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鮮烈な出会い




悲鳴。

鳴り響いていたそれは、僕を安心させるものだった。


あの地獄の最中で、唯一他人と繋がることのできた行為。当惑、恐怖、熱さ、痛み、苦しみ。全身に染み渡り絶叫となったそれらは、皆一様に同じ音色をしていて、人々は共鳴し合った。


目は溶けてゆき、その地獄の様相を更に歪なものにしていく。死は不鮮明に色濃く、より不気味に映し出された。


鼻は押し潰れ、顔に埋まり、死に行く自らの血の香りを苛烈に訴える。自らがゆえに、自らが知らないその匂いは、奇妙にも異様にも新鮮であった。

耳は吹き飛び、ぼろぼろの鼓膜が剥き出しになった。それゆえ、よく絶叫が響いた。恐怖と苦痛で染められた甲高い音は、僕の心の中の不安と安心をない交ぜにした。


口はただの穴となり、地獄に立ち込める悲痛な叫びも死人の魂も出し入れして、何度もその舌に不快な味わいをおいていった。そしてやっと、自らの魂もそこから抜け出た。


それでも悲鳴が鳴り響いていたうちはまだ、幾らかましだったのだ。周りに自分が溶け込んで、周りが自分と同じで、自分と他社の区別がなくるようで、自分が一人の人間ではなく現象の一部のように思えて、楽だった。


狂うことで、僕達は僕達を守っていたのだと思う。痛みの熱さを熱狂に、絶望の苦しみを絶叫にして、向き合わなければならない現実を幻かのように見ていた。



しかし、火は時間とともに急速に消えていった。一つ、二つ、三つと静けさに満ちる空間が生まれていく。静寂は幻を飲み込んでいって、夢から目が覚める苦しさが残りの者を蝕んでいった。


これは紛れもない現実なのだ。生きてる者を懸命に探した。音はもう聴こえない。光も不気味に曲がり、瓦礫と人の見分けもつかない。現実と向き合わされたとしても、何をすればよいのか分からない。


何かをしなくても何にもならないし、何をしてもどうにもならない。死のうとしたって腕は溶けている。歯は崩れている。足も、もうちぎれてしまった。人間は這いずることしかできない。


奇跡的な不運。負の宝くじの大当たり。僕はまだ死ねない。死ぬことが分かっているのに死ねないのはなぜだろうか。世界に、環境に、自殺を許されず、もがくことすら無意味だ。



悲鳴を聞きたくなった。



ⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩⅩ





「いやぁあ!」


その時、俺の心は正義で燃え上がった。

その火は瞼でおおわれた目の中の闇を払う。

俺は、目を見開いて、現実と向き合い、この世の悪と戦うことを誓った。


「どうし、いっったぁ!」

「いやいやいやいやいやぁあ!」


少女は、覆い被さっている全裸の男が目を開こうとしているのに気づくと、反射的にかつ全力で動いた。男の両目に指を突き刺したのだ。しかも両手で。力強い勢いのままにめり込んだそれは、男に強烈な痛みを与えた。




何だこの目の痛み、尋常じゃない!

しかも目を開いているのに、目が見えないだと!?何がおこっている??

俺は今、現実と向き合うことができないということなのか?本能的に世界を見ることを拒んでいるのか?目の中が真っ暗だ。

そういえば何かとんでもないことをわすれているような気が……

ん?中?


「はぁ!?なになになになになに、なにこれ!」

「お嬢ちゃん!無事か!?」

「きっっもぉ!いやぁ!」


少女は突き刺した指が、何故かその目の奥に強く引っ張られるのを感じて、恐怖した。何よりも吸い込まれそうになっている指の部分が不快なほど歪んでいるのだ。


対して、何もかもが手探り状態で焦る中、男は悲鳴をあげている少女を助けるため、まずは状況を整えようとする。




目が見えないので分からないが、どうやら近くに変態がいるようだ。まずいな。声からして、この娘は10歳を越えて間もないくらいだろう。この手の少女へパフォーマンスをする変態は、タチが悪い。まぁ、紳士的ではあるというか、超絶ビビりだから少女の身体に何かされることはないとは思うが……


「うそぉ!何でぇ!どうしてぇ!」

「その反応は危険だ!変態は理屈では動かない!」


変態は無視されるのが一番心に刺さるというのに、対してこの少女は素晴らしいリアクションだ。変態とは、悲鳴を求める存在なのだ。悲鳴こそが、彼らにとって生き甲斐であり、コミュ障ゆえに言葉にならない思いを行動で示し、悲鳴で応えて頂く。それが変態のコミュニケーション。変態にとって今の少女は、変態が変態たらん最たる理由だ。変態のために少女が生まれてきたといっても過言ではない。


「うそぉ!?ど、どうして抜けないのよぉ!」





抜……く…………だと!?何を!?何に!?

ちょっと待て、これはガチでヤバいパターンなんじゃ……!?




「え!?ちょっ……さしこまれてる!?」




俺の目よ!開けぇぇえ!




少女の手は不可解な歪み方をして、手首まで男の目に吸い込まれた。

そして青年が紳士でない変態を紳士として成敗しようと、強い決意をもって目が飛び出すほど瞼を見開いた瞬間、少女の腕は急速に吸い込まれた。それは手首から肘、腕へとどんどん歪ませ、吸い込んで……






少女と男はキスをした。


「フィッファアアア!(いぃっやぁあああ!)」



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