第9話 執念の1発!
「やめなさい!」
鷹が振り返ると、カオル先生が震える手で銃を構えていた!
鷹は立ち上がってゆっくり近づく。
「撃てよ!撃ってみろよ!お前に人が殺せるか?」
「撃て!」
ボッサンが叫んだ!
しかし、震える両手で構えていた銃の引き金は引けなかった!
鷹は銃を奪い取ってカオル先生をひっぱたいた!
床に倒れるカオル先生!
ボッサンは前を見た!
コンクリートの壁はすぐそこだ!
ボッサンは運転席に駆け込んだ!そして手を伸ばした!
鷹は銃口をボッサンに向けて迫ってきた!
「ハハハハッ!俺の勝ちだ!死ねぇ!」
ボッサンは握っていたサイドブレーキを思いっきり引っ張った!
バスはスキール音と共に急停車!
バランスを崩した鷹は、前につんのめってフロントガラスを頭で突き破った!
首を抜こうともがいていたが、段々動きが遅くなり、頭がフロントガラスに突き刺さったまま動かなくなった。
ボッサンはゆっくりと立ち上がり、子供たちに向かって言った。
「もう大丈夫だ!悪い奴はやっつけた!みんなバスから降りて!」
ボッサンの言葉を聞いて、子供たちは一斉に声を上げた!
「やった~!」
子供たちがバスを降りていく中、ボッサンは運転手の湯尾じいさんの容態を見た。
気を失ってはいるが、呼吸はしていた。
命に別状は無いようだ。
ボッサンは湯尾じいさんを担いでバスを降りた。
バスはコンクリートの壁から3メートルの所で止まっていた。
湯尾じいさんを地面に寝かせていると、パトカーが続々と到着してきた。
園児の親が、子供たちを乗せたまま猛スピードで通過する幼稚園バスを見て、警察に通報していたのだ。
ボッサンは警官の1人に言った。
「救急車を呼んでくれ!」
オッパイが歩いてきた。
「いや~ほんま、もうダメやと思いましたわ」
「危なかったよ」
ボッサンは笑顔を見せた。
カオル先生がやって来た。
「本当にありがとうございました!」
カオル先生は深々と頭を下げた。
「いやいや、当然の事……!」
ボッサンは言葉を切った!
"なんだ!この胸騒ぎは!
何かが違う!今見ている光景に違和感を感じる!
目の前のカオル先生。
その後ろのバス。
フロントガラス……!
奴がいない!"
フロントガラスから突き出していた鷹の頭が見えない!
と、その時、カオル先生の後ろから、血だらけの顔をした鷹が現れた!
腕を上げて銃口を向ける鷹!
ボッサンはカオル先生を突き飛ばす!
鷹は引き金を引いた!
弾はボッサンの腹を貫いた!
ボッサンは膝まずき倒れた!
意識が遠退いていくボッサン……
フロントガラスを頭で突き破り、息絶えたと思われた鷹。ゾンビの様に現れ放った弾丸は、カオル先生をかばったボッサンを貫いた。
尚も警官に発砲した鷹は警官隊に射殺された。
バスの運転手の湯尾じいさんと共に、病院に搬送されたボッサン。
処置が早く一命を取りとめて、順調に回復に向かっている。
湯尾じいさんも意識を取り戻した。
白龍会の殺し屋アイスマンは、鮫島殺しの容疑で逮捕、姫川エリカ誘拐監禁に関わったメンバーも逮捕され、白龍会は事実上解散となった。
姫川エリカの父親、姫川権蔵も買収、嘱託殺人の容疑で逮捕された。
ー東京医科大学病院ー
「おいユオ」
「なにボッサン」
「何でお前と相部屋なんだ?」
「さあね、経費節減なんじゃないの?」
「何か腹立つ」
「生きてるだけでもいいじゃん」
「しょ~がねぇな。我慢してやるよ」
そこへ面会人がやって来た。
トントンッ
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは、花束を持ったカオル先生だった。
「こんにちは。怪我の具合はどうですか?」
カオル先生は、神妙な面持ちでボッサンの様子を伺った。
「あ~、こんなの怪我の内に入んないですよ。唾でも付けときゃすぐ治りますよ。ハハハッ」
ボッサンが笑ってる隣でユオが言った。
「じゃあ僕が唾付けてあげるよ。ペッぺッ」
「バカ!きったね~な!」
カオル先生は2人のやり取りを聞いて微笑んだ。
カオル先生の後ろから女の子が顔を出した。
「あれ?君はたしか、俺を助けてくれた子だよね?あの時はありがとね」
女の子はカオル先生の前に出てきて言った。
「あそこで助けてあげないと、カオル先生にあえなくなっちゃうんだもん」
ボッサンは首をかしげた。
「会えなくなっちゃう?」
女の子はカオル先生に寄り掛かって、上目遣いで言った。
「あえないと、けっこん出来なくなっちゃうから」
「なおちゃん、何言ってるの?この人と私が結婚するっていうの?」
カオル先生はしゃがんで女の子に言った。
「けっこんするよ。そしてね、カオル先生とこのおじさんがね、なおのあたまいい子いい子してくれるの」
カオル先生は赤面しながらボッサンに言った。
「すみません、突然失礼な事言っちゃって。この子時々変な事言うんですよ。気にしないで下さいね」
「だってほんとだもん」
女の子はカオル先生に抱き付きながら言った。
「いや、いいんですよ。ハハハ」
柄にもなく照れているボッサンを横目で見ながらユオは言った。
「おじゃま、かな?」
「バ~カ!なに気を使ってんだよ!ぼさっとしてね~で、先生が持ってきてくれた花を花瓶に差して来いよ!」
「僕も怪我人なんだけど」
「その程度で怪我?笑わせるぜ!そんなのバンドエイドで十分なんだよ!」
「唾で治るボッサンより、僕の方が重症って事ね」
「バカじゃねぇの?何言ってんだろね~、まったく~!」
そこへオッパイとアオイがやって来た。
「ボッサン、もうちょっとボリューム下げてもらっていいすか?廊下の窓ガラスがビリビリいっとったわ」
「ユオ、お前の体に俺の血が入ってんだから、許可なく血を流すんじゃねーぞ」
「オッパイ、いきなりご挨拶だな」
「なんだろな~、許可なく献血も出来ないわけだ」
オッパイとアオイが加わり、更に盛り上がった病室は、怪我人とは思えないボッサンの声が廊下に響き渡り、この後看護婦から注意されるのであった。
ー神倉邸ー
神倉親分は、腹を縫ったばかりだというのに、パジャマ姿でみんゴルに熱中していた。
その後ろで須寿、乃愛、漏守は、パッティングラインであーだこーだと言っていた。
「もうちょい右ですかね」
「いや、そんなに切れないっすね。ちょい左」
「いやいや、も~っと右ッスよ~!」
「あ~もうごちゃごちゃウルサイ!俺はこれでいく。8.5位で。せ~の、どうだ!そのままいけ!……あ~!カップに蹴られた~!モリモリ~!」
「え~?俺ッスか~?」
そこへ一馬が入ってきた。
「失礼します。組長に会って謝りたいって奴が来てますが、どうしますか?」
神倉親分はコントローラーを置いて言った。
「よし、連れてこい」
しばらくして、一馬は青年を連れてきた。
「すいませんでした!」
青年は神倉親分を見るなり、土下座をして畳に頭を擦りつけて謝った。
神倉親分は、青年が自分を刺した犯人だという事はすぐに分かった。
「おい!こっちへ来い!」
神倉親分は低い声で言った。
青年は神倉親分の目の前に来て土下座をして言った。
「どうぞ気の済むまま、煮るなり焼くなりして下さい!」
神倉親分は手を上げると、青年の頭をなぜた。
「間違いは人間誰にでもある。だから間違える事はしょうがない。
大事なのは2度と同じ過ちを繰り返さない事だ!
ここに来るのにも相当の勇気がいったろう。
その勇気に免じて、今回の事は無かった事にしてやる。だが1つだけ条件がある」
「条件?」
青年は顔を上げて言った。
「俺の組に入れ!そしてお前の根性を叩き直してやる!どうだ!」
青年の目から涙が溢れてきた。そして頭を下げて言った。
「ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!そして神倉親分に一生ついていきます!」
「お前、名前は?」
「はい!いけっちと言います!」
「じゃあ、いけっち。とりあえずだ、お茶が飲みてぇから入れてきてくれ。一馬、お茶のいれ方教えてやれ」
「分かりました!」
一馬はいけっちを連れて部屋を出ていった。
2人を見送った神倉親分は、コントローラーを持つと気合いを入れて言った。
「よ~し!次はアルバ狙っていくぜ!」