の隅にある冷蔵庫をみつけてビールを開ける。まるでこのマンションの一室に自分しかいないような振る舞いだ。

 「リツコちゃん、シールドですよシールド。矢とかハジくのに人が素通り出来ると思ってるのかネ?おもしろい娘ネ」

 (なに言ってるの?この男?ナニ言っているの?変質者?どうやって入ったの?なに???)


 リツコはテーブルの上にあったスマホを握り操作する。

 「外には聞こえませんよネ!シールド張ってありますからネ。叫んでも無駄ネ。リツコちゃん!アレだけやり込んでいて効果を忘れてるなんてネ、ダメでしょネ!スマホもムリ無理ネ」


 (なにいってるの?ナニイッテルノ?この男?)


 リツコは男に向かって色々投げつけた。ゴミ箱・本・クッション・珈琲カップ…なんでも掴めるモノを投げた。リツコが冷静なら分かったであろうが、リツコが投げたもの全ては男の手前で何かにぶつかって落ちていた。

 「あーーーー嗚呼ーもうネ…リツコちゃんダメダメだよ。もっとこう勇者みたいな人を想像してたのにネ。あなた評価としては一番下のランクネ…もう台無しネ」


 男はテーブルに先ほど置いたストップウォッチを見る。そしていきなり、リツコの両の肩を“むんず”と掴む。男とリツコは向かい合った。


 「いやぁあああぁぁぁああああ」


 強引に両の肩を掴まれたのは初めてのリツコでも、其の力の異様さが直に分かった。万力で押さえつけられているような力が肩に掛かる。

 「チョッと早いけどしょうがないネ。…?…あれ…もしかしてリツコちゃんわたし誰だか判ってない?ネ?」

 リツコをみていた男は横を向き深い溜め息を吐いた。そしてリツコの方をまた見た。



 リツコは泣いていた。そして男をみていた。もう何がなんだかわけわからなかった。男に掴まれている両肩が痛かったが、もう声をあげる事もできなかった。――と、男の顔全体がゆれた。いや…波を打ったと思ったら男の顔は変わっていた。

 (――!)

 「クレイジー・ワイルドボア?」

 リツコの最期のセリフはコレだった。

※重複投稿をしています。

http://atlantis.pink/

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