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4/19 修正。

 カウンターステーション。軌道エレベーター、ランジット・ブリッジの静止衛星軌道上にあるセントラルステーションからさらに一万四千キロ上空に存在する、軌道エレベーターの錘となる施設だ。この施設が無ければ軌道エレベーターはバランスを失って、最悪地表に叩き付けられてしまう。

 だが、それだけがこの施設の利点ではない。

 カウンターステーションは同高度の軌道よりも高速で移動しているため、地球の重力よりも遠心力の方が強い。セントラルステーションが地上のための事業を展開する拠点なら、カウンターステーションはその遠心力を用いてより遠くへ進出するための拠点となっていた。

 その軌道機駐機施設には、低軌道に比べると大型の軌道機が多く集まることになるが、それでも多くの軌道機を上回る全長八十メートルの全長を誇る漆黒の機体――いや、船体に作業員や観光客の目は釘づけになっていた。

 ステーションの眩い照明を浴びても輝くことのない艶の無い漆黒の外装。平べったい一枚の板のような船体。それはどう考えての民間の大型輸送機のようなコンテナを搭載できるはずもなく、だが世界的に有名なスターイーグル(OF4戦闘機)の俊敏そうな見た目とは一線を画すその威容。

 だが、そんな機体で何が出来るんだ?多くの人が疑問を浮かべてしまう。

 それが、大型エプロンに停止した軌道護衛艦あかつきに対する世間の評価である。

「では、こちらがコンテナ輸送の書類です。受領したら、サインをして自衛艦隊司令部宛に送付してください」

「はい。何から何まですみません」

 白い開襟シャツの制服を着たあかつき副長、副島三佐の説明を受けて、遭難した宅配業者はぺこぺこ謝り倒しだった。さすがにコンテナの輸送までさせたことに気が引けたのだろう。

「いえ。国民の生命財産を可能な限りお守りするのが、我々の使命です」

 宇宙港の搭乗ゲートで、さらりと笑顔で言う。ぽかんとする業者。

 それを見て、副島は思い出したように付け加えた。

「そうそう。事故原因についてですが、原因予測に関しての報告書はこちらで送付します。我々の所見ですと、例の燃料電池。あれがいけないですね。三菱にも問い合わせてみたところ、彼らとしてもそちらの支援に乗り出すとのことです」

「へ?何でですか?」

「欠陥品を載せられて、自分のところの船に泥を塗った落とし前をつけさせるそうです。賠償金も吊り上げられると息巻いていました。だから、例のアメリカの機検業者もまずいですね」

「そうなんですか?アメリカだからいいのかと……」

「いえいえ。彼らは元々NASAの下請けだったり、軍と提携していたり腕はいいんですが、どうしても玄人相手の仕事が多いんですよ。だから、説明不足が多いんです」

「はあ……」

「EVA服も気を付けて下さいね。必ずSSS規格を守りましょう」

「それは、もう」

「はい。よろしくお願いします。地上の車検と違って、ここは色々なサービスが未発達ですから、それなりの準備や予習は大切です。少々高いですが、IHIや三菱をサポート会社にすることをお勧めしますよ。何せ、素人宇宙飛行士が多いのは今や日本ですから、そこそこのサービスが受けられます。そういう人達と交流して、色々勉強してください。……何か?」

 ぽかんとして説明を受けている業者に、怪訝な問いかけをする副島。

「いえ、お巡りさんみたいに色々教えてくれるなって……」

 破顔する副島。眩しいほどの爽やかな笑顔。

「日本のお巡りさんはここにはいませんからね。我々はやれることを、粛々と実行するだけです」

「本当に、何から何まですみません。輸送費用は……」

「要りませんよ。それに公費ですから受け取れません」

 一瞬、涙まで浮かべる業者。

「そんな。ここまでしていただいたのに何もお礼が出来ないなんて」

 困り果てる副島。

「そういう訳にもいかないんですが……、そうですね。では、お願いしようかな」

「な、なんでしょう?私に出来ることなら、何でも!」

 食いつきの良さに、副島は微かに笑みを浮かべる。艦長の秋月から悪魔降臨と呼ばれる魔性の笑みであった。

「それでは、あそこにいる……」

 ちらりと、目だけでゲートから搭乗ロビーに集まって来た人達を指し示す。その数、十人ほど。手にICレコーダーやカメラを持って、低重力下を文字通り飛んで迫って来る。

「あの方々に我々の仕事をお披露目してください。お願いします」

「へ?あ、はい」

「では、これにて失礼します」

 ビシッと敬礼すると副島はゲートを戻り、艦内へ向かった。


「相変わらずいい仕事だな、そえちゃん」

「そうですか?」

 ゲートの奥、あかつきの搭乗口手前に立っていた白衣を着た四十代の三等海佐が声をかけた。衛生長の飯岡薫(いいおかかおる)。医者というよりも、ヒグマのような体躯と目つき。

「おはようございます。生間君と交代ですか?」

「まあな。中継見ろよ、CNNとBBCでは俺たちは英雄だぜ」

 手元のタブレット端末を副島に指し示す。

「でも、相変わらずの民放ですね。今更なんで気にしてないですけど」

「まあな。気にしたって仕方ないのは同感だ」

「それで、補給ですか?」

「ああ、横須賀から補給はここで行なうと命令が来たそうだ」

「ひまわりに行くのかと思っていましたよ」

「ここの方が輸送費は安いからな。というわけで半舷上陸だそうだ。暢が先に当直に就くそうだ」

「了解です。では、自分は引率ですね?」

「この船に、そんなもんが必要なひよっ子はいないと思うが」

 にやりと凶悪な笑みを浮かべる飯岡。あははと爽やかに笑う副島。

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