惨事のおやつ
何故、こうなったのか?
僕は何もしていない。人に恨まれるようなことも、人に嫌われるようなことも、一切したことはない。
協調性を何よりも大切にしていた。この世界には人々があふれかえっていて、平凡で、かつ平穏を望む僕の存在なんて、無いに等しいようなものだった。だからこそ、周囲の人間を何よりも大切にしていた。恥ずかしい話だけど、出会いは運命だ、なんてことを今でも心の底から思っている。
そう、運命なんだ。生きていくことは運命の連続で、人生はとても尊い物語なんだ。
今にして思えば、僕はあまりにも楽観的で幸せすぎていた。僕のいた、僕の認識できていた世界はあまりにも小さくて幻想といっても過言ではない。僕は、僕達はあまりに愚かだったのだ。
けれども、僕の運命を知っていたからといって、自分にどうにかできたのかと問われたら、間違いなく何もできもすることもなかった。
世界に、運命に振り回され、虫けらのごとく踏みつけられた。もはや無力感も抱くことはなかった。ただ、目が覚めるような思いだった。
僕は薄れる意識の中、溶けた目を蠢かせて、地獄を目に焼き付けた。
あぁ、地平線まで見えてしまうのか。
高層ビルが建ち並び、車と電車が行き交って、人々が地を埋め尽くすように闊歩していた東京は、全てが消えた、無の静寂と得体のしれないドロとヘドロとで満たされていた。
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それらは一つの円になっていた。一弾の悪魔が産み出した混沌は、あまりに大きく、それでいて不気味な美しさがあった。数多ある世界の光景の中で、その作品は、飛び抜けて神秘的なのだ。少しの歪みもない滑らかで鮮明な曲線、太陽の光を乱反射させ、凍てついた視線のように宙を貫く輝き、そして何よりも大地を染める何か。それは吐瀉物のようでもあれば、生命の源泉のような生々しさを感じさせた。
混沌の中で命が溶けて蒸発していく。命の息吹きは混沌から自由な宇宙へとのぼっていって、とうとうその混沌は純粋な悪意になろうとしている。しかしそんな中、彼の意識は不運にもまだ消えていなかった。
突如、混沌の輝きが、その奥へ奥へと吸いこまれ始めた。光が闇の奥底へとその矛先を向けていく
綺麗な螺旋が描かれ始める。宇宙へ浮かび上がっていたはずの彼は、その渦潮のあまり非道く薄く、しかし馴染むようにして、混沌とともにその奥底の世界へと吸いこまれていった。