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その鮮烈さのあまりに


少女を女性へと大きく成長させる、甘い感触。

初めて恋が実った少女は、生まれてから感じたことのない幸福感を、その華奢で可憐な身体に深く甘く染み込ませる。

満ち満ちて、張り詰めたその思いが、その膨らみゆえに少女に流れる時を加速させる。日々がいつの間にか過ぎ去っていく。


時折すれ違い、弾けとびそうになる理性。


少女は胸の中にある小さな心の、その未熟さゆえに、時に身勝手な程にその人を思い、傷つけ、傷つけられながらも、揺れ動く感情が摩擦しあって、ますます人を想う愛情が熱くなっていく。


想い合う二人だけの狭い世界の中で、揺さぶられ、絞められ、ねじ切られそうになりながら、それは咲き誇るのだ。


口づけを以て。





今回爆発したのは少女の理性と怒りだった。





ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩ



「グフォ!?」

「フフォフフォフフォ!フュッフォウ!?(ウソウソウソ!ウッソォウ!?)」




少女の両腕を吸い込む男の目の力が急に増した。そして顔面から男の両目につっこんでいったのだ。

それだけでなく、男の両目が未だその奥へ奥へと少女の両腕、いや両肩を吸い込もうとしているため、衝突して今もなお口づけが深みを増していっているのだ。少女の顔に驚愕と焦りに染まる。





一方男は、口元の物理的な衝撃に、意識が束の間途切れていた。それに伴い、男の両目に響いていた、抉り、貫き潰すような痛みが弱まる。そして男は寝起きから今も続いているそれを、認識の隅に追いやるようにして、意識を何とか全身に向けていった。

こうして全身の感覚を、特に肌寒さと熱さ、何より、口内の甘いようなくすぐったいようなそれを、ようやく認識し始めた。


そして気づいてしまった。上半身の腹側で生暖かい熱を発している、何か柔らかな感触に。

興奮が産声をあげながら、一つの理解が頭にうかぶ。




そうか!!変態は俺だったんだ!!

今まで目ぇ痛いわ、目ぇ見えないわ、目ぇますます痛くなるわで目以外の感覚に意識がむかなかった。

でもさ、やっぱり……

これはどういうこと!?




結局のところ、彼の意識は完全に目覚めた途端、巻き戻るようにして、再びそれは混乱へと混沌へと向かい、寧ろ悪化することとなった。





何だってんだ!?

キ、キスなんて、そんな…………!?

俺にはまだちょっ、まだほんとーにちょっとだけ早いんじゃないかな!?



男は力強く口元を押し付けてくる少女にかなりビビっている。その精神的な余裕のなさに加えて、目が見えない状況で、どこの誰かもわからぬ少女とキスをしているのだ。男は、その背徳的ゆえの興奮と現実感のなさゆえの夢見心地な感覚で思考を暴走させていく。






キスが……長い!そもそも少女に唇を奪われるなんて、男としてどうなんだ。そもそもキスって男からするもんじゃね?男としてどうよ?プライドずたぼろだわ。……でもまぁ、いいかぁ。……いや、待て待て。てか少女じゃなくて少年かもしれんぞ?俺目ぇ見えてないし。ん?待てよ?そもそも相手が人間かどうかもわかんねぇぞ?喋る怪物かもしれんぞ?怪物に卵か何かうえつけられてんのかもわからんぞ?あ、頭軽くなってきた気がする。ヤバくね?ちょっまじ死ぬくない?……いやでも少女とキスして死ぬなら悪くないかぁ。…………てか痛ぇ!これキスか?ホントにキスか?こんな感触なの?やっぱ怪物!?

うわぁぁ!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!

ヤバい……クラクラしてきた………





男は長時間のキスゆえに酸欠状態になっていた。

思考は覚束ず、意識は宙に浮いていく。


一方少女は、顔を離そうと躍起になっていた。口元から何とか男の顔を離そうと、何度も何度も腹筋を使って、男の身体を押す。しかし男の両目にとってそれは逆効果で、目により近づいた肩はその半ばまで不気味に歪んで吸い込まれてく。

加えて何より今なお、少女の首がその根元の部分が異様にねじまがっているのだ。


「!?」


その様相のあまりの気持ち悪さにたえきれず、彼女は、反射的に背筋に力をこめ、男の顔面から離れるように自らの頭を引っ張った。


そして脳が揺れる。


「ヒハァァアー!(いたぁぁあー!)」

「…………………………………………(いす?………いや、キス。ミス?…………うん、キス。クズ?…………そう、キス。えす?…………いや、エム。)」



少女の身体の下には硬い無機質な床がひろがっている。ゆえに、少女の頭は男の頭の重さもあいあまって、しこたま床にうちつけられたのだ。


その衝撃のあまりの強さに少女はかなり取り乱して、思わず頭を振り回す。首を、腹を、肩を捩らせて、後頭部から頭の中に響く痛みにもがいた。


不意に鼻筋に痛みが走る。


その唐突な痛みを怪訝に思って、少し落ち着きを取り戻すと、口元にひんやりとした冷たさが染みていることに気づいた。

男の目の吸引力により、今まで口元にあった作用点が、頭をふりまわして顎が大きく引かれた瞬間に額の方へ移り、唇が離れたのだ。


「やった!」

「……死す?…………え?、キス。」


少女はやっと目的が達されて、喜びに満たされる。興奮で乱れた息を整えながら、この状況に陥って初めて落ち着き、ようやく終わった地獄に安堵する。


しかし、そんな安心も束の間、少女は全裸の男に覆い被さられていることを思い出す。あの鮮烈なキスのせいで忘れれていたが、そもそもキスすることになったのもこの状況を解決しようとしての不幸である。


未だ問題は解決してないのだ。


というか、問題だらけなのだ。


少女の顔は冷静になったがゆえの恥辱か、男への激しい怒りか、真っ赤に染まっていく。



怒りが爆発する。


「よぉぉくもぉやってくれたわね!!」

「…………好き?…………いや、キス。」


少女の目がつりあがった。


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