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光が雲を眩しく貫くと共に、闇に潜める魔の者は、漂う障気を狂気に歪ませた。それは、突如として縋りついていたものが消え失せたような、そんな虚脱感、と言ってもまだ足りない。希望を打ち砕かれる絶望感でも、肉親を失う悲壮感でも、孤独から抜け出せない虚無感でも、その感覚に陥れない。
最早抜け出すことはできない。囚われたという言葉さえあまりに軽い。その感覚は時が流れるほどに深く抉っていく。この空白の数十秒にさえ、一瞬たりとも意識というものが成り立つことは無かった。
我々だからこその、粘つくように纏わりついて、憑き合うように一体となる繋がり。歪だからこそ、解れるどころか絡みついていた。不安定だからこそ、求め合い、融け合っていた。
それをいつも感じていたからこそ、今、その感覚の意味は明白だった。ただ一つの明らかなこと。
消失
頭は真っ白のまま、何色にも染めようとさえ思わない。全ては無意味になってしまった。
我々の意味も、我々の意志も、我々の魔王も…………
暗い闇を覆う魔の者達は、もう理性では動かない。
ある者への怒りを胸に抱きながらも、それぞれが思いを胸に動き始めた。
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闇、ただ暗かった。しかし、暗すぎた。
虚無、何も無い。しかし、生まれた。
意志はない。何か、なんてない。どこにもいつにもいなかった。
それがどうしようもなく不安で、ほんと、どうしようもないのだ。
眠っているのと、何が違かっただろうか。
死んでいるのと、何が違わないだろうか。
流されるまま、命じられるまま、ただただ生きて。
そう、思っていた。そう、だったのに………目が合えば、何故か明るくなっていた。振り返れば、何かしらであふれていた。わからないけど、いつの間にかそうと思うことすらなくなって………
それはきっと、…………のおかげだったのかもしれない。…………と………と…………がいてくれたためでもあったのだろう。だから、…………のせいでは、きっとなかった。それだけじゃなかった。
「こーら、起きなさーい」
響きが穏やかで、心地いい声だ。ずっと聞いていたいくらいの耳触りと音程が頭の中で、鳴っている。
これで起きれるはずがない。
これで起きるべきでもない。
「おーい、へーんたーい、おーきーてーー」
そもそも特に起こす気ないような声色で、眠りを阻害しない程度の囁き声だ、まだ寝ていられる許容範囲なのだろう。
「私、言ったからね。二度、言ったからね。」
だから、甘えてしまおう。
「だから、三度目の正直ね。」
ばっちーーーん
「ぬふぉぉーーーーーー!!!」
それはキンキンに冷えた試験管を、アツアツの鉄板で叩くような衝撃だった。脳内で、右ほっぺたがどんどんどんどん膨らんでいくようなような感じがする。心なしか、視界が狭くなっているような………
あれ、ていうか右目見えてなくね?つーか胸から手が生えてない????あ!!ヤバい、ぽっぺ爆発する!!!!
「どぉ?目ぇ覚めた??」
「どわぁぁあ!!!」
顔の目前に少女の顔が迫り、少年は困惑する。
目の前の少女はしてやったりな顔で心から嬉しそうである。
何だか、憎めない。怒るに怒れない。ズルすぎる。
「はい、ヒール。」
痛みが薄れていくのを感じながら、男は少女の楽しそうな様子を黙って見ていた。相変わらず増える謎に気が滅入りながらも、この少女とのこれからを楽しみに思った。
「なーにぃジロジロ見てんのよ、変態!!あっち向いてて。」
パンッ